第51話 昼寝の悪夢

「おはよう!!」


 一斉にその場にいた女生徒全員が顔を向け、一部の男子がオレと認識する。

 そして、その一部の男子が近づいて来た。

 一部の女子もその後に続く。


 でも、多くの者たちは机の上でお勉強をしていた。

 一部の男子とは、もちろん、元田辺中の松村、横山。

 一部の女子とは、元田辺中の加藤と一葉、そして、元一中の早乙女と紫苑だった。


「オッスオッスおっす!」(松村)

「元気そうじゃん」(横山)


「おはよう!」(紫苑)

「カズく~~~ん!!」

 早乙女が抱きついて来た。


「おいおいおい!ちょっと」

 早乙女を引き剝がす。


「うわ~~、お前ら、そういう関係式か、じゃなかった関係か?」(横山)

「面白くないよ、それ!で、香織とはそういう関係なの?」(加藤)

「ちょ、ちょっと、小百合・・」(一葉)


「まあ、恋人だし、これが私たちの挨拶だよね、カズく~~ん」

「えっと、そうだっけ?」

「えっ?そうよね?もしかして、カズくん、もう浮気したの?」

 ギクッ!!


 いや、ギクッっとか、なぜするオレ?


「あのさあ、早乙女、君は大きな間違いをしているぞ!ちょっとこい!」

「あらららら~~、わたし~朝から心の準備が~~、紫苑、あとで話してあげるね!」


「もう、藤堂君も、香織も、まったく!試験前なのに・・・・」


 オレの地獄耳は聞き逃さなかった。


「おい、早乙女、試験前って何?」

「えっ?知らなかったの?担任の先生から報告が無かったの?」


「知らねーよ、で、何?」

「実力テスト、英数国の。でも、カズくんなら大丈夫だよね、中学の範囲だし。だけど入試を受かってるのに、改めてするのって、おかしくないかな?」


「ふ~~ん、まあいいんじゃない。だって、入試問題と違って、多分、広く学習の習熟度具合を見るんだろ?入試問題って、ちょっと問題が特殊な感じなヤツとかあったり、あまり良い問題じゃなかったしな」


「そう?なんか評論家みたいね、そういうとこ。でも、好きよ、そういう所も全部」

 早乙女は、なぜか、顔が赤いし、上目遣いだ。

 何を期待しているんだ、お前は!


「あのな、オレ達って、恋人関係になっただろ?だけど知ってるか?それをあんまり公の場で見せつけるようなことしたら、呼び出し食らって、親にまで迷惑が掛かって、下手すると別れさせられるって。この特進科は、男女のそういうことが厳しいんだぜ。だって、ずっと同じメンバーで3年間付き合っていくんだからな」


「ええっ!!この学校はそういうところが緩いって聞いたんだけど(久美子から)、特進はマズいのね!知らなかったわ、どうしよう!わたし、カズくんに迷惑掛けちゃったね」


「今度から気を付けてもらえたら良いよ。でも、オレ、君のことは、変わらずに好きだから」


「うふふふふふん、でも、これから試験だから、ちゃんとしないと、うふふふふ」


「ああ、がんばろうぜ、もし良い点が取れないなら、恋人解消だな!」


「ええっ!!なに、それ!ひど~~い!!」

「だから、がんばれ!」

「カズくんもね」


 こうして、オレは、何とか学校でのイチャイチャを回避できた、と思う。


 そして、お昼休み。

 オレは、彼等彼女等には目もくれず、いつもの所へ行く。


 今日は、いい天気だ。


 オレはいつものように、弁当を食べると直ぐに横になる。

 すぐに寝るのは良くないらしいが、問題ない。


 微風が吹き、もうすっかり葉桜になった桜の枝が揺れる。

 枝の間から、春の陽光がチラチラと、オレの閉じた瞼に当たり、その目から太陽光線による赤い色と暖かいエネルギーを感じる。


 眼から受け取る太陽光線は、オレの脳の底にある視床下部等を刺激し、オレの神経系やホルモン系の活動と調和を促す。

 人間は太陽によって生かされている生き物だ。

 特に、長らくその活動が謎に包まれていた松果体などは、その太陽光の刺激で活性化し、超人的チカラを産み出す作用があるとされている。


 そんな事は、まあ、この際はどうでも良い。

 ただオレは太陽を感じ、自然を感じ、宇宙と一体に成るイメージをするだけだった。



 そして、オレは夢を見た。



「お前は、紫苑?どうしちゃったのかな?」

「だって、村雨が気持ちよさげに眠ってるから。ちょっと起こしたくなっちゃった!ねえ、あそこへ行ってみようよ!」

 そこは、大きな泉で、オレ達は森の中に居るようだった。


 ここの森も、暖かい日差しに満ちて心地よい。

 陽光が水面に反射して、キラキラ光る。


 その反射光が紫苑の顔にチラチラと差し込み、頬を薄く染めた紫苑がとても可愛かった。


「紫苑、オレ・・」

 彼女の身体を抱きしめ、顔を近づける。

 紫苑は、驚いて目を大きく開けたが、やがて眼を閉じ、そして、オレに向けて顎を突き出す。


「シオン・・・・」

「シン?イヤッ!!」


 オレは、シオンに突き飛ばされた。

 そして、シオンは護道に抱きしめられていた。

 シオンの顔が赤い。


「好きだ、シオン。もう、お前はオレのモノだ!」

「護道君・・・」


 オレは金縛りにあっているように動けなかった。


 二人の顔が近づく。


 その時、ビービービーと、シオンの携帯が鳴った。


「なに、香織?もう、いいところだったのに!」

「なんだ、早乙女か、さっき、アイツともエッチしてきたからな、妬いてるんだろ」


 護道、テメー!!

 声が出ない。

 動けない。

 っていうか、オレはアイツ等に認識されてない?





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