第50話 オレは藤堂一人だ!

 休んで3日目。

 この日も休む。

 目的は、トレーニングと病院だ。


 朝からスペシャルドリンクを飲んで、ランニング、そして、瞑想からのトレーニング。


 オレの身体は、いろいろあったが、健康そのものになった。


 朝ご飯を食べた後、じいちゃんに指導を受けた。


 俺は、脳をより活性化させたり、体をより活性化できるようになった。

 それ以上の事は企業秘密なので言えないが、とにかく能力は向上したようだ。


 それから、昼飯を食べて、精神科医の所へ行く。


 今度のお医者さんは、じいちゃんの肝いりのお医者さんだった。


 お医者さんって言っていいのかどうか?

 白衣を着ていないし、ネクタイもしていない。


 Tシャツ姿だった。

 そのTシャツの胸のところには、きれいな女性の顔がプリントされていた。

 名前は知らないけど、サンタマリアって文字が書いてある。


 誰?


 そっちの方に気を取られていたけど、そのお医者さんの話によると、PTSDは、記憶混濁等の記憶の間違いがあったりするらしい。


 俺が、早乙女と紫苑が小五の時に仲が悪いのか親友なのかどっちかわからなかったのは、本当にそういうことだったんだ。


 だったら、それって、俺が何度も見る映像ってちょっとデフォルメとか記憶間違いとかがあるのかもしれない。


 つまりは、俺の記憶全てが正しいかどうかはわからないと言うことだ。


 そのお医者さんには、オレのそういうフラッシュバックする映像の事について詳しく話した。


 そのお医者さんが言うには、自分を見る人の目が変なものを見るような目だとか、自分を貶めるような発言をされただとかが、よくあるトラウマの内容で、それらは大抵、自分がちょっと脚色したり、盛ったりしている事が多いということだった。


 なら、どういうことになる?


 特に紫苑。

 お前のオレを見る目は、オレによって改竄されたモノなのか?


 違う!

 あれは・・・・どうなんだ?

 確信が持てない。


 だったら、早乙女。

 お前の発言は?


 オレの空耳?

 オレのねつ造?

 オレの勘違い?


 そうかもしれない。


 じいちゃんは、今の彼女達を見ろって言う。

 過去が何であれ、今の彼女達はどうなのかが重要で、それこそが真実だと!


 そうかもしれない。


 でも、オレ、まだ割りきれない。


 いや、そうじゃない。

 今のオレが割り切ってしまったら、そのあやふやな過去を認めたって事だよな。

 

 それは違う!


 それらの過去に対して、明確な対処というか、考え方というか、ちゃんと認識することから始めないとダメだ。


 だったら?


 そういう事なら、オレがそれらに対してとるべき態度が、やっとわかった。


 そうだよ、もうそれらの真実がわからない以上、まずは肯定も否定もしない、しなくていいんだ。


 それは、認めてるんじゃない。

 その事は、心の中にはあるけど、ただ過去の、過ぎ去った事として留めておくだけ。


 それに対しての感情を持っても無駄だとわかったから。


 じいちゃんは無視するとか言っていたけど、オレにはまだそこまで出来ない。


 でも、もうわかった。


 オレ、考え過ぎてた。


 だから、じいちゃんは、一応、考えた事は褒めてくれたけど、でも、言葉を濁したのか!


 そのまま指摘されても、あの時ではわからなかったしね。


「先生、ぶっちゃけオレの場合、どう思います?」

「君は優秀だと聞く。多分、記憶力は良い方だろう。でもね、それはこのトラウマ映像には関係がない、というか、逆にそんな君だから、他の場面とかの映像や音声などの断片的な記憶を繋ぎ合わせたりしている可能性が大いにある」


「じゃあ、オレのあんな映像って、ウソかもしれないって事ですか?」

「ああ、ウソというか、その紫苑さんとかは、君の思うような感じじゃないね。それから、早乙女さんだっけ?これは、特に何かと何かの場面を繋ぎ合わせちゃった感が強い」


「その根拠ってあるんですか?」


「ある。紫苑さんの場合は、君がいつも嫌に思っているのは、彼女の目だよ。彼女の目を見て、君はいろいろと自分を貶める感情を抱く。たしかに、君は彼女のそういう目に出会ったかもしれない。でも、その目から受けるイメージは、いつも自分を蔑むような目だよね。果たして、彼女はそう思っているのかな?いつもいつも、君をそう思っているのかな?ましてや彼女は、君の事が好きだったんだろ?おかしくないか、それって?君の事を今も想っているみたいな彼女が、ずっとそんな目で見るかい?」


「そうですよね」

 そうか、そうだったのか!

 このオッさん、ちょっと変な人だと最初会った時は思ったけど、理路整然と納得させてくれる。


「あの、そうしたら、早乙女の場合はどうなんでしょう?」


「それはね、まず君は彼女が喋っているのを直接見ていない。それから、彼女がしゃべっている相手の顔も見ていない。果たして、声だけで全て判断できるものなのか? それに、君は彼女たちが話すその内容よりも前の内容を知らないか、忘れている。いいかい?話の断片だけを取り上げるとある者を貶めた内容になるのはよくあることだ。それから、その内容に一切の固有名詞が存在していない。唯一、君を指すであろう変態と言う言葉は、果たして本当に君のことなのだろうか? 会話文中に、ほとんど主語が出てこない。それに、明らかに、この会話の文と文の間は無理矢理つなげている感じがする。だから、余計に、文の主語がはっきりしない。 一連の文章ならばわかるけど、明らかに文と文がつなぎ合わせられている。だから、もはや、早乙女さんが君のことを悪く言ったと言う証拠にはならないね!」


 そうだったのか!

 つまりオレの勘違いとかばかりだよ、これは!


 あれっ、だったらオレは村雨だって言っても良いのかな?


 でも、信じてくれないよな?


 まあ、今は言えないけどね。

 護道を倒してからだ、それは!


 オレはこの先生に会って良かったと思った。

 過去の事を考える、ひとつの指針が出来たような気がした。


 家に帰ると、ばあちゃんがケーキを作って待っていてくれた。

 ばあちゃんがケーキを作るなんて、久しぶりだ。


「ばあちゃん一体どうしちゃったんだい?」

「うふふふふ、今日はね、私たちの特別な日なのよ。だからね、ケーキを一緒に食べましょう」


「やったぜ!ばあちゃんのケーキはおいしいから大好きだよ!」


「うふふふふふふ、村雨はあの人に似てきているね」


 じいちゃんが、やがてやって来て、ケーキを一緒に食べた。


 美味しいハーブティーも飲んだ。


 じいちゃんとばあちゃんといっぱい話した。


 オレは、紫苑と早乙女の二人と仲良くなりたい!

 もう、心の障害はない、ことはないけど、また多分、フラッシュバックはあると思うけど、オレはもう大丈夫だ!


 そして、前を向くだけだ!


 そして、紫苑と向き合う!

 とりあえず、早乙女は置いといて、紫苑と向き合う!


 そこからだ!

 紫苑に告白する!

 そして、護道と抱き合ってた真相を訊く!


 まずは、そこから始める!


 早乙女にも、まだ訊きたい事がある。

 それは、この前の護道への応援?だ。


 全部、高校からの事からだ!


 そうなんだ、高校から始めるんだ、お前たちとの関係は!


 オレは、藤堂一人なんだから・・・・。








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