第49話 じいちゃん
休んだ2日目の夜だった。
「カズト!ちょっといいか?」
じいちゃんがオレの部屋に入ってきた。
「カズト、お前またヤバそうな感じか?」
じいちゃんはじじいのくせに、喋り方が若い。
じいちゃんもばあちゃんも結構歳なんだけど、何歳かは教えてくれない。
と言うより、よくわからないらしい。
なんて言っても、この2人は特殊な人だから。
「じいちゃん、オレ・・またPTSDのひどいのが来ちゃった。また学校へ行けなくなっちゃったよ。じいちゃん、どうすればいい?」
「お前なぁ、もうそろそろ卒業できたと思って、高校にやらせたんだけどなぁ。まぁしゃーないか、それだけお前は心の修行をしっかりしなければいけないってこった。そういう運命なんだろうよ」
「運命?」
「ああ、宿命かもしれんがな。お前には、ワシ以上の能力が眠っている。ただ、その使い方がまだお粗末だ。今回のようなトラウマのぶり返しも、そういう事とも関係があるかもしれんな」
「能力の使い方?」
「ああ、それは努力して身に付けるもの。だが、裏技がある。もう基礎は出来てるから、ちょいとそれを今日は、やろうと思ってな」
「じいちゃん、それ、早くやってくれたら良かったのに」
「いや、ものには順序があるからな、わはははは!」
じいちゃんは、最近、家にあまり居ない。
よくわからないが、戦っているらしい。
何と戦っているかは、だからよくわからない。
じいちゃんは、オレの額に手をかざした。
「うん?・・そうか・・・ふん!」
沈黙が部屋を支配する。
「よし、これでよし。後は、パフォーマンスの仕方だが・・ゴホッ・・わりーな。ちょっと疲れたわ。そのやり方は、また今度な。ところで、お前がそうなったのは、今度はなぜだ?最初から言ってみろ」
オレは、高校入学からの事を全部話した。
じいちゃんは、じっと聞いていた。
時々、ニヤニヤしていた。
「お前、頑張ったな!それに、いろいろと考えて、よく悩んだな!エラいぞ!ワシがお前くらいの時、そこまでは考えなかったな。まあ、お前はワシより賢い。それに、ワシよりモテる。早く、孫の顔が見たいものだ」
「じいちゃん、オレの考え、間違ってるか?」
「はははは、なんだ、自信がないのか?ワシは、良いと思うぞ。だけどな・・・まあ、頑張れ」
「えっ?なんだよ、それ!」
「早乙女って子、美人なんだろ?」
「えっ?そうだけど」
「早乙女さん、良い子だな」
「えっ?どういう事?それって?」
「早乙女さんと紫苑ちゃんか?お前、どっちとも上手くやれ!」
「はあ?何を言ってるの?早乙女とは別れるって、言ったよね?」
「別れるな!これ、命令な!それから、お前にもうひとつだけ言っておく!お前、今を大切に生きてるか?今を全力で生きてるか?違うよな?お前は、まだ過去に生きてる!意味わかるか?」
「オレ、全力のつもりだよ!」
「違うな!お前が全力で今を生きているなら、なぜ過去を思い出す?そんなヒマが未熟なお前にあるのか?過去を振り返って、何か得になることがあるのか?PTSDだと?笑わせやがって!そんなクソな事、過去のつまらねー事なんか、今、この時に、関係あるのか?マイナスにしかならん過去なんか要らないよな?おい、どうなんだ?」
「そうか!今を大切にか?そうだよな」
「今が問題なんだろ?生きるって、そういう事なんだよ!今を活かす過去の事なら良いが、今を殺す過去とか、そんなの思い出してどうするよ?お前、勝手に思い浮かんでくるとか言うけど、何度も思い浮かべようとするから自然と思い出してしまうんだろ?違うか、カズト!」
「うん、そうだよ。でも、勝手に思い浮かんだらどうするの?」
「はあ?そんなの決まってるぜ。無視だ、無視!」
「えっ?それで良いの?」
「ああ、オレもそんな事を何度も経験したからな。お前みたいなイジメとかじゃなく、過去の嫌な事が浮かんでくるってヤツ」
「えっ?じいちゃんもか、PTSD?」
「そういう時期もあったって事だ。しかし、その時、その時を全力で生きてるうちに忘れなくても、そんなのどうでもよくなったな。それなんだよ!今がどうなんだって事だ、楽しんでるなら、目一杯楽しむ。苦しんでいるなら、それを乗り越えようと頑張る。お前、やる事ないのか?あるだろ、いろいろと?」
「うん、ある。オレ、親友を作りたい。ホントの恋人を作りたい。部活をしたい。T大に入りたい。君の名前は?を観たい。もっと能力を使えるようになりたい。そして、最後に、じいちゃんを超えたい」
「そうか。だが、君の名前は?は、観るのを止めとけ!」
「なんで?」
「なんでもだ!」
オレは知っている。
じいちゃんがこう言った時は、反論を許さない時だ。
オレは仕方がないので、別の質問をした。
「じいちゃん、紫苑と早乙女の両方と付き合うって、彼女達が許してくれると思う?それに、結婚するのは、一人だけだよ?」
「逆に訊くが、お前、たった二人だけで満足するのか?」
「はい?それ、犯罪じゃないよね?」
「はあ?あたりめーだろ!世の中、いっぱい囲ってるヤツなんか、いくらでもいるぞ」
階下から、大きな声がした。
「あんたーー、ちょっと来てーー!」
「ま、まあ、そういう事だ。明日から特訓な!カズト、頑張れよ!」
「じいちゃんもな!」
「あ、ああ」
「早くーー!」
「はい」
じいちゃんは、階下に去って行った。
あのじいちゃんの命令は、絶対なのか?
そこが大いに疑問なんだが。
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