第40話 カオス

「じゃあ、カズくん、行きましょうか?」

「ああ」


 ああ、シオン達は、既に居ないようだな。

 良かった。


 オレは、もう帰るのかと思ったのだが、違った。


 近くのカフェに入って、さっきの映画の感想を言い合った。


「最後、なんでシンは、あの魔獣の森に居たの?」

「あれはね、シンがあそこへ行く前の話があるのよ」

「やっぱり!どんな話?」


「それはね・・・・・・・」


 こうして、早乙女からこの映画の情報をいろいろと得た。


 アニメと全く同じにはならないらしいことがわかったが、それでも比較したりして、純粋に映画を楽しめないのでアニメは見ない事にした。


 そして、早乙女に、ついさっきのシオンに対する疑問を訊く。


「君の親友の白藤だけど、護道と仲が良いだろ?中学の時から、アイツ等、付き合ってるのか?」


「えっ?そうね・・・どう言えばいいのか。親友だから言えない事ってあるのよね。ごめん、カズくん。直接、紫苑から訊いて。紫苑は私にも詳しくは話さないから、私の憶測で言っちゃうと私の勘違いってこともあるし」

 なぜか歯切れが悪い。


「そうか・・でも、恋人なら、隠しっこは無しだぜ。その・・オレ達だけが楽しくやってて、君の親友が不幸になってるとかだとイヤだからね」

 ちょっと、恋人という殺し文句を使って、問いかけてみた。


「うえっ!・・それって、私達・・もう恋人ってことだよね。その、私で良いの、カズくんの彼女?」

「えっ?もちろんだよ!なんだ、オレ、もう恋人だと思ってたんだけど」


「えっ?それ、ホントに!!うれしいいいい!!」


「オ、オレもうれしいよ」

 なんだ、簡単に、恋人になっちゃったよ?


 いいのか、これで?


 いいんだよな、これで。


「わたしね、その、わたしね、男の人と付き合うの、初めてなんだ。前にボーイフレンドがいるとか言ったの、ウソなの。あの時は、その、イケメンのカズくんに嫌われないように、ミエを張っちゃったの。ごめんなさい」


「いや、そんな事、気にして・・・たけど、いいよ、もう」

 気にしてないとか言うのは、ちょっとな、実際気にしてたし。


「気にしてたんだ!でも、カズくんは、モテたんだよね。いっぱい告られてたって聞いたんだけど」


「ちょっとはね。でも、オレ、心を病んでたから、恋とかムリだったし。余裕が無かったっていうか、恋とか愛情とか、そういう感情が枯れてたっていうか、そもそも女子と話すのが怖かったし」


「ええっ!!なんで?何かあったの?あっ!ごめんなさい、言いたくないよね、心の事だもん。・・カズくん、たぶん、いえ、絶対にカズくんは悪くないよ!その女が悪いから!その女、教えてくれたら、わたし、文句を言いに行ってあげるから!こう見えても、わたし、強いから!」

(カズくん、絶対に変な女に酷いことされたんだよね、優しいカズくんのことだから、絶対にそうよ!許せないわ、その女!可哀想なカズくん)


「ありがとう、なんかごめんな。オレは、もう大丈夫だから。だからこうして、君と話す事が出来てるんだろ?それに、覚えてる?早乙女とオレ、最初に話しかけたのは、オレの方だからな、ちょっと勇気がいったけど」

 なぜ、女が関係してるってわかった?

 早乙女の、時々発揮されるカンは、怖いな。

 しかし、あの時は、ホントに勇気を振り絞ったからな。

 お前に、その酷い事した一人であるお前に話しかけるの、ホントに勇気を出したんだからな!


「そうよね、だったら」

 そう言って、早乙女は立ち上がると、オレの横へ座り、オレの頭を撫でた。


「えっ?は、恥ずかしいから」

 オレは、彼女の手から逃れようとすると、彼女はオレを抱きしめた。


「頑張ったね、カズくん」

 彼女は泣いていた。


「・・・ごめん・・」

 なぜか、オレの口から出た言葉は、謝罪の言葉だった。


 彼女の身体は、とても柔らかく、そして、彼女からは良い匂いがした。

 優しい匂いだった。

 母さんが抱きしめてくれたら、普通の優しい母さんが抱きしめてくれたら、こんな匂いがしたんだろうな。


「カズくん、泣いてるよ?うふふふふ」

「君が泣くからさ・・もらい泣きってやつだよ」

 オレ、泣いてたのか?


「なぜ・・なぜ謝ったの?」


「それは・・・・」


 オレは、全てを、洗いざらいブチまけてみたい気になった。



「オレ、女性に抱きしめられたのも、頭を撫でられたのも、ばあちゃん以外だと初めてだから。オレ、両親に捨てられたんだ、小学生の時、だから」


「ええっ!!・・ごめんね、もういいの、もう言わなくていいからね。ごめんね、わたし、辛い事、思い出させちゃった、ごめんなさい」


「いいよ、君こそ、謝る必要なんか無いから」

 えっ?

 オレ・・待て待て待て!

 早乙女の行動に騙されるところだったぜ!

 あぶない、危ない!


 謝る必要がない?!

 何を、ふざけた事、言ってるんだ、オレは!

 コイツとは、偽の恋人!

 騙されるなよな、オレ!


 予定通りだ!

 予定通り、コイツの恋人になれたんだ。

 これから、もっとオレの事を好きにさせて、そして、バカップル絶頂期に、衆人の前で、お前をフッテやる、お前を貶める何かを掴んで、それをブチまけてな!


 オレは、そっと、早乙女の手を解き、ニコリと笑った。


 たしか、映画のシンが使ったワザだな!


「ほら、涙を拭いて。君の可愛い顔が台無しだよ」

 決まった!


「・・いつも、そんな調子の良い事言うんだもん。カズくんて、女の子を落とすのが天才的ね。でも、そういう事は、わたしだけに言ってね。カズくんの彼女のわたしに、ね?」

 あれっ?

 そうくるの?


「・・ああ、もちろんだよ」


 女って、やっぱコワッ!

 いや、早乙女が怖いのか、これ?

 そう言う早乙女の目は、真剣だった。

 女って、こうもコロコロ表情が変わるもんなんだな。



「あのさぁ、早乙女、その」

「あっ!そうだ!もう香織って呼んで欲しいかな、恋人だし、私たち」

 きたー!

 コイツの得意技、上目遣いのお願い!


「えっ?でも、やっぱ、そこは早乙女かな」

「なんでよ!そこは、」

「早乙女、さっきから、周りの人達の注目を浴びてるんだけど」


 早乙女は、ちゃっかり、オレの横に座り続けていた。

 そして、絶妙に、左ムネが当たる。

 いや、それはいい。

 あの抱きついて来て泣いた時から、周りがガン見してきたし!

 おまけに、オレも泣いているという、まさにカオス!


 オレ達は奇妙な動物になって、見物されているという状況から、その打破を図るため、場所を変えた。






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