第41話 恋の味

 外へ出ると、夕焼けが綺麗だった。


「もうこんな時間?」

「どうする、早乙女?」

「うん?どうするって?」

「もう帰らないと、ヤバいんじゃね?」

「私の両親は、私のこと信頼してるから、門限とかないよ。でも、ちょっとラインするわね」

「オレも、メールとラインしとこうかな。ちょっと食べるよね、これから」

「そうね、食べよっか!」


 オレ達は、最初に入ったカフェに行った。

 このカフェ、夕方とかは、お酒も洋食も提供される。


 そこで、オレ達は「恋人の愛情ワンプレート」AとBを注文した。

 恋人になった記念にって、早乙女が譲らなかった。

 量が少なそうで嫌だったオレは、追加でナポリタン大盛りを頼んだ。

 早乙女は、なぜか、まあ!って言って、頬を赤らめた。

 はあ?

 どういうこと?

 そこ、頬を赤らめる必要があるのか?

 またしても、ナゾの生物になってる。

 わからんぞ、コイツの思考回路が!

 まずは、コイツのそういう所を学習しないとな。


「おいしいね、恋人の愛情!」

「ああ、うまいな(少ないけど)」

「これ、ちょっともらうね!パックン!」

「あっ!!何だよ、それ、楽しみにしてたヤツ!」

「いいじゃん、恋人なんだから」

「えっ?そうか、オレ達恋人だからな・・・」

「お詫びに、これ、あげる」

「それは!!」

「はい、あ~~ん」

「あ~~ん!!おいしい!」

 いいのか、食べかけのミニハンバーグ、オレ、食べちゃったよ!

 これが、恋人プレイか!!

 ちょっと、やらしいぞ!!


 こうして、恋人の愛情を食べて、オレは、次にナポリタン大盛りを・・・早乙女と分け合って食べた!!

 おいっ!

 お前も食べるんかい!

 とかは、言わない。

 だって、恋人なんだから。

 時々、あ~~んもやっちゃう!

 だって、恋人なんだから!

 二人で、一つのメンを口で綱引きしながら食べてみる。


 おまえ、やらしいな、おい!

 とか、言わない。

 だって、恋人なんだから!


 恋人プレイに、早乙女は顔を真っ赤にさせている。

 オレも、たぶん、顔が赤い!

 いいじゃないか、恋人プレイって!

 バカップルって、最高なんじゃね?

 オレは、こんなにラブラブな事とか、経験も知識も無かったし、だいたい、こんなことをするとか、考えたことも無かったから・・・楽しかった。


 恋人か・・・どうせ、偽の恋人だけどな。

 早乙女が、オレが村雨と知った時、この恋人ごっこは終わる。

 だから、もう、さっき全てを言おうとしていた、あのようなマネはしない。

 それに、コイツを、このオレを信じてるコイツを、オレは裏切るんだよな。

 オレは・・・そう決めてるし・・そうしないと・・そうしないと・・過去に決別できないよ!


 決別・・・ホントに、できるのか、オレは?

 決別・・・しなくちゃいけないのか、オレは?

 護道となら、いくらでも叩きのめせる自信はあるが、コイツを、恋人になって喜ぶコイツを、オレはホントに裏切るのか?

 裏切って、コイツを貶めて、そしてコイツを、オレは笑えるのか?

 騙されるのがバカだと言って、コイツの笑顔に向かって、笑って言えるのか?


 それは・・・・・・・。


 それって、護道がオレをハメたのと同じことなんじゃないのか?


 オレが護道と同じ?

 そうだ、同じになるってことだよな?

 それでも良いのか、オレ!


 オレのことをそんなに知らないのに、オレのことを信じてるコイツを、この笑顔のコイツを、オレは裏切れるのか?

 それって、楽しいのか?


『楽しんでるか、カズト?』

『ああ、まだ、高校始まったばかりだけど、結構面白いよ』

『そうか、中学と小学校時代の分まで、楽しめ!お前にはその権利があるし、お前には、それが必要だ!とにかく楽しめ、カズト!』

 じいちゃん、オレ、楽しくないことをしようとしてるのかも・・・。


『高校生活が私には、一番の想い出ね。カズトも、たくさん楽しみなさい!』

『ああ、もちろん、そうするよ』

『おじいさんとは、高校生からちゃんと付き合いだしたからね~。おじいさんは覚えてないだろうけど、私のこと、大好きだって言って、なぜか、涙を流して告白してくれたわね~。私も好きって言ったら、おじいさん、何て言ったと思う?』

『えっ?わかんねーや。じいちゃんのことだから、オレに一生、メシを作ってくれとか、言ったんじゃないか?』

『・・うふふふふふ、血は争えないわね~~、うふふふふ』

『だから、答えは何だよ、ばあちゃん?』

『うふふふふ、それは・・・秘密だよ。おじいさんとの二人だけのね』

『なんだよ、それ!』

『お前も、そういう人を見つけなさい!高校生活がもっともっと楽しくなるから』

『ああ、そうするよ。恋人が出来たら、秘密をいっぱい作ってやるから、ばあちゃんには教えないからな!』

『うふふふふ、楽しみにしてるよ、うふふふふ』

 ばあちゃん、オレ、恋人ができた・・・だけど・・オレ・・・・・。


 オレは、間違ってるのか!!

 じいちゃん、ばあちゃん、オレ、間違ってるのか!!


 早乙女が、お腹一杯って、笑った。

 口の端に、ナポリタンのソースが煌めく。


 早乙女、オレ、オレは・・・・・・。


 オレ、お前にウソをついてる。


 ごめんよ。


「ちょっと、トイレに行ってくる!」


 オレは、席を外した。


 これ以上、早乙女の笑顔を見てたら、泣きそうだったから。

 なぜ、涙が出そうになったんだろう?


 オレは、自問自答を繰り返しながら、トイレで頭を冷やしていた。

 鏡を見ると、オレの口の端にも、ナポリタンのソースが、早乙女と同じところについていた。


 オレは、そのソースをベロでペロッと舐めた。


 恋の味がした。


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