第35話 君の名前は?

「きゃっ!!」

「うわっ!!」


「えっ?しんちゃん!!」

 真一くんは、私を庇って死んじゃいました。


 全部、私が悪いんです。


 クラスの有志による真一君を偲ぶ会があり、私はそこに出席しました。

 みんなでジュースで献杯をした時に、急に辺りが真っ白になり、気を失いました。


 そして、私を含めクラスの何人かが異世界へ転移したのでした。


 ~~そして、主題歌が流れた。


「この歌、良いよね!」(早乙女)

「そうだね」(オレ)

 

 ハッキリ言って、良いのか悪いのか、オレにはピンとこなかった。

 だが、彼女が良いんだったら良いんだろう。


 この映画は、大人気アニメの「君の名前は?」の実写版だ。


「ヒロイン、この子に決まって良かった。ハマリ役だよ、絶対!」

「うん、そうだね。でも、君の方が可愛いな」


「もう、そう言うの、反則だから・・・えへへへ」


 早乙女は、小学生の時は、笑う時にも、なんかポーズをしているというか、意識しているというか、そんな感じで、うふふふとか、ふふふふとか、ほほほほって感じだったけど、これが多分、に近いのかな、そんな感じがした。


 そして、笑った顔は、やはり可愛かった。

 あんなことがなければ、オレは、この子を好きになってたんだろうな・・・いや、あんなことが無ければ、今、こうして早乙女と一緒に映画とか見てないし。

 いや、たぶん、オレのこの顔にだけ、早乙女は惚れているんだろう。


 オレの本性を知れば、特に、オレがあの変態の村雨だと知れば、手のひら返しなんだろうな。


 映画館の暗さは、オレを暗い思考へ導くのにはもってこいの場所だった。


 ~~~そして、映画は進む。


「ヤーー!トーーー!!ウガガガーーー・・・・」


「早く立ち上がりなさい!まだまだね。これでも手加減してるのよ!」


「はい、姉上!」


 オレ(真一)は、転生して、この姉上や魔獣王や大魔導士のジジイに鍛えられていた。


 姉上には、オレは魔力を使わず、素のチカラでいつも挑み、そして、最近では特に何度も打ち据えられていた。


「ヤ――――!!ト――――!!アガガガガ・・・・・」


「今日は、このくらいにしとくけど・・・シン、あなた、才能が無さすぎるわ。父上は、ああ仰られるけど、私には、貴方には酷だと思うわ、魔王になるのは」


 そう言うと、姉上は、オレに、憐れみの籠った目を向けるのだった。


「ですが姉上、私は、魔王になりたいのです」

「なぜ、そこまで執着するのです?」


「それは、私は親孝行をしたいからです。父上や母上に、立派な魔王になった姿を見てもらいたいからです」


「それは、良い心掛けだけど、でも・・・まあ、とにかく精進しなさい。私には、それしか言うべき言葉がありません」


 そう言うと、オレにはもう目もくれずに、屋敷へと行ってしまった。


 オレは知っている。

 姉上には、婚約者が居て、ソイツを魔王にしたいのだって。


 その者と婚約をしてから、姉上は変わってしまわれた。


 オレへの愛情が、その者への愛情に変じたようだった。


 今日も屋敷にあの者が来ているので、姉上はオレを速攻で痛めつけると、あの者の所へと足早に行ってしまった。


 オレがもっと強ければ・・・・。


 なぜ、魔法を使ってはいけないんだ!

 わかってる、わかってるよ!

 父上や獣王やジジイ達の言いたいことは、もうオレも子供じゃないからわかってるさ。


 でも、姉上とか、母上にまで、なぜ秘密にする必要がある?


 オレには、まだ、父上たちの本当の意味での深謀遠慮がわかってはいなかった。


 ~~~~間奏曲が流れる


「この歌もいいわね。この映画、時々こうして話の節々で曲が流れて、その間はアニメに映像が変わるのね。そんなとこが、更に人気の秘密になってるのよ」


「ああ、たしか、そういう歌を劇場で歌うマニアなヤツ等が居るってニュースでやってたな」


「えへへへへ、わたし、実は歌えるんだ」

「えっ?そうなの?早乙女って、流行なんかに流されないタイプだと思ってたよ」


「なに、それ?じゃあ、もっと私のこと、知ってもらわなくっちゃね!えへへへへ」


「ああ、そうだね」


 可愛い、ホントに可愛い。

 恋する女子って、こんな感じになるんだ。

 オレだけに向けてくれる笑顔。

 こんな表情、学校でも見たことがないぞ!


 デ、デートも、結構、良いもんだな・・・。


 オレは、もう、シオンとか護道のこととかを忘れ、映画と早乙女をただただ見つめて、幸せだった。


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