第34話
「あっ!!そうだわ!」
そう言うと、早乙女はオレの手を引くと、会計を済ませ(もちろん、オレが買ってあげた)、店外へ。
「えっと、どこまで行くの?」
「うふふ、もうちょっとだけ歩いてね」
そこは、商店街より離れた所で、ちょっとだけ丘のようになっており、こんもりと木々が繁ったお社だった。
参道が階段になっていて、そこを登ると見晴らしの良い景色が広がり、商店街の喧騒がウソのような静謐な雰囲気がして、心が自ずと平静になるのだった。
ああ、ここ、いいなぁ〜、と思わず、心の中で呟く。
「ねぇ、こんな所があるなんて、知らなかったでしょ?」
「ああ、良い所だね」
「うん、ここ、好きな場所なの。子供の頃から、ここに来ると、嫌な事とか、辛い事とか、綺麗に洗い流してくれて、また新しい気持ちにさせてもらってた」
「へー、子供の頃から?」
「そうなの。私、学級委員に良くさせられてて、女の私が男子達とかと互角に渡り合っていくのって、それはもう大変だったんだから。それに、小5の時、私の初恋の人がね、ちょっと病んじゃって、悲しかった。私、何も出来なかったの。もう、その子は引っ越しちゃって、何処にいるのかもわかんないけど、いつもここに来て、その子のこと、拝んでるんだ」
「・・・そうか・・で、その子って、君の親友のシ・・白藤とも仲が良かったのか?」
「うん、私より仲が良かったかな。ちょっと、その頃、子供ながらに紫苑に嫉妬してた」
なんだ?
どういうことだ?
オレは、理解出来なかった。
ただ、彼女のこと、オレは誤解してたかもしれないと感じた。
こんな場所で、しかもわざわざデートの最中に、こんな事を、作り話をする必要があるか?
でも、初恋の人?
シオンと仲が良い?
護道かな?
いや、アイツ、病んでないし。
オレってのは、ないな。
誰だろ?
早乙女がそんなにも好きだったヤツって?
病弱なヤツって、オレの他に誰が居たっけ?
ブー子か?
アイツ、病弱だったような・・良く休んだりしてたような・・・。
ブー子って、人気があったのか?
そういえば、シオンも、オレがブー子と相思相愛って聞いて、泣き出したな。
そうか!!
シオンは、男女分け隔てなく、誰とでもニコニコと話してたし、オレの知らないとこで、ブー子とも良く話してたのかもな。
そして、ゆるキャラに、ブー子と似たキャラが居たよな!
女子って、ゆるキャラが好きだし、今日も、早乙女に連れられてゆるキャラのとこへ行ったし。
そうか、なんか、そういうキャラが親友同士で盛り上がって、恋する気持ちになったってことか?
知らなかったぜ!
ブー子は、オレのあの事件以来、どこかへ引っ越したって言うし。
全て、辻褄が合う!
しかし、初恋が女子っていう女の子の今まで好きになった数ある男女の延長線上に、オレが居るのかもしれないと思うと、ちょっと、複雑な気分だぜ。
ああ、けど、考えようによっては、ゆるキャラが初恋って女子、意外と多いのかな?
まあ、小学生の頃の事だし、ホントの恋なんてもんじゃなく、ペット的な感覚だったのかもな。
そう考えると、微笑ましい話しなのかもな。
「ふ〜ん、その子、今はもう、元気にしてるよ!あっ、たぶんだけど。君がそんなにここで拝んでるんだったら、きっと、そうさ、きっと元気に高校生してるって!だから、これからは、自分の幸せを拝んだらどうだ?」
「うふふ、私を元気づけようと思って、でも、ありがとう!カズくんて、やっぱり、優しい!なんか、ここに来て良かった!この場所、親友の紫苑にも教えた事がないからね。だから、二人だけの秘密だよ!」
それから、オレ達はお賽銭を少しだけ入れて、拝んだ。
「カズくん、何を拝んだの?」
「うん?もちろん、美人の早乙女が幸せになりますようにってね」
鉄則3だったか、4だったか?
まあ、もうどうでもいいけど、彼女の喜ぶような事を言う、だ!
「うふふ、美人だなんて!やだ!」
「バシッ!!」
背中を、叩かれた!
構わん、オレの背中の背骨、頑張れ!!
いや、元気になって良かったよ!
って、笑顔を見せながら、当然の質問をする。
「ところで、君はどんなお願い事をしたの?」
「それは、秘密よ!やだ、カズくんたら!」
「バシッ!!」
また背中を叩かれた。
いや、いいんだ、これでいいんだ・・・。
でも、そろそろ、背中が真っ赤になってないか、これ!!
コイツ、スナップをまた効かせてるし!
しかし、オレのは、しっかりと喋らされたのに、なんてヤツだよ!
不思議動物、早乙女!
オレは、お前をもっと知ってみたい!
でも、さすがに、彼女に『お前、女子が初恋なの?』とか、訊けないオレだった。
「あっ!!忘れてた!!早くしないと、映画が始まっちゃう~~~!!」
「えっ!!なんだよ、早く行こうぜ!!」
オレは、彼女の手を取り、階段を駆け降りる。
「大丈夫か?」
「うん、わたしも運動するの得意だし、このまま走ろう!!」
オレ達は、周りの視線など無視して、走った。
手を握り合って・・いわゆる恋人握りで走った。
楽しい。
女子と走るのって、楽しいな。
彼女の髪の毛が揺れる度に、鼻孔をクスグル良い香り。
彼女の呼吸音が、なぜか、愛しく感じる。
がんばれ、もうすぐそこだぞ!
オレ達は、恋人なんだから。
そう、お互いが口に出さなくとも、そんな気分で走った。
そして、あと3分というところで、到着した。
チケットは既に入手済みだ。
どのみち、最初の数分はコマーシャルだろ?
そんな事を考えながら、冷静にコーラとポップコーンを購入して、入場する。
Eスクリーンは?
「ここだね」
「うん、間に合って良かった」(早乙女)
オレ達は、Eスクリーンのドアを開け、中に入って行った。
案の定、映画のマナーについての説明が終わろうとしていたところで、これからコマーシャルが始まろうとしていた。
座席の所に出た。
真っ暗で、足元だけの照明になっていた。
やはり、暗い。
少しだけ、目を慣らそうと、立ち止まる。
オレは、部屋全体を観察した。
・・・・・・・。
オレは、早乙女の手を取り、目的の座席に迷うことなく移動した。
そして、無言で座った。
早乙女は、早速、コーラを啜り、ポップコーンを探っていた。
オレは・・・アイツ等の動向を伺い、ため息を吐くのだった。
アイツ等・・シオンと護道が仲良く、オレ達よりもっと前の方の真ん中の座席に座っていたのだった。
クソッ!
こんな庶民の映画館なんかに来るなよな!
お前の家に、ホームシアターとかで、最新作のモノが見れるだろ!
クソッ!
良い気分が台無しだぜ!
オレは、コーラをグイっと飲んで、むせた。
「げほげほっ!!」
「大丈夫?」
「ああ、問題ない」
そうだ、アイツ等がここに居ようが、問題ない!
オレ等は、二人、楽しむのみだ!!
そう思い、オレも、ポップコーンを食べる。
味などしない。
しないけど、笑顔で食べる。
「美味しいね」
「うん」
そう答える早乙女は、とても可愛かった。
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