第33話 こんなのがいいな

 ホットワッフルは、美味かった。

 半分、早乙女に食べられたのだが。


 大人の生チョコ風ガトーショコラも美味かった。

 半分、早乙女に食べられたのだがな。


 ミルフィーユも美味かった。

 一口だけ、貰えたんだがな。


 まあ、いい。

 早乙女、ここでは、まだお前の好きにさせてやるさ。


 お金は、折半にして支払った。

 まあ、いい。

 ここでは、まだ好きにさせてやる。


 それから、あっちの店、こっちの店と、ファンシーなショップや、ゆるキャラを扱う店とか、いわゆる可愛い系を目指す女子や女子高生に人気のショップを見て回ったり、メンズのところでオレにいろいろと試着させて品定めしたりと、疲れた。


 オレが遠い眼をして、早乙女と並んで歩いていた時、突然、視界の奥に、アレを捉えた。


 オレは、確かに遠いものを見ようと思えば、ある程度は見えるのだが、アレについては、センサーがより精度を増すのだ。


 護道、そして、シオン!!

 お前ら、やはり、恋人じゃん!

 手を繋いで歩いてるし!

 シオンなんか、顔を赤らめて、楽しそうに・・・・。


 いろいろと可能性を考えていたけど、もう、これでオレにはアイツの事、決着がついたな。


 オレは、早乙女の手を取った。

「こっちだ!こっちの方に行こうぜ!」

「はへっ!」

 なんか変な声が聞こえたが、早く、アイツ等の見える場所から立ち去りたかったので、早乙女の手を引っ張って、適当な店に入った。


「えっ?ここに来たかったの?」

「うん?・・いや、まあ、ちょっとだけ・・その今日という日の記念に何かないかと思って」


 そこは、少し高級な装飾品を扱うお店だった。


「いらっしゃいませ、どのようなモノをお探しですか?」

「はい、あの、女子高生らしいアクセサリーとか、何かないかなとか思って」


「そうですか、それでは、こちらへ」

 そうして、早乙女と、少し高価なアクセサリーを物色する。

 どれも、ステキだったけど、どれもが高価だった。


「あなた達、仲が良いわね。でも、ここはちょっと君達には値段が張っちゃうわね。もう少し大人になったら、考えてみたらどうかな?」


 すっかり、打ち解けた店員にいろいろと教えてもらいながら、お礼を言って、退店した。


 そして、次のお店へと入ろうとした時、護道とシオンが、さっきまで居た店に入って行くのが見えた。


 二人とも、まだ、手を繋いでいる。


 そうか、護道って、金持ちだからな。

 オレ達のような者とは違って、ああいう店にいつもシオンとかと出入りしてるんだろうな。


 慣れた感じで挨拶し、店員も、オレの時には見向きもしなかった偉い人が出迎えに来ていた。


 アイツ等、今にみとけよ!


 オレは、手を強めに握った。


「いたーーい!!」

「あっ!ごめんごめん!」

 忘れてた。

 まだ、オレの方も、早乙女の手を握ってたんだっけ?


「でも、いいよ、カズくんの愛情、受け取ったよ!」

「・・・う・・ん・・ありがとう?」


 はあ?

 なんで、オレ、ありがとうって言ったんだ?

 いやいや、アイツ等を見て、早乙女に高価なモノとか渡せない自分に腹を立て、早乙女が不憫に思えたなんて・・・ありえねーし・・・・・。


 いや、これは、オレ自身の問題だ。

 早乙女は関係がない。


 オレの心の弱さの問題だ。


 早乙女、お前、こんなオレで良いのか?

 お前、オレのこと、本当に好きなのか?


「カズくん、これ、これにして!わたし、あんな高級品より、こんなのが良いな」

「えっ?」

 それは、1000円もしない、レッドサファイア風の赤さの安物のガラスがハマっている指輪だった。


 ちょっと、リングの部分にキューピッドの絵柄が装飾されていて、リングを回しながら見ると、キューピッドが放った矢がハートに当たっているという図案になっているものだった。


「これで、いいの?」

「うん!」

 目を輝かせて、指輪を指にハメたり、キューピッドの図柄を見たりしている。


 オレ、なんか、コイツのこと・・・・。


 いやいやいや、なんだ、オレ!

 どうなんだ、オレ!


 オレは、この早乙女に・・・この早乙女に・・・・。


 いや、とにかく、今日は、彼女のハートを掴むのに頑張るべし!


 そうだよ、今日の目標は、彼女の彼氏になることなんだ!


 そして、高校生活を楽しむべし!


 そうだよ、別にいいんだよな、今日は、彼女を好きに・・・いや、偽の恋人になってもな!


 そうさ、あくまでも、偽の、偽りの恋人だよ!


 楽しくやろうぜ!


 そして、早乙女を楽しませなくちゃな!

 そうだよ、早乙女はオレの恋人だ!


 今だけだけど。

 今だけだけど、それを楽しもう!


 彼女を悲しませるとか、それはまだ先の話しだから・・・・。

 そうだよ、まだ、先の話しなんだから・・・・。


「ねっ!ステキでしょ!」

 そう言って、指にはめた指輪を見つめる早乙女。


「ああ、でも、君の方が、もっとステキだ!」


「やだ!!ホントの事言っちゃって!!」

「バシッ!!!」


 ああ、もう、何度でも言ってやるし、何度でも叩け、オレの背中を!


 オレは、痛いのを我慢しながら、笑った。

 早乙女も、可愛い笑顔をオレに・・・オレにだけ見せてくれていた。


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