第32話 初デート

 さあ、デートだ!

 早乙女、お前の正体を見極めてやるぞ!


 オレは、早乙女達の住む街の駅へ、待ち合わせ時間の30分前に到着した。

 30分前、これがデートの鉄則その1らしい。


 と、待ち合わせの場所へ行くと、可愛いらしい薄めのピンクのスプリングニットに、白のデニムスカート、小さめのシンプルな白いバッグに、ピンクのロークルーソックスを履いているお嬢様が、人目を引く可愛さで立っていた。


 白いバッグとピンク系のトップスが目印だと教えてくれたので、すぐに早乙女だとわかった。


 オレがそこへ行こうとしたら、イケイケ風のチャラ男が彼女に近づき、話しかけてきた。


 なにやら、腕を掴まれている。

 早乙女は抵抗しているようだ。


 すると、どこからか、似たようなチャラ男が更に3人、彼女の周りを囲んできた。


 彼女は、背が高い方だが、こうも男たちに囲まれると、彼女が今どうなっているのかがわからない。


 なんだよ、もう少し、どうなるか見たかったのに、仕方がねーや。


 オレは心の中で舌打ちをした。


 オレは、その男たちに神経を集中させる。


「いいじゃねーかよ!ちょっとだけ、付き合ってくれよ」

「イヤです!」

「ああ、もう、かっわいいいい!」

「ねえーちゃん、イヤとか言いながら、うれしいんだろ?」

「そうだ、イヤイヤって言うのは、男女の中では、好き好きって意味なんだぜ!」

「ああ、もう、そういう事なんだよな。ちょっと、向こうで話そうか?」


「いや、だ、だれ・・むぐぐ」


 あ~あ、やばいじゃん、これ!


 面倒だけど、オレの獲物に手を出すのがいけないんだよな!


 オレは、無言で、まず一人を蹴り上げる。

 と、すぐに、身体を反転し、反対の足でローリングソバットを叩きこむ。

 二人目。


 そして、チャラ男の一人がこっちを向いた瞬間に、ソイツの顔面に正拳突きをお見舞いした。


 そして、早乙女の口を塞いでいるヤツがおれに気がついた時には、ソイツの股間を蹴っていた。

 ソイツは、吹っ飛び、股間を抑えながら、立ち上がれなかった。


「おまた!」

「ううう・・・遅いよ・・・でも、助かった・・ありがとう」


 早乙女の涙が顔を濡らしていたので、オレは、ハンカチを渡した。

「ありがとう!」

 涙を拭うと、チーンと鼻をかんだ。


 お前!

 何に使ってやがるんだ、オレのハンカチを!!


 とか、口に出しては言わない。


 オレは、優しく、彼女の頭を撫でてやった。

「怖かっただろう。もう大丈夫だから。向こうへ行こうぜ」


 オレは、彼女を抱えるように歩き出した。


 彼女の甘く、優しい良い香りが鼻孔をクスグル。


 まあ、ここまでは、サービスだ。

 いきなりのハプニングだから、仕方がねー!

 だが、これよりお前は地獄を・・・。

「カズト!あっちだよ!」

「えっ?ああ、そっち方面か?」


「そう、ここ!ここのカフェ、一度来たことがあるんだけど、次来るときは、こ・・恋人と・・なんて思ってた、知る人ぞ知るカフェなの!」

 いや、お前だけだろ、知る人ってのは!

 とか、無粋な事は言わない。

 デートの鉄則その2だ!


 まずは早乙女を心地よくさせてから、地獄へ・・・。

「カズト!こっち、こっちの席なの!」

「えっ?ああ、そっちか?」


「そう、この席からの眺めが最高にイケてるから」

「そう・・だな。たしかに」

 ぜんぜん、イケてるの意味が分からん。

 この席、照明が暗くて、隅の方だし、表通りの景色から隠れているのに、なぜ眺めが良いとか言うんだ?

 やっぱ、不思議動物だろ、コイツ!


「ほら、あそこのカップル、わざわざ隣同士になってくっついてる。ほら、あそこのカップルは対面だけど、手を取り合って見つめ合ってる時間が30分になってるよ」

 お前、30分前とか、ここに居なかっただろ!

「う・・ん、まあ、そうかな?」

 鉄則その2を発動中だ!


「ほら、次のヒトが来た来た!このカップル、ずっと腕組んでるし、もう1時間ぐらいになってるよ、あれは!」

「う・・ん、まあ、そうだな」

 我慢しろ、オレ!

 鉄則2だ!


 そうか、この席の眺めとは、他の恋人たちの様子を探るのに、いやもとい、様子を眺めるのに絶好のポジションなのか!


「どうも、お待たせしました。ご注文をどうぞ」


「カズくんは、どうする?」

「うえっ?・・任せるよ!」

「じゃあ、ケーキセットAを2つ。私は、ホットミルクティー。カズくんは?」

「えっと、同じで」

「じゃあ、二つともホットミルクティーでお願いします」

「ケーキは、こちらから選んでいただきますが、どれになさいます?」

「あの、これとこれで!」

「はい、かしこまりました」

 オレの意見は訊かねーのかよ?

 って、どさくさに紛れて、カズくんって・・・恥ずかしいんだけど。


「ハイそれでは、復唱しますね」

「ああ、ちょっと待って下さい。カズくん、ここホットワッフルが美味しいんだけど、どうする?」

 お前、目を輝かせて訊くなよ!

 自分が欲しいんだよな。


「じゃあ、頼もーかな?」

「では、ホットワッフルを二つ、お願いします」


「はい、それでは」

「あっ!ちょっと待って下さい。ここはね、イチゴのミルフィーユが限定で出てて、絶対に美味しいから。あの、イチゴのミルフィーユ、まだあります?」


「はい、ございますよ」

「じゃあ、それを・・う~~んと、私のホットワッフルはキャンセルで、イチゴのミルフィーユを二つ下さい」

「えっ?オレ、ワッフルだけで良いよ」

「そうなの?それじゃあ、カズ君の為に追加で、大人の生チョコ風ガトーショコラを一つください」


「以上で、よろしかったですか?」

「はい、もう、カズ君が食いしん坊なんで、困っちゃうわ、わたし!」


 うん?

 オレ、そんなの食べれないし、胃がモタレソウなんだけど。

 まあ、コイツが頼んだんだから、知らねーよ。

 それでは、復唱しますと言って、やっと店員が早乙女から解放された。


 たしか、この後、映画を見ることになってるんじゃなかったのか?

 チラッと、そんな事を考えながら、早乙女を見ると、夢見心地な感じで頬を赤らめて、イチャつく恋人のテーブルを眺めていた。


 そんな彼女の顔を見ていたら、コイツがあの早乙女なのか?という疑問が頭をよぎる。


 コイツは、こんな感じで中学生活をスゴしてきて、そして、また、こんな感じで高校生活を送るんだよな。


 幸せそうな、楽しそうな彼女の顔は、オレとは別世界の住人に見えた。

 そうだよな、女の子って、こんなふんわりとした空気感が漂っていて、ずっと見ていたい気になるよな・・・・ハッ!オレ、何を考えてた?なんだよ、オレ!


 コイツは、あの早乙女だぞ?


 オレを苦しめ、変態扱いをし、イジメられていたのに見て見ぬふりをして、敗者や弱者の気持ちなど”ヘ”とも思わないヤツなんだよ!


 どうした、オレ!


 復讐とかじゃない、オレに対して行ってきた報いを受けさせるんだろ!

 そう、決めたんだよな!


 オレは、もう一度・・・彼女の顔を見直した。


 でも、良い顔してるよな・・・・。


 そうだ、まずは、偽恋人同士って事で、コイツの心を掴むのが先決だった。

 そして、地獄を見せるってことだよ!

 今日は・・・今日のところは、恋人として、彼女に尽くそう・・そして・・・・。


 オレは、すぐにでも地獄を見せるという短期戦を変更して、それより少しだけ長い中期戦にしたのだった。


 いや、オレは間違えていない。

 まずは、高校生活を楽しむこと、それが一番オレのしたいことだよな。


 そう、オレは自分を納得させたのだった。



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