第31話 乾杯に完敗

「ごめ~~ん、遅くなっちゃって!」(翔子)


「チーフ!」


「あの、引き分けですよね?」(トモエ)


「まあまあ、別に、奢りに来たんじゃないから。藤堂君にステキな話しがあるのよね」


「「ええっ??」」(早苗、トモエ)


「あの、何でしょう?」


「これからは、わたしんとこと付き合ってもらうから!」


「えっ?」

「「ええっ??」」(早乙女、シオン)


「あら、もう決まった事だから。だって、藤堂君が悪いのよ!あんな事やこんな事とか、しちゃうんだから」


「「ええっ!!」」(早乙女、シオン)


「あのー、わかってて言ってるでしょ?翔子さん」


「「えっ!翔子さん!」」


「えっ、いや、この人、女子マネのチーフだから」


「なんで、名前呼びしてるの、カズト?カズトって、いっぱいお付き合いしてるのね。しかも、綺麗なひとばかり」(早乙女)


「カズト君て、そういうひとだったの?」(シオン)


「そうだったのか、藤堂!お前、いろいろと忙しくしてたのは、そういう事だったのか?」


 幸助は、そんな事を言いながら笑っている。


「お前、話をややこしく」

「えっ、チーフと藤堂君て付き合ってるの?」(早苗ちゃん)


「いや、えっ、チーフ?浮気してた?」(トモエ)


「はあ?何を言ってるの?」(翔子)

「おいおいおい、トモエ、話をややこしく」

「えっ!トモエ?名前の呼び捨て?」(早乙女)

「もう、そういう関係のひと、多すぎ」(シオン)


「えっ?どういう関係だよ!」


「カズト君って、さっきもエッチだったし、スキンシップがお好きのようですね。香織が可哀想だわ」(シオン)


「わたしって、男の見る目がなかったのね」


「あの、だったら、私が藤堂君とデートしても良いって事ですよね」(早苗ちゃん)


「ダメよ!それはダメ!私が明日、デートするんだから!」


「ちょっと、ワケ分かんないよ、早乙女さん!」(トモエ)


「私もワケわかんないよ。でも、明日のデートは譲らないから!」


「香織・・頑張って!」


「あのさあ、オ」

「黙ってて!」(早乙女)

「これは、女同士の話し合いだから、静かにしててください」(早苗ちゃん)


「はい」

 なんかおかしくない?

 でも、反論出来ないよ、これ!


「とにかく、明日は、私とデートだからね!」


「ズルいです。さっきは、男の見る目がないって言ったじゃないですか!」


「それはそれ、これはこれよ!」


 早乙女、お前、何を言ってるんだ?

 って、オレって、ダメな男なのか?

 しかし、コイツ、昔は正論ばかりの四角四面なヤツだと思ってたけど、もうなんか支離滅裂の、やはり不思議動物になっているよな。

 こんなのと、オレ、明日デートか?


「香織・・じゃあ、こうしましょう。明日、香織がデートして、明後日、早苗ちゃんがお昼休みと部活終わりにプチデートするって事にしたら?」(シオン)

(あれ、なんで私、こんな事を仕切ってるんだろ?)


「早苗、これはこれでいいかも」(トモエ)


「う〜ん、ホントはあっちこっちデートしたいんだけど」


「良かったわねー!早苗ちゃん、このお姉さんが来たからデートできる事になったのよね!私のようなデキルお姉さんが必要だとよくわかったでしょう」(翔子)


「早苗、月曜日のお昼のお弁当、頑張って作るのよ!男子はいつも空腹なんだから、藤堂君の胃袋をしっかりと鷲掴みにするのよ!」(トモエ)


「それ、反則じゃないの?」(早乙女)


「だって、早乙女さんは明日、いろんなとこに行くんでしょ?」(トモエ)


「たしか、あの映画を見るんだよねー、香織?」(シオン)

(私も見たかったんだけど)


「えっ、映画?聞いてないんだけど」


「ダメじゃない、紫苑!内緒だったのに」


「いや、それ、内緒にするほどのもんでもないだろ?」


「映画かー!ひょっとして、今大人気の『君の名前は?』かな?」(佐山)

 お前、食べてばかりだと思ってたけど、聞いてたんだ!


「な、なんでもいいじゃない!題名とか、秘密だから!」


「ところで、オレ、月曜日は弁当、持って行かなくてもいいのか?」


「そういう事になるわね、悔しいけど」(早乙女)

「いっぱい、美味しいの作るからね!」(早苗)

「いっぱい、愛情も入っているって!」

「やだ、トモエったら!」


「はいはい、これで丸く治ったわね。良かった!ということで、貴方、野球部に入りなさい!貴方が輝ける場所は野球部よ!もう決めたの、キャプテンと」(翔子)


「あの、どういうことでしょう?」

「うふふん、決まってるじゃない!今年の夏の大会までに、貴方を絶対にレギュラーにするの!」


「あの、オレ、まだ野球部に入るとか言ってないし」


「バカヤロー!!君は、甲子園に行きたくはないのか!」

「あの、別に・・・」


「バカヤロー!君は、私達を甲子園へ連れて行くんだよ!なにか、不満でもあるわけ?」


「あの、別に不満とか」

「ないのだろう?だったら、私達の野球部のベストナインにおなりなさい!」


「あの、それは」

「やったーーー!!カズトさんがエースで4番なのね!トモエ!カズトさんが・・うううううう」


「あの、それは」

「おーー、よしよし。早苗、あなたの夢がまた一歩進んだわね!ステキ!」(トモエ)


「あの、それは」


「よし!みんな、カンパイよ!藤堂君がエースになって、みんなを甲子園に連れて行く事を祝して!カンパーーイ!」


 なぜか、みんなは持っている水やジュースでカンパイした。


 オレ?


 仕方なく、カンパイした。


 なぜ、野球部に入ってエースになることになった?

 それに、甲子園なんか興味ないし。


 オレは、まだ、こういう時に自己主張出来るほどの、度胸とか経験とかが足りない事を痛感するのだった。





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