第30話

「バカだなぁ、まずは注文しなきゃ」(佐山)


「そ、そうだな、あはは」


 みんなは、それぞれ注文をするが、オレは早苗ちゃんにお任せすると言うと、トイレへ行った。


 ヤバい、ヤバい、変なとこを見られたぞ。


 あの右斜め後方に居たのは、あろう事か、早乙女とシオンだった。


 なぜ、そうわかるのかって?

 オレは、このマックに居る者全ての人を感じ取る事が出来る。


 普通は、見ないとわからないものだが、オレはやろうと思えば見なくても感じ取る事が出来るんだ。


 そして、今回のように、オレに視線を向けたり、オレに感情をぶつけて来たら、簡単に察知できるのだ。


 そして、この早乙女とシオンの発する怒ったような感情の波は捉えやすく、オレには彼女達を見なくてもアイツ等だと特定出来た。


 この前からアイツ等と話をして、彼女達固有の思念の周波数を皮膚感覚として感知できるようになっていた。


 だからなのか、突然、大をしたくなった。

 オレの精神とお腹は、あの事件以来、時々繋がることがある。

 ちょっと精神的ダメージが来るとお腹が痛くなる時があるのだ。

 特に、怒りのような感情を向けられた時なのだが。


 しかし、ちょっと待て?


 怒ってるのか?

 明日、デートする早乙女が怒るのは、まあ、わからないでもない。


 しかし、シオンは関係無いよな?


 ああ、アレか!


 オレの事、人前で、女の子のムネを触る変態だと思っているんだろ?

 アイツは、変態さんには特に冷たい態度を取るから・・・・。


 ああ、早乙女もそうだ。

 別に、デートする相手とかじゃなくても、コイツは溢れる正義感と潔癖な性格だから、ムネなんか触るオレの事、チャラ男とか、エッチで変態入ってるヤツだと思っているんだろう?


 ああ、もういいけどね。

 別にデートとかしなくても。


 こっちは、お前なんかとデートなんかしたくないからな!


 今晩にも、デートお断りって、ラインが来るだろうよ!


 ケッ!


 早乙女、お前なんかと2人で話す事なんかねーよ!

 オレは、お前が嫌いなんだからな!


 これで明日は、ゆっくり出来る。


 オレは、そう考え、そう思って、トイレから出た。


 あれっ?


 あの席に、あの2人が居ない?


 はあ~、良かった!

 いやーー、良かった、良かった!

 こうなるとは期待してなかったが、大にチカラを込めて、時間かけたからな!


 オレは、みんなが待つ二階席へと意気揚々と階段を駆け登った。


「よう、ごめんごめん、そこ良いか?」


 早苗ちゃんは、にこやかに笑っていた。


 早苗ちゃんの前が空いていたので、そこへ座った。

 もちろん、オレへのオゴリのハンバーガーセットがそこには用意されていた。


 こっちを幸助が不貞腐れて見て・・・あれっ、不貞腐れてないのか?


 早苗ちゃんは、笑顔で

「どうぞ」

 と言った。


 あれっ?

 怒ってる?

 顔ではわからなかったが、声に怒気を感じた。

 早苗ちゃん、怒ってる?

 まだ、さっきの事、根に持ってるの?


「お疲れ様!」


「えっ?」


 オレは、横の人を、反射的に見た。


 なんだよ、オレ!


 部屋に居る者達の感情とか、全て感知できるんじゃなかったのか?


 やっぱ、直ぐに感知できる境地には至っていないらしい。

 オレは、まだまだ修行が足らなかった。


 隣りには、これまた、複雑な笑顔の乙女?が居た。


 ああ、早乙女って言うヤツだったな。

 その向こうには、なぜか、シオンさんだったか?が居た。


 いったい、オレがトイレに行ってる間に、何があった?


 って、長過ぎたのか、オレのトイレタイムは?


 元田辺中の男子達は、笑顔だ。

 嫌な予感しかしない。


 早乙女達は、早苗ちゃんとお知り合いかな?

 たぶん、そうなんだろう?


 あれ?

 そういえば、中学違うよな?


 じゃあ、どういうこと?


「どうぞ、私の奢りですからね。お代わりしても良いですよ」


「えっと・・・ありがとう」


「カズト!・・紹介してくださらない、そのひと!」(早乙女)


「うむぐ・・ゴホッ!・・うんぐうんぐうんぐ(コーラを飲むオレ)。はあー・・・えっと、彼女は後藤早苗ちゃん。野球部の女子マネだ・・です」


「そう?ちゃん付けなのね。オホホホホホ!」


「あの・・私にも、紹介してください。藤・・カズトさん!」(早苗)


「・・えっと・・この僕のすぐ右横の彼女は早乙女さん。一中の人なんだ。そして、その横の彼女も一中のシオ・・白藤さんって方です。お二人とも、とても美人なので、男子に人気です」


 ちょっと、ヨイショをしておいた。


 そうする方が、味気ない紹介よりも良いと思ったからだし、なにか、彼女たちを怒らせてはいけない気がしたので・・・・。

 ごめん・・オレ、結構心の中では、早乙女のヤロウとか、シオンのヤツとか言ってるけど、怒ってる女子って、苦手だし、どうしたらいいのかわかんないから、気が動転して、下手に出てしまったんだ。


「美人だなんて・・・」(シオン)


「オホホホホ!ところで、カズト、女子マネに、あなた、なんで奢ってもらってるワケ?」


「えっ?それは、その・・・なんで?」


「それは、私が彼に悲しい過去の話を思い出させてしまったので、そのお詫びなんです」


「えっ?過去の悲しいお話?なに?わたし、知らないんだけど」


「香織!ちょっと、そこは触れてはいけないとこじゃない?誰にもそういう事ってあるから。ねっ、カズトくん。私にもそういう事あるから、あなたの気持ち、わかるわ」


 おいおいおい、お前にオレの気持ちがわかるって?

 バカにするんじゃねーぞ、オラ!


「白藤、お前に、オレの何がわかる?オレの過去は・・あっ・・ごめん。ちょっと言い過ぎたね」


「ホント、ちょっと怖かったよ、カズト。でも、ちょっと、カッコ良かったな」

 はあ?

 ナンダ、この早乙女という不思議動物は?


 オレは、女子の心がさっぱりわからなかった。




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