第24話 シオンの声援

「行くぜ、藤堂!」

「来いよ、護道!」


 予測しても、このスピードだ。

 もっと素早く、もっと正確に!


 とにかく、速く、速く、予測してからでは遅い。

 予測しつつ始動して行かないと!


 修正が出来るのかわからんが、打つ!


 ぜってー、打つ!!


 モーションに入った。

 身体をよじる。

 だが、無視だ!

 もう惑わされんぞ、クソが!


 腕の振りと目線から予測すると同時に始動する!


 握りが見えた!

 フォーシームだ!

 しかも、予想していた外角低めだったのが、内角低め!


 うん?回転が!

 こっちに曲がるぞ、これは!!


 修正できるのか、これ!

 なんで、また内角にボールを?

 いくら逆を突くと言っても、オレが振らなければボールスリーになってスプリットが投げにくくなるというのに?


 つまりは、オレが全球振るという想定で組み立てているって事だ。


 そして、その策に、オレはまんまとハマってしまった。


 内角のボール球をオレは、振ってしまった!

 スウィングスピードを重視する余りに、予測しても対応できなかった。

 空振りだった!


 そして、尻もちをついて、大げさに倒れた!


「ツーボール、ワンストライク!」


「「「「「きゃーーーーー!!」」」」」

「おおーーー!!」

「すごーーーい!!」

「ステキ――!!」

「やりおるの~~」

「もうちょいだったのに!」

「ごどう~、やっと本気だしたな~!!」

「かっこわるーー!!」

「だっさーーー!!」

「ああ~~~、残念イケメンだったわ」

「なんだよ!金返せよ、ごら!」

「無様なヤツ!所詮はこんなもんだろ」

「期待しすぎたわ。ミジメよね」


 悪い言葉は、みんなオレに向けてのモノ。


 かまわねーよ、別に!!

 小5の時より、マシだから。

 しかし、外野はとにかく、うっせーよ!!


「大丈夫、藤堂君」(早苗)

「ああ、問題ない」

 なんか、早苗ちゃんが天使に見えるぜ!


「護道く~ん、すっご~~い!!かっこいいいい!!」

 久美子、どっかへ行ってしまえ!


「カズト~、死なないで~」

 だから、お前、オレは生きてるから!


「カズトくん、ファイトーー!」

 うん?

 これは?

 思わず、見た。

 シオンだった。

 なぜだ?

 そこは、ごどうく~ん、しびれちゃう~とかじゃねーのか、久美子みたいに?


 シオン・・・お前の気持ちがわからねー・・・紫苑なのか?

 あの事件の前の紫苑なのか?


 紫苑は、心配そうな顔をしてオレを見ている。


 紫苑、お前には笑顔が似合う。

 それなのに、そんな顔をするなんて。

 そんな顔をさせちゃー、ダメだ!


 誰だよ、そんな顔にさせたの?


 えっ?


 オレ?


 オレがさせているのか?


 いやいや、今、オレは幻を見てるんだ!

 ああ、早乙女が変な事言うから、戦場に居る妄想をして空耳が聞こえて、幻を見ちまったんだ!


 あんなことを言うなんて、護道の恋人のシオンのわけがねーぜ!


 オレは、尻を払いながら、オレのシオンに対する邪念を払った。


 くそっ!護道!お前の好きなようにはさせねーぞ!


 これで、オレは一つ布石を打ったからな!

 オレは、この無様な空振りを逆手に取って、戦略を構築したのだった。


 その時、護道の子分から声が上がった!


「ごっどっおー、ごっどっおー、ごっどっおー、・・・・」

 出た!

 護道コールが出た!

 オレは、その時、あの光景が蘇ってきてしまった。


「なっかした!それ、なっかした!それ、なっかした!・・・・」

 オレが紫苑を泣かしたと、クラスのみんなが、ブー子を除いたみんなが、声を揃えて、オレを蔑み、悪意を向けたんだ!

 久美子はもちろん、あの早乙女も同じように、声を揃えて言ってたよな。

 想い出したくなかった。

 ずっと、今まで消去出来たと思っていた。


 あの時だ!

 あの時、最初にオレの何かが壊れたんだ。


 最も想いだしたくない光景のベスト3の一つが、この場面で蘇って来るとは!


 そうか、早乙女、お前には、叩かれた想い出しかないと思っていたが、痛い想い出しかないと思っていたんだが、そうだったのか!


 これが一番、お前から受けた痛い想い出だったんだ!


 早乙女、やっぱ、お前を好きになるとか、ありえねーわ!

 っていうか、反吐が出る!


 クソ女め!!


 オレの心が、煮えたぎってきた。


 そんなオレにはお構いなしに、護道がモーションに入った。


 捩りとか、どうでもいいので無視だ。


 ボールをリリースする!


 やはり、外角低めだ!

 もう、ミエミエだな!

 奇策は終了か!


 えっ?

 しまった!!



 オレは、このボールをファールチップした。

 さっきの事で、知らずにチカラが入りまくっていたのだった。

 そして、さらに冷静さを欠き、予測も適当になっていた。


 ボールのコースが当たっていたので、つい、速球系だと思ってしまっていたが、実はヤツの投げたボールは、スライダーだった。


 いわゆる高速スライダーと言うヤツだ。

 ボールの回転をよく見ればわかることなのに・・・・。


 ボールはバットに微かに当たって、キャッチャーミットに捕球された。


 空振りと同じだ!


「ツーボール、ツーストライク!」


「「「「「きゃーーーーー!!」」」」」

「おおおおーーーー!!」

「すげーーー!!」

「さっすがーー、護道!!」

「これは勝負ありんこだよ!」

「護道は天才だぜ!!」

「やりおる!」

「すごーーい!すごーーい!!」

「つまんねー、護道で決まりだわ、こりゃー」

「護道く~ん、ステキ―!」


 誰だよ、ありんことか言ったの!

 ってツッコめるほど程、オレは心穏やかではなかった。


 そして、護道はもう、次のモーションに入っていた。

 行くぞ藤堂っていうセリフはないのかよ!


 冷静になれ、オレ!!


 紫苑・・・思わず心の中で呟く。

 そして、紫苑の顔、心配そうな紫苑の顔がオレの心に浮かんで来たのだった。


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