第19話
オレは即座に両足を後ろへ2歩ステップし、左足を大きく開いてオープンスタンスに取り、直ぐにスウィングを、始動した。
バッターボックスが書かれてないから大丈夫だろ?
「あっ!ごめん!」(キャプテン)
ボールはこのままだと顔面近くに来る。
スウィングは、アッパー軌道を描くが、このまま引っ張るとファールになるので、少し流し打つ感じでバットの先を遅らせ気味に振る。
直ぐにスウィングが出来なかったので、それは自然な流れとなった。
「ガキーーンンン!!」
変な音がした。
インパクト後は、大きく背伸びをする感じでフォロースルーを目一杯取った。
ちょっとバットのシンより手前に当たるも、強烈なバックスピンが掛かり、打球は高く、高く、高く上がった。
そして、左中間のフェンス奥へと消えて行った、ようだった。
「えっ?ボール、何処へ行った?」
「たぶん、あっち?」(翔子)
「多分?みんな、ボールが何処へ行ったか、わかったか?ああ、わからんかったって?あ〜、それなら仕方ないな〜。みんな、しっかり、見てろよな〜、今度は!じゃあ、次、行くぞ!」
「あの、ちょっと待ってください!約束はどうなるんですか?」
「ううん?何だ?約束?ああ、それは、このボールを打ってからだ!」
翔子が小声で「だそうよ、早苗ちゃん、次のボールで勝負よ!」
「・・・・・・」(オレ、早苗ちゃん)
「行くぞ、イケメン!高校野球の怖さを思い知るがいい!」
「藤堂君、頑張って!」
「キャプテン、頑張れー!」
このキャプテン、クソなヤツだな!
オレ、野球部、やめよう!
ストレート系は、もうダメなのがわかってるハズだが?
半分、変化球の意識で、コースは外角低めだろう、コントロールが良いならな!
こういう場合は、予想より予測で対処だ!
ゆっくり振りかぶるとキャプテンは、真剣な眼差しでモーションを起こした。
その目線、やはりな!
だが?
球の握りがわかる。
腕の振り、速度、方向、角度、身体の向き、踏み出した足のつま先の向き、身体の体重移動の方向などから、即座に予測。
後は、どれだけ変化するかだが?
ボールの回転が見える。
これは!
スライダー、それも少ししか変化しない、外寄りの低め!
オレは、予想とほぼ同じである為、修正はあまりせずに、再びアッパースウィングでぶっ叩いた。
打球は勢いよく、レフトの上空を飛んで行き、裏山の斜面へ消えた。
裏山は、ある程度の所までは、木々が切ってあるのだが、あまり高い場所までは切られていない。
全員、呆気に取られたようで、打球の方向を見ていた。
「すご〜い!藤堂君、ステキー!」
早苗ちゃんの声が響き、みんな、我に帰ったようだった。
「勝ちですよね、僕の!」
「あ、ああ、お前、ホントにスーパーなヤツだったんだな!決まりだ!お前、ユニホームに着替ろ!何、ボケっとしてんだ?」
「キャプテン、そんな事よりも、体験入部のみんなにも体験させてあげて下さい。オレが勝ったんですからね!」
「ああ、そうだったな」
こうして、他の3人もキャプテンの球を打つ事になった。
そして、みんな、オレと同じ?で1打席しかチャンスはなかったが、みんな、ヒット性のあたりを打った。
中でも、飯野というヤツはフェンスに直撃する打球を打った。
コイツは、田辺中の4番だったらしい。
だからかもしれないが、野球部のみんなは、オレに対してキャプテンが手加減をしたと思ったようだった。
そして、オレは、キャプテンにもう一つ提案した。
一年で一番上手いやつと勝負させて欲しいと。
キャプテンは、ついでだと言って、護道を指名した。
「だが、もしお前が負けたら、さっきのアレな!」
「じゃあ、オレが勝ったら、次の練習試合に出させてくれませんか?」
「う~~ん、それはオレが決めるモノじゃないけど、練習試合だし、まあ、コーチに上手く言っておくよ」
「じゃあ、OKってことで良いですよね?」
「ああ、もう一度、お前のバッティングを見てみたいしな」
「キャプテン、すいません。練習時間が押してます。それは、また今度って事にしてください!いいですよね!」(翔子)
「ああ、そうか!すまん、悪いな。じゃあ、明日の練習前にその勝負をしようか?いいか、それで!」
「いいですよ、それで」
「ふ〜ん、オレとやりたいわけ?オレは、キャプテンと違って、容赦しねーけど、いいのか?」(護道)
「ああ、でもやっぱり、君って凄いよね。一番上手いんだ!こういう機会でもないと対戦できないし。対戦できるだけで名誉なことだよ、言ってみるもんだね。これで、君と勝負させてもらったって、自慢ができるよ」
コイツには、オダテルこと、だったよな。
「まあ、そうだな、そういう事なら、尚更手抜きはできないよな」
コイツ、バカなのか?
オレのホームラン、見てなかったのか?
いくら手加減だったとしても、3球続けて、しかも、一つはとんでもないボールだ。
あっ、見てなかったのかもな。
だったら、見せつけてやるまでだ!
オレは、ユニホームには着替えず、そのまま帰った。
別に、練習したくなかったし。
いや、変に練習して、オレの実力を見せたくなかったからね。
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