第20話

 翌日(土曜日)になり、部室に早めに行ったオレは、早めに来た早苗ちゃんからユニフォームをもらった。


「これは、練習用のユニフォームなんだけど、ホントは新しいのを買ってもらうの。でも、まだ体験中だから、これ、お古なんだけど、汚くないからね」


「ああ、ありがとう」


「あの、昨日のホームラン、凄かったです。ホントに、野球は初めてなの?」


「そうだよ。でも、少しはTVで研究したから」

「少し・・ですか?」


「うん?なんか、マズい事言ったか?」

「藤堂君って、いつもこんななの?」


「えっ?どういう意味?」

「その、自分が凄いって自覚が無いって言うか。表情もあまり変わらないし、その、なんだかアンドロイドか機械みたいな感じだなって」


「君も田辺中だっけ?」

「はい」

「だったら、マシーンって、みんな言ってたように、今でも、オレは喜怒哀楽が苦手なんだろうな」


「苦手・・なんですか?」

「ああ・・小学時代にイジメを受けてから、何年間かは自分の感情を表に出すことを止めた時があってね。だから、今でもその後遺症が残ってるんだ。あははは、聞いててつまらねーだろ、こんな話」


「いいえ・・その・・ごめんなさい。ちょっと、余計な事訊いて、悪いことを想い出させちゃって。その・・・今日部活終わったら、わたし、罪滅ぼしに、マックで奢るよ。もう、決めたから、約束だよ」


「えっ?約束?・・えっ?」


「チース!!藤堂、早いな!後藤、おはよう!」

「あっ、幸助おはよう!じゃあ、藤堂君、またね!」

 早苗ちゃんは、ちょっと弾んだ声を出して行ってしまった。


「藤堂、お前、後藤に手を出してないか?」

 幸助達、体験組とはラインで、昨夜、語り合ってタメ口になっていた。

 昨日、みんながユニフォームに着替える中、オレとライン交換をしたのだった。

 その時、オレは、ユニフォームを持って帰らなかったので、幸助が後藤に連絡を入れとくと言っていたのだった。


「なわけあるかよ!お前、早苗ちゃんの事、好きなんだろ?」

「えっ?いや、昔から知ってるだけだよ。第一、向こうはオレの事、何とも想ってないし・・・」

「告白したのか?」

「・・・した、けど、フラれた」


「おお~~、青春だな」

「そんな青春、いらねーよ」


「あはははは、まあ、いいじゃねーか。ところで、護道って、そんなに凄いの?」

「ああ、昨日話した通り、オレらはヤツにやられたよ。あの飯野ですら三振したからな」


「だから、オレがリベンジするって約束だろ」

「でも藤堂、ホントにいいのか、あの条件で」


「ああ、逆に、オレの方こそ、付き合ってもらう感じで悪いよ」

「いや、アイツがそんなヤツなんだったら、オレ等も黙っちゃいないさ。お前とは、友達だからな」

「ありがとう、恩に着るよ」


「チース!!」

 田辺中の体験組の他の2人がやってきた。


「おお、おはよう!みんな、早いな」


「当たり前だろ。お前が早速、また面白い事やるんだからな。ちょっと、トイレ行ってて幸助に後れを取ったがな」

 そう言ったのは、飯野だった。


「お前等が緊張してどうするんだよ」(幸助)


「藤堂、お前のボール、受けさせて欲しいけど、これから着替えてすぐにいいか?」

 そう言ったのは、幸助のボールを受けていたキャッチャーの佐山だった。


 とにかく、田辺中の野球部はこの3人が主役だったらしく、保育園からの付き合いらしい。

 因みに、早苗ちゃんもその一人で、その縁で、中学の時に野球部のマネージャーをやってたらしい。


 仲が良い幼馴染達だ。


 オレには、そんな幼馴染は、もう居ないんだけどな。

 オレは、たぶん、コイツ等を羨ましかったのだろう。

 いや、多分じゃない、絶対にだ。


 オレは、コイツ等とは友達にはなれるけど、親友にはなれないと感じた。

 コイツ等の友情と同等の友情を獲得するには、年月に違いがありすぎる。

 それに、コイツ等は、やはり、オレのような酷い経験をホントの意味で理解していない、いや、出来ないだろうと思った。


 コイツ等にとって、オレはタダの珍しい友達の一つに過ぎないんだろうな。


 オレは、能力の開花に伴い、そういった他人の感情に、より敏感になったようで、感情の種類というか、色味が何と無く感じ取れるのだった。


 ただ、恋愛感情の機微だけはわからねーけどな。



「よし、どの程度のチカラ加減で投げたらいい?」

「そうだな、最初は、5から7割程度で放って来い」


 オレは、グローブを借りて、グラウンド横の投球練習用の場所で投げる。


 今回の対戦は、打つだけでなく、互いが投げて、互いが打つのだ。

 投打を交代して、勝負することになっていた。


「これ、7割だぜ!ちゃんと捕れよ!」


 バシ――ン!!


「くっ!これが7割の球か?どうやら、お前の8割以上のボールは、フル装備で捕らないとダメっぽいわ」


 こうして、オレは、体験組の協力の元、護道を迎え撃つのだった。



「じゃあ、始めようか?にしては、外野がやけに多いな」(キャプ)


 結構、多くの女子達、いや、女子だけじゃなく、男子も多数、見物に駆け付けていた。

 学校は休みなんだが、部活で来ている者も多く、また、この勝負見たさに来ている女子も結構いた。


 これは、後で知ったのだが、オレが早乙女にラインしたら、それが拡散したらしい。

 しかも、いろいろと根拠のない?枝葉も付けられていたらしい。


 早乙女は、情報通の久美子に連絡を入れたのだった。

 そう、あの久美子。

 こいつは、同じ高校の普通科に通っているのだ。

 そんなに頭が良かったのかとか思ったが、良く知らない。

 普通科と言えど、進学校に変わりはないんだからな。


 なので、野次馬の中に、久美子も早乙女も紫苑も居た。


 田辺中の特進の4人も、なぜか居た。


 早乙女はおしゃべりだったか。

 女には、ここだけの話しって話しは、意味が無い事を知った。


 まあ、ギャラリーが多いのに越したことはない。

 見てろよ、護道!

 恋人の紫苑の前で、お前の無様な姿をさらさしてやるよ!



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