第6話

 祖父と祖母と話しをした。


 人間という生物のこととその能力についてのこと、それと運命についての事。


 詳しくは話せないが、運命というのは変えることができるらしい。

 だから未来予知は、未来の一つの可能性を予知できるだけで、大した能力ではないのだった。


 それなら、どうしたら運命が変えられるのか?

 それは、人間の、一番発達している前頭葉に、そのカギがある。


 スポーツマンも、超一流ならこの前頭葉が並外れて発達している。

 なぜか?

 超一流になるためには、持って生まれた才能もあるだろうが、それだけではダメなのだ。

 それだけでは、一流止まり。


 では、その才能をも凌駕したところに超一流があるのだが、それはこの前頭葉の発達のおかげであると考えられている。


 なぜに、ここが発達するのか?

 

 ここは、思考や創造、記憶などの人間力を司る場所。

 そして、自分の思うままに身体を動かせるようにする司令塔の場所。


 明確なイメージ、想像するイメージ、視覚からのイメージなどから、運動へと指令を出すのが前頭葉。

 そうしたイメージを記憶とか周りの状況の映像とかを元に作り上げ、想像し、創造し、思考するチカラとそれを実行する意志力も、その前頭葉にある。


 ここが発達すると、スポーツマンはとてつもないパフォーマンスが発揮されると、これでわかるよね。


 中でも、実際にそれらを行う事の出来る意志力の強さが大切なのだと、研究発表されている。


 また、最新科学では、それらのイメージの映像を実際にモニターに映す事も出来るようになってきている。


 イメージがモニターに映るんだから、思う事が信号化され、それにより操作できる時代がすぐそこまで来ているのが、今現代の我々が生きている最新テクノロジー事情だ。


 そうしたことは、祖父に言わせると、やっと西洋科学が我らのやり方に追い付いてこようとしているという表現になる。


 先程の運命を変える力、運命をも切り開くチカラは、まさにこの前頭葉にあるのだ。

 そして、それを叶えるには、強固なる意志のチカラが必須だ。

 強固なる意志で取り組むとき、それが運命変革へのトリガーとなるのだ。

 


 超一流のアスリート達は、イメージをし、それを叶えるべく、強固なる意志力で努力して、前頭葉を発達させるが、それなら、元々前頭葉を発達させていたら、もっと楽に凄いパワーが発揮できるだろうと考えるられるよね。


 祖父の教えてくれた方法の理論的な説明は、最近の研究でその裏づけの一端がわかるようになってきたが、まだまだ未知な事もあり、この辺でやめとく。


 とにかく、その前頭葉を鍛えるための瞑想法を学び、料理をしたり、瞬間記憶を鍛えたり、速読をしつつ知識をたくさん身につけたり、計算をしたり、身体を鍛えたりといった訓練をした。


 これらは、まだ基本の訓練。

 この基本から、更にオリジナルな訓練をしていくのだが、それは門外不出で、祖父はオレに口止めをした。


 だから、ここでは話せないのだが、オレは、そういうことをし、今も、修行中なのだ。


 そして、祖父と祖母の肩を揉みながら、二人の話しを聞くのだった。


 この人生の先輩の話を聞くのも勉強なのだった。



 オレは、翌日、学校へ行った。

 そして、田辺中の同級生と話し、早乙女と話しをした。


 その間も、相変わらず、護道は、紫苑とよく、喋っていた。

 そして、紫苑は、良く笑っている。


 その笑顔に、心が疼くが、まだまだ、課題を始めたばかりだから、直に慣れる筈だと心を静める。


 護道には、何か面白いネタがいつもあるのか?

 それとも、何か面白い共通の話題があるのか?


 実のところは、紫苑は早乙女とも良く喋るのだ。

 親友だからな。

 そして、護道とは、どちらかというと、護道から話しかけているパターンしかないことに、オレは気がついた。


 ということは、コイツ等の関係って?

 でも、アレだよな、この前、抱き合ってたよな。


 うん?

 すぐに、彼女の事を考えている。

 ダメだ。

 すぐに、彼女の方を見てしまう。

 ダメだ。


 なんだってんだよ?

 昔と違う人、昔とは別人だ!

 そう考えるように、そう思うようにしたんじゃなかったのか?


 オレは、自分の心のコントロールがようやく出来るようになったと思ったら、恋心という心のコントロールは、全然、出来ない事がわかった。


 頭では、理解してるし、実行しようともしているのに!

 恋っていうのは、厄介なモノだ!


「・・・・藤堂君、藤堂君!どうしちゃったの?」

 早乙女だった。


 オレは、目を瞑って、紫苑を見ないようにし、そして、彼女はもう居ないと何度も心で唱えることに集中していたので、早乙女の声が、ちょっと聞こえていなかった。


「ごめん、ちょっと、寝てた」

 ウソを言った。


「えっ?何よ!こっちは喋ってるのに!それに寝てたという割には、指をトントンしてたんだけど?」


「ああ、それな、うたた寝するときのクセなんだ、それ」

 また、ウソをついた。


「ふぅーん?まあ、いいや。それでさあ、あのね、この前、藤堂君がドタキャンしたから、紫苑と一緒に話せなかったじゃない?だから、お昼を食べながら一緒にお話ししましょうよ!」


「ああ、いいけど、でも、なんで紫苑にこだわるんだ?」


「だって、親友だし・・・その、私の・・そのボーイフレンドを紹介したいでしょ?」


「えっ?そうなんだ?」


「女の子っていうのは、そういうもんなの!」

(自慢したいに決まってるじゃない!うふふん♬)


 よくわからんが、そういうものなのか?


「わかった、でも、田辺中の子も一緒だけどいいかな?」

「ぜんぜんオッケーよ!ってか、たくさんの人と話したいから、ウエルカムだよ」


「早乙女、なんかキャラ変してない?」

「えっ?・・どういう事かな?わたし、こんな感じだよ」

(ウソをついた。でも、何で知ってるの?)


「ああ、そうなんだ。なんか、パッと見、優等生っぽい感じでツンってしてるっていうか、それなのに喋り方は男の子と良く喋ってる的な?」


「・・そうかな。ま、まあ、うふふふふ、どう?藤堂君は私が優等生のほうがいいのかな?」

(何か、鋭いぞ、藤堂君!時々、鋭い事言うんだよね)


「うん?いや、話しやすいから、今のままで良いよ。そのほうが可愛いから」

 ちょっと、サービスして言ってやった。


「えっ?私に、また告ってきちゃった?藤堂君、まだ私、付き合うって言ってないんだけど」


「えっ?付き合うのか、オレ達?」


「えっ?どうしようかな?」

 チラッ!


「えっと、まずはお友達ってことじゃなかったか?オレ、早乙女のこと、あまり知らないし」


「そ、そうよね!うふふふ、じゃあ、お友達ね!うふふふふ。でも、私も藤堂君の事良く知らないから、もっと沢山話したいな?」

(な~んだ、でも恥ずかしかったけど、言えたよ、わたし!!でも、私って、こんなにアザトイ感じで喋れるんだ?藤堂君だからかな?やだ、恋しちゃったの?)


「そ、そうだな?やっぱ、早乙女って、可愛いな」

 いや、実際、美人にそんな風に言われて、可愛くないなんて思う奴は、男をやめてるヤツだぞ!


「もう、そればっか!でも、うれしいかな・・」

(なんか、やっぱり、恋の予感だよ、これは!わたし、なんか、乙女だよ!)


 こうして、オレは、田辺中のヤツ等とそして、早乙女達とお昼ご飯を一緒にする事にしたのだった。


 高校初のお昼ごはんは、どうなるんだろう?


 紫苑とは上手く話せるのだろうか、オレ?


 でも、遅かれ早かれ、この時が来るんだから、覚悟を決めろ、オレ!


 そして、直ぐにその時はやって来たのだった。




      

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