幸福の男の美しい少女との出会い
街の発展は順調だ。俺みたいな素人が、口を出す事は何もなかった。新しい屋敷の建設も、問題なく進んでいる。今の家では、住める人の数が限られている。やっぱり、大勢、人がいる方が楽しい。それに、家が小さいから、置ける物も限られてしまう。早く、前の屋敷と同じ生活を送りたいものだ。まあ、急がせる理由もないし、気長に待とう。
特にやる事が思いつかない。街の様子は見飽きてしまった。本も読み飽きたし、庭が狭いこの家では運動もできない。何か新しい趣味を探してみようか。
最近はやる事も無くて、退屈だ。街の発展に関して、俺が口を挟む事は無いし。今まで住んでいた屋敷と違って、人も物もないから、やれる事が限られている。ここ最近は家で、ダラダラ過ごしてばかりだ。そんな生活にも飽きたが、やる事がない。何かしようと思っていても、気が付いたら夜になっていたという日が続いている。何とかしないといけない。家にいるとダラダラしてしまうので、街を散歩しながら考えよう。
外を歩くのも、久しぶりな気がする。デブになるのは嫌だから、身体を動かさないといけない。前の屋敷なら、外に出なくても、十分に身体を動かせたのに。そうだ。今、建設中の屋敷を見に行こう。完成はまだまだ、先らしいが、どうなっているのか気になってきた。地下室のある屋敷だ。皆で、地面に大穴を掘っているのだろうか。
「お前、没落貴族のくせに生意気だぞ」
子どもの大きな叫び声が聞こえた。声が聞こえた方を向くと、三人の少年が少女一人を取り囲んでいる。少年三人に絡まれている少女は、少年達をギッと睨みつけると、右手側にいた少年の足を蹴った。蹴られなかった少年二人は、仲間が攻撃された事に怒り、少女に殴りかかった。少女は、少年の攻撃を後ろに下がって避けて、近くに来た少年の頭に拳を振り下ろした。残った少年が、少女を捕まえようとするが、少女に腹を蹴り飛ばされてしまった。最初に足を蹴られた少年が、頭を殴られた少年と一緒に、挟み込むように襲い掛かったが、あっさりといなされて、地面に転がされてしまった。
「バッカじゃないの。弱すぎ。本当にお前ら、キモイし、汚いし、うるさい。下民らしく地面と仲良くしてろよ。この愚図共が」
少女は、地面に倒れている少年の一人を、何度も蹴りつける。一人の少年が立ち上がろうとすると、勢いよく足を振り下ろして、容赦なく踏みつけた。踏みつけられた少年が「ぐえ」とうめき声を上げると、少女は鈴を転すような、愛らしい笑い声を上げた。
「アハハ。なあに、その汚い声。カエルの方が、まだ良い声してるわ。あーあ。カエル以下を踏んづけちゃった。本当、気持ち悪~い」
少女はそう言うと、直ぐ近くで、何もせず、事の成り行きを見ていた俺の方に歩いてきた。直ぐ近くまで来た少女に、思わず「大丈夫」と声を掛けた。少女は足を止めて、俺の方を向く。
「顔だけじゃなく、目まで悪いの?お前。それとも、見ても判らないくらいバカなの?。じゃあ、気安く話しかけないでって、言っても分からないか。頭も残念なんだから」
少女は、嫌そうな顔をしてから、俺を鼻で笑った。自分の言いたい事を言い終わった少女は、俺に見向きもせず、そのまま、歩き去って往った。
少女と別れて後、俺は直ぐ近くの店屋に入って、軽食を注文した。あの少女の姿が、頭から離れない。十二、三歳くらいだろうか。鮮やかな赤い髪に、陶器のような白い肌。人形のような愛らしい顔に、少女の強い意志が宿ったエメラルドの瞳。スラリと伸びた細い手足は、その指先まで、力と自信に満ち溢れていた。美しかった。少女は唯々、美しかった。鮮烈に美しかった。
「アンタも大変だったな」
ハッとして顔を上げると、男性が俺の側に立っていた。俺は、あの少女の事で頭が一杯だったので、曖昧な返事を返した。
「あの子。いっつも、あんな調子なんだよな。お偉い貴族様だったけど、没落しちまって。今は母親と二人暮らしなんだ。自分も働かなきゃ暮らしていけない生活してんのにさ。何時まで経っても、貴族気分が抜けないんだよ」
「貴族。通りで。でも、それにしては、腕っぷしが強いような」
「ああ、それは俺も驚いた。でも、母親の方は、そうでもないから、護身術か何かで、教わってたんじゃないかって話だよ。それか、騎士様の家系だったか」
「はー。なるほど。そうなんですねえ」
「ああ。あの見た目だろ。ちょっかい掛けられて、毎度アレだよ。まあ、見てる分には、面白いから良いんだけど。まあ、でも、そろそろ、大人しくなってほしいもんだよ」
「ハハハ。確かにすごかったですね」
「だろー」と男性も笑いながら答え、そのまま、あの
俺はあの子と仲良くなりたい。どうやら、俺はあの美しい少女に、一目惚れしてしまったようだ。是非とも俺の屋敷で、末永く一緒に暮らしてもらいたい。すぐ傍で、あの美しい少女を思う存分、愛でたい。
今建てている屋敷は、前住んでいた屋敷と同じ造りにしてもらう予定だった。しかし、あの綺麗な
アレコレ考える時間が欲しかったので、建設の手を一度止めてもらった。他にも、色々揃える物もあるし、久しぶりに充実した日々が送れそうだ。あの可憐な
幸福の為に @tomomoku
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