幸福の男と新たな街

 引越しの準備が出来たので、屋敷を出発した。



 まずは、マリア達のいる街に行った。街の屋敷に到着すると、何時もの様に、子ども達とマリア達が出迎えてくれた。数日間、子ども達と一緒に過ごした。故郷の村について、マリアに話しておくべきかと思ったが、心労を掛ける事になると思って止めた。マリアには子どもたちの為にも、子育てに集中してほしい。

 子ども達にも、暫く会えなくなる事を告げた。子ども達は何時もと同じく、笑顔でその事を聞き入れてくれた。

「お父様。お父様に会えない間に私達、もっと、もっと勉強に励んで、運動も頑張って、お父様の役に立てるように、立派に成長します。だから、お父様。楽しみにしていて下さい」

「ああ。ありがとう。でも、俺の為じゃなくて、自分のやりたい事をしてほしいな」

「お父様のお役に立てる様になる事が、私達の夢で、やりたい事なんです」

「そうなのか?」

「はい。もちろんです」

子ども達は、キラキラした笑顔を浮かべている。

「それなら、良いけど。でも、他に夢とかやりたい事ができたら、何時でも言ってくれ。応援するよ」

「はい。もちろんです。お父様。お心遣い、有り難うございます」

「ああ、無理せず、身体を大事にな」

 俺の子ども達は、皆、良い子過ぎる気がする。まあ、子どもの頃は、世界が小さくて、親の存在が大きいものだが。まあ、成長していけば、色々な事を知って、世界が広がっていく。お父さん大好きも、今の内だけだろう。


 故郷の村に向かって、街を出発した。




 故郷の村は、既に、影も形もなくなっていた。そこには、規則正しく建物が建ち並んだ美しい街があった。道には石畳が引かれ、建ち並んだ建物には欠けた所は一つもなく、屋根は鮮やかに発色している。道には、木や街灯が立ち並び、所々に置かれた植木鉢には、鮮やかな花が咲いている。

 すっかり様変わりした村の様子に、愕然とした。こんなに変わってしまうなら、村の復興を始める前に、一度村の様子を見ておけば良かった。幾ら街の中を見渡してみても、想い出の縁になる所は、どこにも見当たらなかった。仕方がない。人任せにしていたのだから。こうなってほしいと、俺が言ったのだから。仕方ない事だ。でも、マリアはどう思うだろうか。俺と違って、マリアは家族との仲が悪かった訳ではなかった。マリアは俺と違って、村に対して、悪い思いを持っていない。マリアに一言、言っておいた方が良かったかもしれない。いや、でも、村に帰ろうと思えば、帰れた。マリアは子どもができたのに、親に会わせようとしなかった。もしかしたら、俺が知らないだけで、マリアも家族と仲が悪かったのだろうか。リズの屋敷に住んでからは、故郷に帰る機会は幾らであった。故郷に帰ろうとしなかったのだから、それ程、気にしていないんだろう。だから、様変わりした故郷の村に驚きこそすれ、嘆く事はないだろう。むしろ、便利になったと喜ぶかもしれない。




 新しくなった故郷での、初めての朝を迎えた。仮の屋敷と聞いていたが、街に立ち並ぶ家々よりも大きかった。しかし、使用人と護衛十数人で生活するには、部屋が足りなかったので、護衛に人達には、近くの家に行ってもらった。幸い、まだ、住人がいなかったので、そのままそこで、暮らしてもらう事になりそうだ。街に着いたので、俺の護衛の仕事は当分無い。獣や盗賊が出たという話も聞いたので、それらを彼等に任せるとしよう。


 街を見て回りたいが、移動の疲れが取れていないので、今日は、この家で、ゆっくりするとしよう。

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