幸福の男と獣人達

 獣人について、連絡がきた。獣人は人よりも、頑丈で力が強いので、農園や鉱山などで奴隷として働いているそうだ。そういった農園や鉱山を買い取るのかと尋ねられたので、出来れば買い取ってほしいと頼んだ。

 農園や鉱山で働いているとなると、かなりの大人数になるだろう。キスでどうにでもなるとは言え、それだけの人数をキスして回るのは面倒だ。想像しただけでうんざりしてくる。

 だが、それだけの数の獣人から、恨まれるのはごめんだ。彼らの負担になると思うが、労働環境や生活環境の改善を頼もう。給料を貰って、酒や女を抱けるようになれば、不満も溜まらなくなるだろう。一つの商会だけでは、負担が大きいだろうが、複数の商会が協力すれば、負担も少なくなって、出来るだろう。




 俺の頼み通りに、獣人がいる農園や鉱山を買い取って、労働環境や生活環境の改善を行ってくれたそうだ。しかし、一緒に働いている人の方が、こっちの言う事を聞かないとの事だ。獣人何かと待遇が同じなんて、おかしいと言っているそうだ。全くバカバカしい。むしろ、より働いている獣人の方が、給料が高くても良いくらいだというのに。いっその事、人を全員解雇して、俺の言う事を聞く連中だけにしようかとも思った。だが、そうすると、今度は解雇した連中から恨まれる事になる。

 そもそも、何で連中は、獣人と同じ待遇が嫌なんだ。自分達の待遇が悪くなった訳でもないのに。他の獣人が、どうなっているか気になるし、実際に見に行ってみよう。




 全く、忌々しい連中だ。もしかしたら、獣人達の態度が悪いのか、とも思ったが、そんな事はなかった。あいつ等は、ただ、見下す相手が欲しいだけだった。あいつ等のあの顔。俺の兄弟達と同じ顔をしていた。人を見下して、優越感に酔いたいだけの奴等の顔だった。人の粗を探して見つけたら、それ見た事かと、バカにする。相手の良い所や優れた部分は、見ない。聞かない。覚えない。本当に胸糞悪い連中だ。自分がやった恩は散々、笠に着るくせに。俺がやった恩は知らぬ存ぜぬで、無かった事にしやがった。本当に腹が立つ。あんな奴等に、何を言っても無駄だ。自分達にとって都合が悪い事は、頭に入らないようになっている。

 今まで獣人の待遇が悪かったから、人と同じにするんだと、何回言っても聞きやしない。それどころか、獣人達の待遇が良くなるなら、自分達の待遇も良くなって当然。ならないのがおかしい。間違っている。自分達の待遇も良くしろ。とまで言ってきやがった。何で、仕事内容も変わっていないのに、給料が良くなると思えるんだか。と言うか、あいつ等、獣人達任せで、碌に仕事をしてやがらなかった。他の鉱山で働いている人を呼び寄せて、一緒に働かせてみたら、あまりの出来の悪さに、仕事の邪魔だとまで言われていた。自分達は、頭の悪い獣人達を監督しないといけなかったからだと言い訳をしていた。獣人達の仕事の様子を見たら、直ぐにバレる嘘を吐いてきたのには、あきれた。そうしたら、今度は、獣人達は頭が悪いから、仕事を全然覚えない。こうして働けているのは、自分達のおかげだと誇ってきやがった。だからって、今、碌に働けなくなっている言い訳にはならない。

 本当にバカな連中だ。下の存在がいたところで、自分達の価値が上がる訳がないってのに。自分達よりも格下がいないと、耐えられないらしい。全員解雇しようと思ったが、引継ぎ等があるので、待ってほしいと、商会の部下に言われた。引継ぎをスムーズにすませる為に、連中の要求通りに待遇を良くして、気分を良くさせ教えてもらう心づもりらしい。俺は経営とか難しい事は分らない。だから、分からない事は、詳しい人に任せるのが正解だと解っている。商会の部下達と話し合って、引継ぎがすんだら、連中を解雇する事に決まった。


 もしかしたら、昔の知り合いがいるかもしれないからと、顔を見られないように、顔には布を掛けた。連中の話は、衝立越しに聞いた。顔を隠しといて良かったと思っている。

 俺の兄弟達も、自分達を差し置いて、俺が良い目を見るのが我慢ならなかった。俺だけじゃなく、周りの人へ俺の悪口を言い触らしていた。その所為で、自分達の評判が悪くなっていったってのに。それを俺の所為にしてきやがった。俺の出来が悪い所為で、自分達まで悪く見られている。と言っていた。それが本当だったら、俺が一番悪く言わるはずなのに、村の人達は、俺に同情して優しくしてくれた。その事を言えば、俺の出来が悪すぎるから、同情されているんだ。と言い返してきた時に、諦めた。

 会う度に、他人の悪口を聞かされていたら、誰だってうんざりする。村の人から、避けられるようになっていったが、そんな恥辱を奴等は認められない。それを認めてしまったら、村での立場が俺より下になってしまう。俺より下になれないから、態度を改めない。それどころか、皆勘違いをしていると、さらに俺の悪口を言うようになって、ドンドン、人が離れていった。

 親や教会の人、村の人からも、何度も注意を受けたが、ダメだった。俺もあいつ等の相手をするだけ、時間の無駄だと思って無視した。それを生意気だと言って、俺を殴ってくるようになった。逆恨みもいいところだが、あいつ等は俺が悪いから、当然の行いらしい。俺が悪いのが前提で絶対で、それを非難する自分達は正しい事をしている。自分が正しい事をしているから、何も悪くない。となって、本当にどうしようもなかった。そういう奴等には、何を言っても無駄なのだ。どうやっても、改まる事はない。いるだけ邪魔にしかならない。だから、とっとと、いなくなってもらう方が、皆の為だ。獣人と違って、就職先はたくさんあるんだ。構う事はない。


 そう言えば、故郷の村はどうなっているだろう。兄弟の事があって、嫌な思い出の方が多い故郷ではあるが、村の人達は俺に良くしてくれた。あいつ等の事が嫌で、二度と帰らないつもりだったが、不思議と気になってきた。故郷の村がどうなっているのか、調べてもらおう。


 農園や鉱山を巡って、獣人達を見て回った。気に入った獣人が何人かいたので、彼女達には、屋敷で働いてもらうキスをする事にした。

 屋敷で雇う事を伝えると、その獣人の家族はとても喜んでくれた。暫くの間、家族と会えなくなるので、後日、屋敷に来るように、手配をしてもらった。




 獣人達の違いには、驚かされた。狼のような耳と尻尾を持つ獣人は、持久力に優れ。猫のような耳と尻尾を持つ獣人は、身体が柔らかく瞬発力に優れていた。熊のような耳と尻尾を持つ獣人は大柄で力が強かった。兎のような耳と尻尾を持つ獣人ディナは耳が良く、ちょこまかと素早く動ける。他にも、山羊や羊のように、角が生えた獣人を見かけたが、ピンとくる子がいなかった。気にはなったが、何時か良い子に出会えるだろうし、無理に、屋敷に来てもらうまでもないと思って、雇わなかった。彼女らを比べるのは、また今度だ。

 狼や熊の獣人は、毛の量が多くふさふさしていた。猫の獣人の毛はツルツルしていた。ディナの毛は、薄いが細くて軽い。それぞれで、抱き心地が違っていて、それが面白くて、何度も抱き比べさせてもらった。




故郷の状況についての、報告書が届いた。俺の故郷は、作物が育たない年が続いた所為で、皆、どこかに行ってしまい。今の村には、数人が残っているだけだそうだ。

 自分の故郷が、無くなってしまうかもしれない。そう思うと、どこか悲しい気持ちになってくる。どうにかできないだろうか。何かできないだろか

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