幸福の男と運命の出会い
屋敷に戻ると、皆が静かに出迎えてくれた。街での暮らしは、賑やかで楽しいのだが、やはり疲れてしまう。俺には、これ位、静かな暮らしが向いている。
ソファに座って一息つくと、新しい子が来た事を告げられた。使用人に連れられて、兎のような耳をした少女が現れた。これが、話に聞いた獣人なのだろうか。少女は服の裾を掴んで、ずっと俯いている。俺が身体を動かす度に、身体をビクリと震わせて、怯えているようだった。
獣人は物語の中で、よく悪者として登場する。話の通じない野蛮人として、描かれる事がほとんどだ。しかし、目の前の少女は、痩せていて弱々しい。金持ちが嗜好品として、獣人をペットにするという話を聞いたことがあったが、この子もそういう子なのだろうか。
取り合えず、目の前で可哀想なほど怯えている少女を、幸せにしてやる事にした。少女の両脇にいる使用人に目くばせすると、二人は少女の腕を抱えて動けないようにする。少女の背後にいたもう一人が、少女の頭を掴んで固定した。何をされるのかと、恐がっている少女に、キスをした。
少女は、リズの義理の娘から送られてきたものだった。リズの義理の娘は、俺と同じくギフト持ちだった。見た相手が、ギフト持ちかどうか分かるらしい。有るか、どうか分かるだけで、ギフトの内容までは分からない。だから、大した力じゃないと言っていたが、それだけで十分だと思う。ギフトの力はすごい。それは、俺が一番良く知っている。何ができるか分からなくても、有ると分かるだけで十分だ。こうして、味方になってくれれば、どんな力でも怖くなくなる。
キスをした少女は、力なく座り込んだままだ。顔を赤く染めて、とろけた瞳で天井を見上げている。今までにない反応だ。心配になって声を掛けると、ビクリと身体を震わせて、俺を見つめてきた。どうしたのかと聞けば、頭がぼうっとしていたらしい。今まで、ずっと不幸だったのに、いきなり幸せになって、吃驚したのだろう。
獣人の少女はディナと呼ぶ事にした。ディナは物心ついた時から、金持ちのペットで、何度も持ち主が変わって、その度に別の名前で呼ばれていたそうだ。ディナと言う名前も、前の持ち主から呼ばれていた名前との事だ。
耳以外は人と同じかと思ったが、手の辺りが毛で覆われている。服を脱いで裸になってもらい、改めて、ディナの姿を観察する。手足や局部の周辺は白い毛に覆われている。よく見ると、手や脚の形等も人とは違っている。後ろを向かせると、腰の下に丸くて白い尻尾が付いていた。尻尾を触るとくすぐったいのか、ディナはピクピクと体を揺らし、小さな声を漏らした。肩口までの長さの髪の毛や、毛に覆われた耳にも触る。髪の毛や耳も、尻尾の毛と同じ感触だ。手や足の方が、毛が太く硬い気がする。手足の毛の方が硬いが、それでも、人の髪の毛と比べて細く柔らかい。気になったので、局部の毛にも触った。アッと声を上げて固まる少女を面白く思いながら、撫でまわす。局部の方が毛が細く薄くなっている。
もう良いぞと声を掛けて手を話すと、ディナはペタリと座り込んでしまった。好奇心に負けて、やり過ぎたと反省する。まだ幼さい少女には早かった。ゆっくり休むように言って、部屋に下がらせた。
今日はゆっくり休もうと思っていたが、ディナの反応が可愛くて、身体が熱を持ってしまった。皆に冷ましてもらうとしよう。
屋敷に来て数日が経って、ディナも落ち着いたようなので、ギフトについて聞いた。ディナのギフトは、一人の命を守るギフトだそうだ。誰かに命を狙われる覚えはないが、妬まれるような生活をしている自覚はある。それに、病気や事故は気を付けていても、起こるものだ。だが、ディナのギフトがあれば、もしもの心配をしなくてすむようになる。これは、良いギフトを手に入れられた。義理の娘に感謝しないといけない。
まあ、痛いのや苦しいのは嫌だから、ディナのギフトの世話にはなりたくはない。それに、彼女のギフトに甘えて、身体を怠けさせては、親として情けない。なるべく身体を鍛えるよう、意識しないといけない。
しかし、ディナの成長には驚かされた。本人も何歳なのか分からないと言っていたが、それにしても、この短期間で随分と成長したものだ。十代前半だと思っていたが、今では、十代後半程度に見える。十分な栄養と睡眠を、取れるようになったからなのか。薄く平らだった身体にも、厚みと凹凸が出来た。女らしくなったディナを見ていると、獣人がどんな具合なのか、気になって仕方ない。だから、ローザにディナの教育を頼んだ。
そう言えば、ディナは、兎のような耳と尻尾を持っているが、物語に出てくる獣人は、狼や猫のような耳と尻尾と言われていた。ディナの抱き心地は良かった。こうなると、他の獣人の具合も確かめたくなってくる。人に頼んで集めるとしよう。
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