第5話幸福の男と二人目の女

 町での生活は順調だった。大きな失敗もなく、仕事も覚えられた。マリアは相変わらず、献身的に俺に尽くしてくれた。

 人の恋路が上手くいっているのを見て、邪魔をしたくなる奴がいるもんだ。それが、サラだった。サラは人気の娼婦だった。メリハリのある身体に、柔らかな笑みを浮かべる綺麗な顔。白い肌に、艶やかで長い亜麻色の髪。サラは、女達の嫉妬と羨望の的だった。だから、そんな自分に、見向きもしないマリアが気に食わなかったのだろう。それとも、俺みたいな、さえない男と付き合っているくせに、幸せそうにしているマリアが、羨ましかったのだろうか。

 サラはマリアに、自分の男や客からもらったプレセントを見せびらかしたり、自分の自慢話をしたり、俺の悪口を吹き込んでいた。それから俺を不安にさせる為か、プレセントをマリアに送ったりもした。その内、自分と仲の良い男を使って、マリアを口説かせ始めた。他の男共も、面白がってマリアを口説くようになっていって、誰が落とせるか、賭け始める始末だった。どんな男にどれ程献身的に口説かれようとも、マリアは俺以外眼中になかった。俺もそれが良く分かっていた。だから、俺達を別れさせようと、俺にもちょっかいを掛けてくる奴がいたが、俺達は喧嘩もなく、仲良く暮らしていた。それに我慢が出来なくなったのか、サラが俺に近寄ってきた。


 サラは魅力的な女だった。他人の男に手を出す悪癖がある事を、皆が知っていた。それでも、サラに言い寄られた男は、自分だけは違う。もしかしたら自分は、と思って篭絡されていった。サラの態度は本当にいじらしかった。俺も、ぐらっとした。でも、サラは散々、俺の悪口をマリアに吹き込んでいた。幾ら良い女でも、自分を罵倒していた女だ。しかも、俺にちょっかいを掛けてきた理由も、俺じゃなくてマリアだと知っていた。それに、その時には俺も、面白くなっていた。百戦錬磨のサラが、田舎者に相手にされないなんて、面白過ぎる。後、俺も賭けに参加していた。


 価値が分からない田舎者に、自分の素晴らしさを教えてやろうと思ったのか、サラが突然、俺にキスをしてきた。そして、サラはすっかり従順俺の女になった。


 サラのおかげで、俺のギフトは、俺の意志に関係なく効果があると分かって良かった。酒に酔っ払った勢いで、キス。何て事を皆の前でやっちっまっていたら、俺のギフトの事が皆にがバレていたかもしれない。何て俺はついているんだ。サラが邪魔が入らないように、二人きりになるようにしていてくれて助かった。


 散々俺を罵倒していたサラが、すっかり従順になったのは、面白くて仕方がなかった。今までの分を、たっぷり、お仕置きさせてもらった。話に聞いて、興味があったが、マリアにするのは気が引けていたアレコレを、試させてもらった。


 サラが俺の女になって、マリアが嫉妬しないか心配だった。だが、マリアは変わらず、献身的に俺に尽くしてくれた。それどころか、サラとも仲良くなった。サラも、あれだけマリアにきつく当たっていたのに、嘘にように仲良くなっていった。普通だったら、女同士の醜い争いになる。だが、そうならないのは、きっと、俺のギフトおかげなのだろう。自分の幸せよりも、まず、第一に、俺の幸福を優先してくれるから、争いにならない。いや、俺の幸福こそが、自分の幸福となるから争わないのだろう。全く、皆を幸せにする、なんて素晴らしい力なんだ。


 サラには、今まで通りにするように言った。男の嫉妬も面倒臭い事を、俺は嫌という程、知っていたからだった。

 さすがに、何もかも、今まで通りとはいかなかったが、上手くやれていたと思う。サラがマリアと仲良くなったのを、皆が不思議がっていたが、マリアは、穏やかで、皆に優しい性格だったから、サラが絆されたのだろうと噂していた。俺に言い寄って、こっ酷く振られて、反省したんじゃないかと言っている奴がいて、笑った。

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