第3話幸福の男とギフト

 たった一人の侵入者が、悠然と戻ってきた。片手には、彼女を抱えている。帝国軍が攻めて来て、反乱軍の人達はそっちを対応している。今、ここに居るのは、訓練兵とその監督役の兵士だけだ。誰かが、助けに来てくれるとは思えない。だから、彼女を助けられるのは、自分だけなのだ。痛みを訴える身体を無視して、目の前に落ちている剣を手に取り、立ち上がった。


 男は、自分の前に立ち塞がった少年を見て、ニヤリと笑った。

 他の連中は地面に寝っ転がっているか。ただ突っ立って、呆然とこちらを見ているだけだというのに。大した奴だ。


 さあ、斬りかかってみろと言う様に、侵入者は旗頭の少女を抱えたまま、空いている片方の手を広げる。侵入者の全身は、先程と同様に真っ黒だ。鋼鉄の様に黒く硬くなった身体は、剣も槍も通さない。そして、その硬くなった腕が振り回されると、侵入者の周りにいた人々は、鈍い音と共に吹き飛ばされていった。

 先程の光景を思い出した少年は、身体をビクリと震わせた。前に構えた剣の柄を握り締めて、侵入者を睨みつけた。恐怖で震える身体を、奥歯を噛み締めて、抑えつける。再び、侵入者はニヤリと笑みを浮かべた。身体が震えた事に気付かれた少年は、怒りに燃えた。走り出して、剣を大きく振りかぶって、振り下ろした。

 振り下ろされた剣の刃が光を放つ。それに気づいた侵入者は、その斬撃を避けようとした。しかし、いつもと違い、その片手には、十代半ばの少女を抱えている。その重さの分、回避が遅れてしまう。光輝く剣が、漆黒の身体を切り裂いた。






 主人公は、何でも切れるギフト持ちのようだ。前に読んだヤツには、夜でも昼間と同じように見えるギフトを持っていた。物語以外でも、少し先の未来が見えるギフトや、真っ直ぐ矢が飛んでいくギフトの話を聞いた。そう言えば、怪力無双の将軍様や癒しの聖女様がいるそうだ。そんな人達と同じく、俺もギフトを持っているという事実が優越感をもたらしてくれる。他の人と比べると、とても立派とは言えないモノだ。だが、それでも、ギフトを持っている人の数は、とても少ない。




 俺は特別な人間なのだ。

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