第2話幸福な男のその日の過ごし方

 朝起きると、隣で女が寝ている。それが、俺の当たり前になっていた。ガキの頃は、こうなるなんて、想像すらしなかった。村で一番可愛い女の子と、仲良くなるとか。付き合うとか。セックスをするとか。そんな程度の事しか考えつかなかった。今では、毎晩、好きな女を選んで寝ている。気が乗らない日は、一人で過ごしたりと、好きにできる。

 俺が起き出した気配を感じてか、隣で寝ていたローザが起き出した。ローザは、寝間着を整え、居住まいを正して、微笑みながら朝の挨拶を行う。衝動的に押し倒したくなるが、それを我慢する。ローザに挨拶を返して、ベットから降りた。俺が身支度を始めると、ローザはそれを手伝い始める。着替え終わり、ローザに礼を言って部屋を出た。


 食堂に行くと、マリーが椅子を引いて、座らせてくれる。待っていると、朝食を持ってきてくれた。パンもスープも程良く温かい。スープ皿に手を伸ばした。

 スープを飲み干して、マリーの方を見ると、マリーは厨房に行って、空になったスープの皿と、温かいスープが入った皿を交換する。

 ガキの頃の朝飯と言えば、硬いパンか昨日の残りの具の少ないスープだった。こんな美味い物があるなんて、知りもしなかった。

 食べ終わったのに合わせて、食器がテーブルから下げられて、お茶が置かれる。出されたお茶を飲み終えて、一息吐くと、マリーが俺の後ろに回る。立ち上がると、それに合わせて椅子が引かれる。美味かったよと言って、食堂を後にした。


 食後の運動を兼ねて、庭園に出る。今日は何をして過ごすかを考えながら、気ままに歩き回る。ガキの頃は、朝から親にアレしろ、コレしろと言われ、気が付いたら夜だった事もあった。今では、俺に指図する奴は、誰もいない。

 相変わらず、庭園は整備されて、木や花で埋め尽くされている。庭師を住み込みで雇っていたが、自分達もやりたいと、彼女達が庭師に弟子入りした時は驚いた。庭師がいなくなって随分立つが、こうして、庭園が維持されているのだから、大したものだ。

 部屋で本を読もうと思い、庭園から図書室へと向かった。


 図書室で、リコリスが本の整理をしていた。本棚から出された本が、机一杯に積み上げられている。申し訳なさそうにしているリコリスに、オススメの本を聞いた。簡単な説明とともに、三冊の本が渡された。渡された本を持って、整理の邪魔をした事を詫びて、自室に戻った。

 ガキの頃は本を読むどころか、文字すら満足に読めなかった。彼女達は、頭の良くない俺に、喜んで文字を教えてくれた。お陰で一つ楽しみが増えた。


 いつも、俺がいない間に、自室は掃除されて、ベットはしわ一つなく整えられている。ベットに寝転がって、本を開いた。

 いつの間にか、眠ってしまっていたようだ。堅苦しい言葉遣いで、何を言っているか分からなかった。今度、ベンダーに朗読してもらおう。あいつの綺麗な声なら、この小難しい話も、スッと頭に入ってくるだろう。

 ドアがノックされて、昼食の用意ができたと告げられる。午後は、手の空いている人と一緒に、何か運動をしよう。ベットから起き上がって、食堂に向かった。


 夕食後は、部屋に戻って、別の本を読む事にした。幼馴染の女の子が、実は、占領された国の王様の子どもで、反乱軍が、その女の子を旗頭として連れて行ってしまう。主人公はその子の力になりたいと、反乱軍の一員として戦っていく話のようだ。こういう戦ったり、冒険したりする話はやっぱり面白い。恋愛物も悪くはないんだが、直ぐ、内容を忘れてしまう。ガキの頃から、これは変わらない。

 そう言えば、マリア達はどうしているだろう。前に会ってから、結構経つ。昔と比べて、色々変わったが、あいつだけは、ガキの頃からの付き合いだ。子どもの様子も気になるし、近々、会いに行こう。考えがまとまったので、再び、本の頁に視線を戻した。

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