第29話

「おはよう」


「おはよう。よく寝れたか?」


「うん」


ご飯の準備を始めているとルシアンも手伝ってくれるみたい。


「新婚みたい」


口から漏れていたようだ。ルシアンはニコリと私に笑顔を向ける。


「オリーブと結婚。俺は嬉しいな」


「えっ」


きっと今の私は顔が真っ赤だと思う。


「う、嬉しい」


「オリーブ、言おうと思っていたんだ。俺はローブを深く被っていたオリーブは無口だが、料理も上手。優しい君に惹かれた。ローブの無い君を見て、更に君を好きになった。俺と結婚して欲しい」


「ありがとう。嬉しい。私もルシアンが好き。でも、私、訳あり女。結婚出来ない」


「俺はどんな訳があろうとも大丈夫。オリーブの居場所になりたいと思っているから」


「素直に嬉しい。気持ちだけ受け取っておくね。今はまだ応える事が出来ない。ごめん」


「大丈夫だ。嬉しいな。オリーブの気持ちが知れただけで充分だ。さぁ、飯を食うか」


 また何事も無かったように野菜スープとパンを食べ始める。


ルシアンと同じ気持ちだった。嬉しい。プロポーズなのかな。されちゃった。嬉しい。ドキドキする。でも、心苦しい。


聖女で無ければすぐにでも結婚したのに。バレるとルシアンと引き離されてしまう。絶対に嫌だ。


でも、どこかの時点でルシアンに告げなければ。


 本日も21階で狩りを始める。昨日と同じようにルシアンは魔法を剣に纏わせ、一気に攻撃する。私は一匹ずつ撃ち落とす。


討伐しては拾う事を繰り返し、ルシアンの魔力が尽き掛けて終了。テントを設営し、【クリーン】を掛けた。


「オリーブ、物も貯まったし、そろそろ帰ってギルドで精算するか?」


「そうだね。一度、精算しに行こう」


食事をしてからテントで休む。今回は一杯貯まった気がする。楽しみだわ。



 やっぱりダンジョンで寝ると時間の感覚がなくなる気がするのよね。でもよく寝たわ。すっかり魔力も戻ってる。ルシアンを起こそうとテントを出ると、既に起きてご飯の用意をしてくれていた。


「もう起きたのか。ゆっくりしてれば良いよ。呼ぶから」


「嬉しい。でも、手伝うわ」


2人で食事の準備をし、隣に座って食べ始める。幸せだわ。食事を終えてからはテントを片付け、転移陣を通り、ギルドへ向かう。


もちろん、ダンジョンから出る前に古いローブをマジックバッグから取り出し、深々と被る。


「オリーブさん精算ですね。タンザナイト15個魔石(極小)20個、9万5千ギルになります。あとはオリーブさんとルシアンさんのPT精算ですね。

ドラゴンハート1個、竜の涙2個、魔石(大)1個、ガーネット120個、魔石(小)200個以上で6百15万ギルになります。

3百7万5千ギルずつ入れておきますね。


あと、ルシアンさんの精算は250万ギルとなっております。ここからお貸ししていた残りのお金210万ギルを精算しました。

これで借用書は破棄となります。おめでとうございます」


借金無くなったんだね。良かった。


「オリーブ、ローブ無くなっただろ?買いに行くか?」


「うん。行く」


 今日位は大人買いしても良いよね。服屋に入り、ワンピースや軽装備用のズボン、冬服、ローブを沢山買ったわ。


やはり、買い物って楽しいね。次に魔法屋へ行っていくつかの本を買う。ルシアンとデートしているみたい。


露店エリアに向かいながらルシアンと話をする。


「借金も無くなったし、たまにはダンジョンを離れて狩りにでも行かないか?」


「うん。良いと思う」


その時、ドンッと私に通行人がぶつかった。


「すみませ、ん」


日本人の癖ね。謝ろうとして気づいた。


・・・あ。不味い。


短刀のような物で腹部を刺されたみたい。

刺された個所からローブは赤く染まり、ボタリ、ボタリと血が地面に落ちてゆく。

私は崩れるように膝をついた。

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