第2話

 宰相が去った後は部屋で過ごし、早めの夕食は侍女さんが持ってきてくれた。客人に出される食事では無く従者達が食べている晩ご飯に切り替えられたようだ。やはり客人では無いらしい。まぁ、マズくはない分マシかな。


 食後は侍女さんにお風呂を用意して貰い、入る事にした。手洗い場の蛇口やお風呂の蛇口には術式が彫られており、聞いてみると魔力持ちの人が使うと自在にお湯が出せるのだとか。


トイレも同じかと思いきや、トイレにはスライムが入っていて食べてくれるのだとか。トイレを流す時に魔力が無ければ悲惨な目に遭うのかとちょっと思ったけれどよかったわ。


それと侍女さんから聞いた話ではこの世界には魔力が少ない人は多くいるが、魔力無しの人はいないらしい。私、お湯出せないじゃん!トイレは良かったけど!色々と最悪だわ。沸々と怒りがまた込み上げてくる。


絶対この国から出て行ってやる。




 次の日、朝食を摂っていると、昨日のローブの人が来た。彼が私の教師となってくれるらしい。彼の名はルイス・トール。21歳。魔法使いらしい。どうやら年下君だったようだ。


「昨日はありがとう。私は桜。24歳。日本という国からきたわ。少しの間ルイス君、宜しくね」


 彼の説明によると、この世界には魔物は存在するが、魔王的なものは居ないらしい。勿論、勇者も居ない。


魔法については庶民も少しながらも使えるため危険のないように使い方を学ぶ必要があるらしく、庶民用の寺子屋みたいな所があるのだとか。貴族は大体家庭教師が付いた上で貴族用の学校に行くらしい。


 そしてこの世界の聖女は教会が認定した治癒魔法が使える人みたい。異世界の聖女とは文献のみに記載されているだけで、実際は召喚をした事は無かったようだ。


何故行われなかったかというと、召喚するには数年かけ素材の調達や儀式を行い、魔法使いが20人程集まり魔力を数日間注ぎ込む必要があるという。文献ではこの世界の人間には無いほどの豊富な魔力を持つ聖女と書かれていたっぽい。


しかしながら今回の召喚により、私が魔力無しであった事、異世界からの少女誘拐ではないかとの大臣達の議論によりこれ以降は召喚する事はないみたい。まぁ、そうよね。


「昨日、召喚された時にも思ったけど、桜は本当に美人だね。僕の彼女になって欲しいよ。街に降りるまでの間の君との時間は貴重だ。今日は僕の膝に乗って勉強するかい?」


「気持ちだけで充分です」


しばしば、ルイス君からおかしな言葉を頂くが、私は放逐される身。遊んでいる場合じゃないのよ。


 私はこの数日間必死で文字を覚えて、貰った紙に必死で書き写した。地図は見せてもらえなかったけど、大まかな国と街の場所は教えてもらった。


後、装備品として私に合ったレイピアやロングソードの中間のような女の人でも扱い易い剣をもらい、騎士達に切り方を教わる。


私は筋が良いらしく街の近くの魔物程度なら大丈夫だろうとの事。朝は武器を使った訓練、昼は語学や街の勉強、夜は復習に時間を費やし寝る間も惜しんで覚える事に専念した。


 そして気づいてしまったんだよね。この世界で過ごしている間に魔力が徐々に溜まっている事に。午前の訓練後、部屋に戻って手を洗おうと蛇口を捻るとお湯が出たんだよ!感動して叫びそうになったわ。


食べ物からの影響なのか、この世界に存在している魔素(?)の影響なのかは謎だけど。私としては市井に放逐されるのだ。ここで私に魔力が有りますって知られると奴隷の様に働かされるに決まっている。嫌だから絶対黙ってるわ。


私はルイス君とは友達位には仲良くなりたかったが、これは諦める。ルイス君を通して私が魔力有りだとバレると奴隷聖女コースまっしぐら。ルイス君との仲も裂かれるだろうしね。ルイス君とも一定の距離を保つわ。


うひひ。魔力万歳!放逐され、街に降りたらすぐ魔法屋に行くんだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る