第64話 二回戦第二試合
二回戦第二試合が始まる少し前。
ガルドが勝利し、ケビンがコックピット内で計器をチェックしていた時、リュネットからの通信が入る。
《ケビン、本来であれば軽量級に合わせたアドバイスを送るところですが、目の前の相手はセオリーが通じる相手ではありません。 下手な先入観は却って危ない。 ですが、我々は一度でもヴァイスレーベンの機動を見ることが出来た。 突破口は、そこから導き出します》
「了解です」
《ヴァイスレーベンはその機体特性を活かした空中戦を得意とする軽量二脚。 攻撃においては射突のタイミングが掴みにくく、加えて、あの機動性……加速度の拍子を変化させることも容易いでしょう。 軽量級は、かわすということが可能なギアなんです》
それは、一回戦の第二試合で闘っていた軽量四脚のことも当てはまることだ。
軽量級――機体重量が軽いことによる運動性能を活かしたフットワークは、ただ装甲で耐えるしかない既存のセオリーを打ち破ることが出来るカテゴリーなのだ。
《基本的にどのルールでも軽量級に対する重量級の戦法はカウンター狙いとなりますが、あのヴァイスレーベンに至ってはそれが非常に困難だということは、先の戦いが示しています。 そして、オールド・スタンダードにて重量級が軽量級を相手にする場合、相手と接触するまでの走行距離が足りないので、エネルギーを貯めることが困難とされています。 結果、十分な射突が行えずにじり貧となる場合がほとんどです》
「相対距離の詰め方が、軽量の方が早いからということですか?」
《その通り。 十分な射突エネルギーを貯めるにはどうしても距離を稼ぐ必要がありますが、組み合わせによってはそれが困難な場合がある。 軽量級対重量級がまさにそれです。 だからこそ、番狂わせともいえる勝敗が生まれることもあるのです。 そして、その溝を埋めるための副兵装がこのガベージダンプでは許されているのですが……》
リュネットの言わんとするその続きを、ベルカが引き継ぐ。
《かと言って、ケビンの技量では付け焼刃の副兵装を使いこなすことはできない。 軽量四脚が装備してたポールみたいに汎用的に利用できるものとなると、それこそ宝の持ち腐れだろう。 それが分かっているから、リュネットは複雑な武装を持たせなかった。 それくらい言わずとも、私もケビンも分かっている》
《ありがとうございます。 ですが、一応できることとして――》
「……」
ケビンはリュネットのアドバイスを振り返り、纏っていたクロークをフィールドに落としてから突撃槍で掬うように突いた後、回すようにしてクロークを巻きつける。
結局のところ、あのヴァイスレーベンの機動性は両肩部のローターが要。
槍を突き出す際に少しでも絡むなり接触するなりしてくれれば、相手の機動力を大きくそぐことが出来るという発案だ。
フィールドの両サイド、二機のガベージダンプ初出場がスタート位置につく。
ヴァイスレーベンは前傾姿勢を取りながら両肩部のローターの回転数を上げ、クロックワークは地面を再度踏みしめ、ディーゼルエンジンを吹かす。
マーシャルが旗を掲げ、勢いよく振り下ろす。
歓声がさらに沸き、同時に向かい合った二機は大地を蹴りだした。
「やっぱり早い……っ」
遠目からでもその加速性能を見て取れたケビン。
クロックワークも悪くないスタートのはずだが、目の前の機体はその数段上を行っている。
狙うはコアよりも上、ローターを巻き込むように射突を繰り出したいところ。
しかし、相手は軸線上の移動に限られるとは言っても、縦横無尽に空を駆けることが出来る。
前戦のように急上昇されたら、突撃槍の狙いが定まらず、はずしてしまう可能性もある。
「迷うくらいなら、照準は初めから両肩部の高さで行く!」
クロックワークは手にした突撃槍の穂先を僅かに上げ、どの様な高度でも最低限対応できるようにして速度を上げ続ける。
すると、それに対応するかのようにヴァイスレーベンは徐々に上昇し、機体一機分ほど高度を上げた。
「このタイミングで上昇?」
ケビンの意識が正面から僅かに上へと逸れたまま両機の距離がゼロになる瞬間――。
「――っ!?」
ケビンが驚愕の声を上げる直前、ヴァイスレーベンは一瞬にして降下し、スライディングしながら着地すると、機体の向きだけヴァイスレーベンに向けて、そのまま突撃槍を突き出してきたのだ。
「くっ……!」
ケビンも苦し紛れに槍を突き出すが、意識と穂先は上に向けられており、さらにコアに強い衝撃を受けたことでその穂先はヴァイスレーベンの頭上を突く結果となった。
『なんと! なんとなんと! これまたとんでもない曲芸を見せてきたヴァイスレーベン! 飛行する機体という意識付けを逆手に取り、まさかのスライディングによって攻撃をぶち込んできた! これは機体性能だけじゃない、抜群の試合センスの持ち主だ!』
当然、実況も観客も沸きに沸いている。
対戦相手である当のケビンですら、その戦法に興奮がさめやらない。
「なんて自由な機体なんだ。 あんな戦い方があるなんて……半端じゃないな。 相手の機士も、機体も……っ」
《はい。 あの機体には、上だけでなく、下もある。 完全に機体特性を把握している動きでした。 これは、実況の言うように、空を飛ぶという先入観を植え付けた上での戦法。 完全にやられました》
《あんな無茶苦茶な戦い方、今までの常識じゃありえないからな》
リュネットの通信に続いて、ベルカがあきれる様に言う。
《ここまでくると、相手に合わせて闘うというのはむしろ悪手といえます。 むしろ、こちらの強みを押し付けていくのが一番です》
「強み……防御力ですか?」
《もちろん、それもあります。 ですが、それ以外にもう一つ――》
リュネットの続く言葉にケビンは息を飲んだ。
そして同時に、持ちうるカードの中ではその札を切る以外に勝利はないということも理解した。
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