第63話 懸念
『来たぜ二回戦第二試合! なんと、例の空飛ぶリーゼ・ギアの機士から、匿名撤回の知らせが届いているぞ! 特異な軽量二脚、その機体はヴァイスレーベン!。 機士の名は――っと、公表が許されるのは機体名だけで、名前は知らされてなかったぜ! HAHAHA!』
会場中から歓声とブーイングが同量で沸き上がるが、傍から聞いていればそれは結局大声でしかないため、結局盛り上がっているようにしか聞こえなかった。
『本来、ジョストに限らず突撃、突進というのは重量がモノを言う! そんな中で、軽量機という存在は非常に異質だ! それでも扱う人間が少なくないのは中量級以上では見られない凄まじい運動性能、それを可能にする軽量フレームと小型軽量のエンジン! 攻撃力でも防御力でも無い、動きで勝利を取りに行くロマンがあふれているからだ! その点で言えば、このヴァイスレーベンは常識を覆す動きで魅せてくれるトリックスター! 次はどんな空中戦を俺たちに見せてくれるのか!』
実況に観客たちが沸き上がる。
未だかつて見たことがない、表舞台ですら見ることが出来なかった機体と試合内容に興奮が冷めやらないようだ。
「ベルキスカ嬢、試合直前ですみませんが少し耳に入れておきたいことが」
「どうした?」
リュネットと共に管制席でケビンの入場を待っていたベルカ。 その視線はフィールドへ進むための合図をバックヤードで待機しているであろう、クロックワークに向けられていた。
「相手の情報を探る上で、作業クルー以外のスタッフを方々に派遣していたのですが、次の相手――本来であれば別の機士が用意されていたようです」
「……何?」
「しかも、代わりに用意された機士というのが、社外の人間があてがわれたようなんです。 外部の人間が、公に公表されていない段階の機体に乗ることなど、機密漏洩の観点から見て普通はあり得ません」
開発中の製品を部外者に見せるということは本来であれば最も懸念すべき事項だ。
もし情報が他社にリークされてしまった場合、その損失は計り知れない。 多額の費用が掛かった開発費が一瞬にして無へと帰してしまう。
「つまり、それを可能にするなんらかの力が働いたうえで、試験運用以外の目的があるということか……。 その外部の人間、名前は分かるか?」
「いえ、そこまでは……。 ですが、ガイオスインダストリーほどの企業に横槍をいれることが出来る組織ともなると、かなり限られます」
「……またなのか」
意図したものなのか、それとも偶然なのか。
この国にそんなことが出来る組織は限られている。
「ええ、ここ最近我々に頻繁に干渉してくるこの国の心臓部です。 ヘムロックに始まり、エイミという分析官、そして我々がこの地へ来たタイミングでの新たなエンカウント」
「だが、どうしてわざわざ機士として送り込んできたんだ? 何が目的だと思う?」
「今はまだ分かりません。 なのでこの試合、勝敗の有無にかかわらず、相手方のバックボーンをより詳細に調べる必要がありそうです。 景品目当てか、評価試験目的なのか、もしくは別の何かがあるのかをはっきりさせるために」
もし景品目当てだというのなら、最新鋭の機体を持ち出すことで勝率を上げるというのはあながち間違っていない。 評価試験も兼ねるとなればさらに意義ある試合だろう。
しかし、それ以外の理由となるとケビン達の陣営は身構えざるをえない。
直近まで王都を中心とした策謀の渦中にいたのだ。
痛くもない腹を探られるような事態はごめん被りたい。
「ベルキスカ嬢、このことをケビンには……」
「集中を乱す。 こういうのは私たち裏方の仕事だ」
「はい、今は目の前の試合に集中してもらいましょう」
リュネットとベルカが目配せをして確認し合う間にも、実況は会場を温めていた。
『続いて姿を現すは、掲げる武装は槍一本という最高にロックな正統派! これから先、どれだけの勝利を時と共に刻み付けるのか! クロックワークという重装を纏う機士、ウォッチメーカー!』
リュネットとケビンの目の前に、高々と槍を掲げて観客へとアピールする漆黒の機体が西ゲートより現れる。
これから闘う相手は、例え本来の機士ではなかったとしても機体性能を十二分に発揮して一回戦を突破した。
――つまり、空を飛ぶなどというピーキーな機体を問題なく乗りこなしているということだ。
余計な思考を抱えたまま闘って勝てる相手ではない。
『一回戦では見事な空中戦を披露して見せたヴァイスレーベンだが、抜群の対応力を見せるウォッチメーカー相手に自慢の立体機動がどこまで通用するのか!? 常識を覆す軽量二脚対、未だにポテンシャルの全容が見えない重量二脚の戦闘が始まるぜー!!』
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