第25話 静寂の中
「ケビン、応答して!! 聞こえますか……ケビン!! くっ、まだ繋がらないのですか!?」
東門の真上に設置された指揮所で、リュネットは繋がらなくなった無線機の原因究明の指示を飛ばしながら、二機がコロシアム北側の壁面で轟音と砂塵を巻き上げながら衝突した光景から目を離せないでいた。
それは、静まり返ったコロシアムでその様子を見ていた観客達も同様だった。 大会実況者すら、その光景に息を飲み、己の本分を忘れてしまっている。
それもそのはず。 最強、英雄、伝説とまで謳われた凄腕の機士であるギルバート・グレイドハイドが、駆け出しの機士を圧倒するどころか、その真逆――完全な劣勢に追い込まれているのだから。
「……よくやってますよ、ケビン」
壁面を背にして迎え撃つという手は、決して悪くない。 ケビンに戦いの経験はないが、頭の回転は早い方だ。 自然と今出来うる最善手を思いついたのだろう。
窮地を攻略のチャンスに生かす機転は、そうそう出来るものじゃない。
「本当に、大した青年だ。 ……しかし、まさかヘムロックにあれだけの度胸と覚悟があったとは」
ぶつかり合った二機のリーゼ・ギア。
一切減速しなかったディノニクスの突進の勢いそのままに、巻き込まれるようにしてコロシアム壁面へ、最高速で縺れるように叩きつけられた。 巻きあがった砂塵で未だに二機の様子が伺えないのは、ヘムロックが一切減速することなく突撃した結果だ。
並みの新人機士であれば、壁面に衝突する恐れから減速するか、操縦ミスをおかしそうなもの。 しかし機体の挙動には、一切躊躇した様子がなかった。 存外肝の据わった男だったようだ。
巻き上がった砂塵が徐々に落ち着き、爆音の発生源に観客の視線が集まる。
ニア・ヴァルムガルドは壁面に叩きつけられた状態で、砕けた突撃槍を突き出したまま微動だにしない。 だがその穂先がディノニクスの右脚部に命中したのはあの一瞬で確認できた。 同様に、ディノニクスの突撃槍がニア・ヴァルムガルドの左腕部に打突されていたのは見えていた。 脚部への打突は判定外。 よって、現在ポイント差は、四……。
「……ケビン」
このラウンド、あわよくばディノニクスの駆動系に一つでも不調をきたしてくれればとも思ったが、不調という点で考えれば、機体の衝突と突撃槍の衝撃をもろに受けたニア・ヴァルムガルドの方が深刻だ。 そして、搭乗者のケビンも、無事とはいかないだろう。
「リュネット会長、無線回復しました!!」
「っ!? よし、良くやってくれました!!」
戦いはまだ終わっていない。 絶望するには早すぎる。 何より、彼はまだ、闘っているのだ。
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