第22話 発進準備
搭乗服に着替え、ケビンは頭部ユニット一体型の搭乗ハッチからバスタブくらい狭いコックピットに滑り込む。
ハッチを閉めた後、集光装置によって集められた光によって窮屈な空間が明るくなった。
搭乗を決意した日から短い期間に何度も経験したことだが、この瞬間だけは何度も緊張している。
「ハーネス固定。 ヘッドセットチェック。 聞こえますか?」
《問題なく聞こえます。 視界はどうですか?》
リュネットからの応答を得て正面の大型反射板に映る外の視界を確認後、その下部に設置された小型の反射板には、機体眼下で作業するクルー達の姿が見えた。
「大丈夫です。 よく見えます」
《
視界を僅かに上げ、反射鏡を利用した後方視認器を確認する。
「大丈夫です。 見えます」
《よし、機体操作の最終チェックはしますか?》
「必要ありません。 全て頭に入っています」
《流石に物覚えがいいですね》
「はは、会長曰く、唯一の取り柄みたいですからね」
《頼もしい限りです。 それに本当なら機種転換訓練が必要なところを、ケビンには余計な癖をつけることなくその機体に専念できたのも、考えようによっては幸運でした。 闘うにしても、操縦できなくては話にならないですからね》
そうは言われても、僕は実戦経験の無いずぶのド素人。
「はい、せめて会長の手足としてまともに動けないと、話になりませんからね」
これは、当然の戦闘プランだ。 実際に戦うのは僕でも、会長の指示を可能な限り忠実に再現することが、僕のもう一つの戦いでもある。 そうでもしなければ、ヘムロックとの決闘は、戦いと呼べるものにすらならないだろう。
《ケビンさん、入場のお声が掛かかりました。 それと、動作チェックの指示は会長から私が引き継ぎます。 カートリッジを装填してください》
グレイドハイド邸にいた時から顔を合わせているメカニッククルーのリーダーの声がヘッドセットに届く。
「了解。 一番、二番装填します」
ケビンは右の足元にある取っ手を膝丈まで引き上げ、それに追従した二筒の穴、双発式のショットガン・スターターに火薬をつめた薬包を二本挿入し、引いていた取っ手を押し込んで、最後は脚で踏み込み、所定の位置に戻す。
《点火》
「点火します」
機体内に響く発破音と同時にスターターリングが噛み合い、機体の心臓部であるパワーユニットのディーゼルエンジンが起動する。 次いでシートから体に伝わる振動、そして様々な計器類が反応を示し、ニア・ヴァルムガルドに火が入った。
「起動確認。 計器正常、警告ランプに問題無し」
《了解、次に動作確認》
「はい。 腕部作動チェック」
両腕の操縦桿を操作し、機体の両腕を肩の位置まで持ち上げ、人と同じ五本指のマニュピレータを開け閉めする。
《外部点検、問題無し》
「
コックピット右壁面に設置された前後にスライドするレバーを握り、後方に引き込み、今度はレバーについたトリガーを引き絞りながら前方に押し出す。
《……右腕部の射突動作確認、問題無し》
「盾の稼動、展開機構チェック」
次に、コックピット左壁面の上下式開閉器のスイッチをオンにする。
《……左肩部の展開式シールド、作動確認》
「スロットルチェックをします。 クルーの皆さんは離れて下さい」
《よし、皆下がれ!! リーゼ・ギアが通るぞ!!》
ペダルを踏み込み、静止状態だった機体を右脚部から前進させる。
「脚部伝達系、問題なし。 踏み込んだ際の違和感はありません」
《外から見ても、稼動範囲に異常は見られません。 今度は小細工の類も全てチェックしました。 安心して闘ってください》
「はい、ありがとうございます」
一度深呼吸をする。 もう、あれこれ考えるのはここまでだ。
足元で見送ってくれるベルカ、ギルバート、リュネットと、今日の日を迎える為に共に頑張ってきたクルー達を一瞥し、正面を見据える。
――行くぞ、ニア・ヴァルムガルド。
「……皆、行ってきます!!」
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