第13話 万策枯渇

 最後のLapとなるであろう最終ターンを終えたギルバートは、右脚部、左腕部の不調、エンジン出力の低下という問題の他に、さらに致命的なトラブルにぶち当たっていた。


「ヴァルムの右腕が、重い……っ」


 左腕部に加え、右腕部まで機能しなくなってきていた。 突撃槍を射突体制である水平に維持するだけでも精一杯だった。 このままではまともに突き出すことはおろか、突撃槍を保持し続けることすら難しいことは、長年の経験から既に悟っている。

 機体の全ての箇所が悲鳴を上げ、コックピット内のあらゆる警告灯が点滅し、警告音が引っ切り無しに響いている。 その全てが、いつ完全に機能停止してもおかしくはないことを示している。

 これまでに経験してきたまっとうなジョスト・エクス・マキナであっても、ここまで機体を損耗させることはなかった。

 機士になったばかりで、しがらみも無く、ただひたすら前だけを見て戦っていた時であっても、ここまでコックピットは煩くならなかった。

 此度の戦闘は、間違いなく現役を離れてからもっとも窮地といえるものだった。

 だが、それでも窮地という程度。

 絶体絶命というほどではない。

 これまでの生涯でいうなら、これ以上の土壇場などいくつもあった。

 それに、ジョストに限らず自身の命をひたすらレイズしたことなど、一度や二度ではない。 領主として、男として生きてきた以上、決着をつける為の勝負ごとは自身の影のようにそこにあった。

 今置かれている状況は、それらの時に比べたら、まだ余裕がある。

 なぜなら、自身にとってジョストは得意芸だ。 窮地を乗り越える為の精神、血反吐を吐きながら身に着けた技術が、自身の体には染み付いて備わっている。

 この程度の窮地、ギルバート・グレイドハイドにとっては立ちはだかる壁ではなく、平坦だった道が多少急勾配になった程度と相違ない。

 決してヘムロックを甘く見ていたわけではない。 力量の差を埋める為に、必ず計略を仕掛けてくることは分かっていた。 しかし、警戒していてもそれに気がつくことが出来なかったのは自分の落ち度だ。


「ケビンにはすまない事をした。 無理につき合わせた挙句、要らぬ負担を強いてしまった。 今回の礼とお詫びをベルカに検討してもらわなくては――」

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