第1話④

(止まってくれた!今ならちゃんと言葉を聞いてくれるかな?)


「こっくりさん、鳥居からお帰り下さい。ありがとうございました。」


十円玉はまだ動かない。

そもそも参加していない私の言葉を聞いてくれるかも分からない。

静まり返った教室に小さく泣き出したナナコのしゃくり上げる声が響いた。

不安そうにミナがこちらを向いたが私は困った顔しか出来ない。


(止まってくれたからには聞く意思はあるんだと思うんだよね……)


私はもう1度、こっくりさんへ言葉を投げかけた。


「こっくりさん、ありがとうございました、鳥居からお帰り下さい。」


止まったままだった十円玉がとてもゆっくりとまだ遊び足りないかの様に渋々といった感じで上へと動き出した。


ここでまた いいえ に行かれるのは嫌だし面倒だったので念を押すようにもう1度声をかける。


「鳥居からお帰り下さい。」


ゆっくりと鳥居へ向かい動き、そして無事に鳥居の所で十円玉が止まった。


最後に指を置いていた三人は「ありがとうございました。」と告げて指を離した。


暫く誰も口を開かず無言のまま動かなかった。

ふと我に返りずっとミホの肩に手を置いていた事を思い出し「ごめん」と言い肩から手を離した。


それをキッカケに泣いていたミホ、ミナ、ナナコは話し出す。


「何なのアレ!誰か動かしてたんじゃないの?」

「私じゃないよ!」

「私だって動かしてないよ、怖かったもん」


三人は半泣きのまま言い合っていたが

見学していたサヤカとマナミはこの怖かった教室から早く去りたいのか帰り支度を終えていた。

「ねぇ、もう帰ろうよ。」

「早く片付けて帰ろう?」


教室の寒かった空気が和らいだ気がし、私は少しだけこっくりさんの事を考えながら帰り支度をした。


興味を失った皆は口々に「帰ろう。」と呟いて帰り支度をする。


使用した紙は細かく破り教室のゴミ箱に捨てた様で、十円玉は帰り道のコンビニで使おうという事だった。


階段を降り、下駄箱で靴を履き替え皆で昇降口を出て歩き出す。


誰ももうこっくりさんについては話していなかった。


帰り道の関係でコンビニに行く前に皆と別れた私は道すがらずっと考えていた。


帰りたがらないこっくりさん。

そもそもこっくりさんって何だろう。

きつね…キツネ…狐…?

(何だっけこっくりさんの漢字…狐と狸と…天狗?違う…狗だ。)

初めてだった。こんなにも面白そうだと思ったのは。

霊がいる。

交信出来る。

怖い事もあるけど基本的には言う事を聞いてくれる……

(やってみたいなぁ、こっくりさん)


(でも何で私の言葉を聞いて帰ってくれたのかが分からない)


何故、私の言葉は効いたのか。

何故あんなにも帰るのを嫌がっていたのにすんなりと帰ったのか。

帰るとはドコの事なのか。

本当に狐だったのか。


私は参加していない。

見ていただけだった。

でもどうして私だったのか。

考えても分からなかった。

でも、面白そうだと俄然興味が湧いた。


その夜、深く眠っていた私は夢を見ることは無かった。






「おはよー」

「おはよう、ミナ、ミホ」

昨日の事など忘れたかの様に笑顔で挨拶して階段を登り、教室へと入っていく。


「「おはよー、ナナコっ!?!!」」

「あ、えっとおはよう二人共…」


先に教室に来ていたナナコへとミホとミナは挨拶しに行くと異変に気付いた。


「昨日二人と別れた後、家の近くで転んじゃってかすり傷なんだけど、やっぱ目立つよね……?」


指を置いていた一人が偶然にも昨日の帰り道で怪我をしていた。

三人は互いに顔を見やり、苦笑いをしていた。

それからこの三人がこっくりさんをしている姿を私は見ませんでした。


           第1話 完 

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