番外編 高校受験日
私、
玄関で久々にローファーを履いた。
服装も久々の制服である。
唯一、銀髪をなんとかしたいと考えた結果、黒髪のウィッグを使う事にした。
憧れの黒髪。鏡で見た時は感動した。
黒髪のボブヘア、似合ってる気がする。
両親も黒髪の私を見て似合ってると言ってくれた。
これは、あの時に私を傷付けた加害者達にバレないようにしたくての事。
受験する高校側にも許可は取ってある。
制服は仕方がないが、見た目は何とか変装出来たと思う。
伊達眼鏡とはいえ、眼鏡をかけてみたら知的に見えて、少し気分は上々。
「じゃあ行こっか」
送り迎えをしてくれる母が言った。
「うん」
私は頷く。
「父さん仕事だからすまない、頑張るんだぞ」
「ありがとうお父さん」
父は今日だけ、私の事が心配で仕事に集中出来なさそうだ。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
玄関のドアを開けた母。
眩しい光が射し込む。
外に出ると、天気は晴れ。雲1つない青空。
太陽ってこんなに眩しいのかと、暑いなと、改めて思った。
風は冷たい。手袋とマフラーを着けて正解。
ずっと中に居たから、外に出て気持ちが軽くなる。
良かった、出られた、順調。
母の車で受験会場に向かった。
※
車から降りて母に見送られながら校門を通る。
受験生の人数に驚き、少し気持ち悪くなる。
玄関で内履きに履き替えて廊下を歩く。
私は別室で受けれる事になっている。
とは言え、受験生達が入る教室と私の別室の階は同じ2階。
どうしたって廊下に出たり、お手洗いは誰かと会ってしまう。
だから、せめてお手洗いだけは他の階の方を使う事に決めた。
別室に入る前に鞄の中を何故か確認し始めた。
受験票、お弁当、お箸、歯磨きセット、ハンカチ、テイッシュ・・・。
えっ・・・
筆記具が・・・ない。
鞄の中をぐちゃぐちゃにしながら、隅々まで見てもなかった。
絶句する。
どうしよう。
キョロキョロしても、誰も私を見ない。
それはそうだ。戦いは始まっている。
他人に構っている場合ではない。
皆、自分の事で精一杯なんだから。
それでも困った。
職員室に行けば借りる事は出来るだろうか?
でも、知らない大人達に見られるのは嫌。
うんうんと考えていると。
「ちゃんと前見ろよ」
「すみません」
ちょっとしたトラブルのような会話の方向を見ると、その人を皆避けるというか、道を譲るように避けられた男子生徒が歩いていた。
それでも、男女構わずぶつかっている。
前を見ているようで、周りを見ていない。
大丈夫かな?
ハッ!私は早く解決しなければならない事を解決しないと。
もう一度、鞄の中を漁る。やっぱりない。
職員室に行きたくない。かと言って受験生である同い年の人に話しかけられない。
帰ろうかな・・・とか思っていると。
「どうしたの?」
「えっ?」
さっきのぼーっとしてる男子生徒君。
話し掛けられた。
「困ってるよね?」
「は、はい・・・」
聞き入ってしまう優しい声。
見た目は眠そうな顔をしてる。
髪の毛なんて整えてきたのだろうけど、一部は明後日の方向に跳ねている。
「筆記具・・・忘れて、しまって」
「あぁー」
すると彼は鞄の中から筆記具を取り出し、その中から。
「はい」
鉛筆1本と消しゴム1つを手のひらに乗せて差し出した。
「でも」
「僕のは僕のであるから大丈夫」
「予備でしょ?」
「予備の予備があるから」
何も考えていないように見えて、ちゃんと考えている人なんだろうな。
「早くしないと遅刻になって印象悪くなるよ」
「あっ、うん」
私は彼の手のひらにあった鉛筆と消しゴムを手にする。
「ありがとう」
「いえいえ」
そう言って彼は教室に入って行った。
ここを合格したら、じゃなく。
ここを必ず合格して、この鉛筆と消しゴムを彼に返そう。
あの人も必ず合格すると思うから。
※
受験会場でまさか知らない女の子に鉛筆と消しゴムを貸すとは。
予備の予備がある、あれは嘘。
困っている人を見て、皆何とも思わないなんて薄情だなーと思った。
それに、あの予備が旅に出ても、なんとなく自分は大丈夫な気がしたから。
あの人が受かって自分も受かれば、その内返ってきそうだし、まあいっかー。
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