悪魔の目にも涙(悪魔の正位置)

「……デビちゃん?」

「……あ? 何か言ったか?」

「さっきから上の空だなと思って」


 普段の態度では考えられない彼の様子に、私は不安を抱いていた。今日の彼は明らかにおかしい、応答が遅いしぼんやりとしている。こんな彼を見るのは弟さんの事で悩んでいる時以来だ。


「もしかして、弟さんと何かあった?」

「何もねえよ、相変わらずトイレにまで付いてきやがる」

「正常運転だね、良かったじゃない」

「前と比べればな、それについては感謝してるぜ」


 そうは言うものの、相変わらず様子がおかしい。気にはなるが本人が話したがるまでは待とうと、雑談を続けていると、不意に口を開いた。


「もうこんな時間か……行きたくねえな」

「確か、会合の時間だよね。何時もは張り切って行くのに珍しい……」

「俺様がいないと盛り上がらねえからな、けど最近は行きたくねえんだよ」

「そうなんだ、そういう日もあるよ。絶対参加じゃないなら、行かなくてもいいんじゃない?」

「……理由、話してもいいか?」


 弱々しく言う彼の様子に驚きつつ、私は承諾した。

 デビちゃんの世界では、不定期ではあるものの、悪魔同士の会合がある。そこでは、今まで人間にしてきた悪戯などを報告し合い、褒め称えたり馬鹿にしたりして楽しむのだという。デビちゃんも今まで見てきた人間の愚かな行動などの話をするものの、その行動にも何かしらの理由があるからと、人を庇うような発言をするらしい。

 ところが、それが良くないのか、仲間からそんな事をいうのはおかしいと、馬鹿にされてしまうのだという。自分の考えを馬鹿にされて、いい気分になるものはいない。毎回会合がある度に馬鹿にされ、嫌気が差してしまっているのだと彼は言った。


「何それ……私直接文句言ってくる!」

「やめとけ、人間が相手に出来るようなやわな奴等じゃねえよ。返り討ちに遭うだけだ」

「でも、何か一言でも言ってやらないと気が済まない。私の家族を馬鹿にされて黙ってなんていられないもの!」

「相変わらず威勢だけはいいな、気持ちだけ受け取ってやるよ……」

「当たり前じゃない。デビちゃんは何時も私や周りの人を助けてくれるし、ちゃんと見てくれる。こんなに素敵な悪魔、他にいないよ。出会ってくれたのが貴方で本当に良かったって思っているんだから……」


 私の言葉に、彼は視線を下に落とす。自分でも驚くほどすんなりと抱き寄せた私は、普段彼が私に言ってくれる言葉をかけてやった。


「泣いていいよ、今は私しか見てないわだし……情けない面は見慣れているから、今更驚かないし引かないよ。デビちゃんだって、私にだったら見られても平気でしょう?」


 その言葉に安心したのか、子供のように泣き出す彼の背中を撫でながら、落ち着くまでずっとそばにいるのだった。

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