ビー玉目(死神の正位置)
「主……今戻った」
「おかえりしー君……ってちょっと! ちゃんと休めているの?」
彼は生真面目だ。それ故に任せられることが多いようで、残業など日常茶飯事。夕方に出かけていき、戻ってくるのはお昼だったりもする。
しー君こと『死神』の正位置は、彼の世界における死神の役目を全うする為に、様々な仕事をこなしている。その多くは生前の生き物の書類整理などだが、近年量が増加しているらしく、それに並行して残業をする事が多くなっていた。
「これくらいどうということは無い……私がやらなければ、後のものに響く。それと比べれば……」
「何言ってるの、こんなに疲れきった顔して……ちゃんと休みなさい!」
「然しまだ……」
「短時間でも良いから、今すぐ眠りなさい!」
無理矢理にでも寝かせなければ、休もうとしないので、私は彼の首根っこを掴むとズルズルと引きずり、彼の部屋へ放り込んだ。何か言いたげな様子の彼に、笑顔を浮かべながら、少しだけ低い声で話しかけると、渋々ベッドの中に入っていった。
彼の部屋は壁紙・床・家具に至るまで全て真っ黒に統一されている。窓はあるものの、微量の光しか入らない。
こんな部屋ではゆっくり休めないと考えた私は、彼の弟である死神くんこと、『死神』の逆位置に相談をすることにした。彼は兄と異なり、とても器用で任された事も時間内にきっちりと終わらせ、定時になると颯爽と帰ってきて、一通り遊んだ後、私と一緒に就寝している。
「兄貴また残業してるの? あいつほんと学習しないよねー」
「ずっとそのスタイルで来てるから、今更変えろって言って変わらないとは思うんだけど……せめて自分から率先して眠りに就いて欲しいんだよね。ただ、しーくんの部屋って凄く暗いから、あれじゃ休めないだろうなって」
「あ、ボクいいものあるよー? この前スター姉ちゃんから貰ったんだけど、主にあげるよ!」
話を聞いた死神くんは、ポケットから小さな袋を取り出し、私に渡してくれた。中を開けてみると、そこには色とりどりのビー玉が入っていた。これはスター姉ちゃんこと、『星』の正位置の世界に売ってるもので、夜や暗い部屋に散りばめるようにして置くと、ビー玉が光出し、まるでプラネタリウムを見ているかのような幻想的な世界を作り出してくれるのだという。
「元々主と寝る時に使おうと思ったんだけど、兄貴深刻そうだし……仕方ないからあげるよ!」
「ありがとう死神くん、何だかんだ言ってもお兄さん想いなんだね」
「別にー!」
しー君が仕事に行っている間に、私は早速ビー玉を部屋へ散りばめてみた。キラキラと色とりどりのビー玉が、神々しく輝き、ふわふわと宙に浮く。その光景は本当に美しく、部屋全体が宇宙にでもなったかのようだった。
「主……今戻……」
「おかえりしー君、そして今すぐ部屋に行こう!」
「え、おい……!」
しー君が戻るやいなや、私は彼の手を引きずり、彼の部屋へ放り込んだ。最初戸惑いを隠せない様子だった彼は、自室の光景を前に、普段の彼からは想像がつかないほどにはしゃぎ、やがてうつらうつらと眠そうにし始めた。倒れないように気を付けながら、ベッドへ寝かせると数分も経たないうちに眠りについてしまった。
「おやすみ、いい夢を……」
普段フードを深く被り見えない目が、この日は少しだけ見ることが出来た。その目はビー玉と同じくらいキラキラと輝いており、とても美しい瞳の持ち主であると分かったのだった。
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