#13-1
#13
「俺と桃慈は、小五の頃からの付き合いだった。当時の俺は、自分の親父の凄さなんて全く理解してないただのガキだった。俺はガキの頃から変わってねぇ、こんな性格だ。当然普通の女子とつるめる筈は無く、男子とばっかり遊んでた。野球とかサッカーとか、スポーツをする時は人数が必要だ。俺はいつだって男子のグループに紛れて暴れまわってた。男子とばっかりいる事を妬んだりする下らねぇ女共から、桃慈はいつも庇ってくれた。桃慈の親父さんの工場も遊び場にしては、よく親父さんを困らせていた。今にして思えば、迷惑だっただろうに、菱川雷太の娘を無碍に扱う事も出来なかったんだろうな。桃慈と俺は親友だった。だけど、俺の知らない所で、親父は会社の事業計画を大幅に変更し、下請けの工場との取引の半分を、引き上げる事を決定していた。その結果、桃慈の家は経営が回らなくなって、親父さんは首を括った。最悪な事に、俺がそれを知ったのは、桃慈の親父さんの葬儀に参列した時に、同級生から揶揄を飛ばされた時だ。家に帰ってから親父を問い質して、ブチ切れて、大泣きした。それもあって、親父は門倉家に頭を下げ、今でも桃慈達の生活の保障をしている。だけど、同級生からの揶揄は止まらねぇし、桃慈は俺に気ぃ使うようになるし、挙句にからかいが桃慈へのいじめに変わったせいで、桃慈は転校しちまった。桃慈が転校してからは、いじめの対象は俺に向いた。桃慈と違ったのは、中身はどうあれ、俺は女だったって事だ。いじめてもいい対象が女に変わると、誰が犯人かも分からない、陰険な女のいじめも始まった。桃慈と親父への逆恨みと、同時に襲ってきた申し訳無さとで、俺の心はぐちゃぐちゃだった。だから、誰も知らない所に行きたくて、俺は遠くの中学校への進学を決めた。
中学生になった俺は、自分を偽りまくった。素性も教師達に頼んで普通の家庭の普通の女みてぇにして過ごした。無理やり女口調を使って、見たくも無いドラマを調べて、必死で女子のグループに混ざった。要は普通になろうとしたんだ。目立ち過ぎず、地味過ぎず、ただただ何処にでもいるような普通の女子中学生を目指して生活をした。別に周りの奴なんて気にしなければ良かったんだけどよぉ、こんな喋り方の女なんて孤立するのは目に見えてたし、一人を気取れる程強くも無かった。あ、言っとくけど、俺不良じゃねぇんだよ。喧嘩は弱ぇし、親父の立場もあるからそんなに悪い事も出来ねぇし、する気も無かった。だから、普通になる事を選んだんだ。上手くやっていける自信はあったんだよ。でも、早晩限界は来た。もういつ頃だったかも覚えてねぇ。その日学校に行った俺は、その日も普通を演じ、普通に無難に、一日を過ごす予定だった。だけど唐突に、確か数学の授業中だったかな? 俺はこうやって自分を騙して一生を生きていくのかと思った瞬間、突然胸が苦しくなって、訳も分からず涙が出た。止まらなかった。泣き崩れながら、床の上をのたうち回った。同級生の突然の奇行、そりゃ奇異の目で見ちまうだろう。けどそれは、俺が一番向けられたく無かった目だ。嫌だった、止めてくれって叫びたかった。だけど、涙と嗚咽が邪魔をして、何も言えなくなっちまった。そんなぼろっかすな俺の耳に、凛とした声が一つ届いた」
『先生! 私保健委員なんで、菱川さんを保健室に連れて行きます』
「それが、桜だった」
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