#4
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「本日は、お時間を取って頂き、ありがとうございました。今回の事件を担当しております。三枝大樹と申します」
「部下の、楢井崎圭っす!」
よく整頓された綺麗な家だなと言う感想を、門倉桃慈の家の中に足を踏み入れた圭と大樹は覚えた。
「刑事さん、よろしくお願いします。門倉桃慈の母、門倉素子と申します。どうぞ、お掛け下さい。こちら粗茶ですが」
素子は恭しく頭を下げた。
「ああ、どうぞ、お気遣い無く」
昭和時代の母親を彷彿させるような、丁寧な対応だった。
「お子さんは、どんな感じの子供ですか?」
「兎に角、真面目で一途な子です。今朝も、桃慈の様子を病院に見に行ったんですが、沢山の管が繋がれていて、本当に苦しそうで……。息子は自殺なんてする子じゃありません。なにか、理由があったはずなんです」
瞳の奥に、ギラリと光る熱さが見える。彼女の中に、ある種の確信めいた物があるのだろうと、大樹は感じた。何か掴んでいるのか、それとも、単なる母親の願いか……。
その時、突如部屋の中に電子音が鳴り響いた。
「ちょっとすいません」
素子が席を立ち、居間の電話の受話器を上げた。
「はい、門倉です」
暫く応対をしていた素子だったが、突然金切り声を上げた。
「もういい加減にして下さい!」
そのままガチャンと乱暴に電話を切り、そそくさとこちらへと戻って来る。
「すいませんでした」
「あの、今のは?」
「いえ、色々来るんです、取材させて欲しいとか、撮影許可が欲しいとか。最初はなるべく対応してたんですけど、連日の事件の報道があんまりで、もう断る事にしたんです」
断る事にした、程度の剣幕では無かったように思うが、大樹も圭も押し黙るしか無かった。
巷では、桃慈だけが生き残ってしまった事が面白おかしく取り上げられていた。心中に失敗し、女だけが死んでしまった。まるで太宰治の人間失格のようだ、なんて無責任な報道も度々飛び交っていた。
「そんな中、我々にはお会いして下さり、誠に恐縮です」
「刑事さんは別ですよ、記事になったりしませんし、事件の解決に役立てて下さるのでしたら、何でもします」
大樹の隣の圭が、作り笑顔のまま静かに冷や汗を流したが、勿論、素子には気づかれなかった。
「屋上から飛び降りる以前、息子さんに何か、変わった様子はありませんでしたか?」
「いえ、特に何も。ただ……、去年の秋頃でしょうか? 彼女が出来たと言って紹介されたのが、水原桜ちゃんでした。ですから、今回の事は、もしかしたら、桃慈は、桜ちゃんを助けようとしたんじゃないかと思いました。結果的には、こんな事になってしまい、悔しい限りですが、私は、自分の息子を、信じたいと思っています」
右手の白いハンカチを強く握り、素子は眦の端を拭った。
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