#3
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11月30日。
桜と桃慈が飛び降りた二日後の話。三枝大樹は改めて背広の襟を正し、一つ深呼吸をして体内の空気を入れ替えた。呼び鈴を押そうとした指に、背後から声が掛けられる。
「三枝刑事!」
大樹が振り向くと、そこにはフリージャーナリスト、楢井崎圭が、敬礼のポーズを取って笑っていた。
「お勤め、お疲れ様です」
「でかい声で刑事と言う単語を出すな!」
「ういー、サーセンサーセン」
「ナラ、お前いつから着いて来てた?」
呆れた様に呟く大樹のため息に、圭は悪戯っ子丸出しの微笑を返す。
「やーだなぁ、私とぐっさんの仲じゃ無いっすかー。水臭い事は言いっこ無しっすよ」
「三流ライター風情と仲を築いた覚えは無い」
「相変わらずひっどい言い方しますね。確かに私の記事が載る雑誌はおよそお上品とは言えないっすけど、これでも一応誇りを持って、フリージャーナリストやってるんすよ?」
楢井崎圭は、文芸夏冬(ぶんげいなつふゆ)と言う週刊誌をメインに活動する、自称フリーのジャーナリストである。芸能人の熱愛報道や、政治家の収賄疑惑など、社会の黒い部分に光を当てる記事が目立つ雑誌の中で、未解決事件や世間を賑わせている事件の裏側に迫ると言う、どちらかと言えば社会派関係の記事を担当していた。
何処かの誰かに流し読みをされる程度の記事をいつも垂れ流している、と言うのが、三枝が彼女の仕事に抱いている率直な感想だった。だが、その行動力が役に立たない訳でも無いので、関係を切ることは敢えてしないままにしている。
所謂、腐れ縁と言う奴だ。
「それから、今日着いてきた理由は何だ?」
「野暮な事言わないで下さいよ~、そりゃー、被害者の親とのアポをフリーランスが直接取るより、刑事のコネに着いて行った方がよっぽど手っ取り早いじゃないっすか? お願いしますっす、同行させて下さいっす」
大樹が両手を合わせる圭を睥睨する。が、圭はお構いなしにしたり顔を崩さないし、隠さない。時計を見やる。約束の時間が迫っていた。
「こちらの見返りは?」
「時間が無いでしょうから、それは後程。でも、私が持ってくる情報が、ぐっさんの希望を下回る事があった事がありましたか?」
確かに圭の持ってくる情報は、警察とは違った角度の面白い物が多いのも確かだ。過去に三度程、下らないネタを交換条件に出された事には目を瞑る事にした。
「いつも通り、俺の部下って形式は崩すなよ。それと、絶対に余計な質問は禁止だ。いいな?」
「モチのロンっすよ!」
圭の軽い返事は受け流し、大樹は約束の時間の2分前に、呼び鈴を押した。
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