第96話 ヒュドラ再戦
「説明しよう! 火薬式ニードルガン! ビッグブラックホーク! 大大刀、大小刀!」
格納庫に響く高らかなサブリの声。
ていうか大小刀ってなんだよ! ニュアンスは分かるけどさ。
「拳銃と剣はオリジナルの約二倍ってことになるわ」
エイジスの全高が3メートルちょっとだから、人が持つより少し大きく感じるな。
「ところでヒュドラの攻撃はどう防ぐの?」
プロフのもっともな疑問。
これまで僕らは、EMP攻撃と火球くらいしか食らっていない。
他の三つの首、正確には一つの首と、四つの発射用の首とでも言ったところか。
『EMPで硬直しなければ避けるぞ?』
アリオはいい加減エイジスから降りろよ。
「あれ、そもそも五つ首ってそれぞれどんな攻撃してくるの?」サブリが首をひねる。
『過去のデータからだけど、本体の捕食用の首以外に、火、酸、毒、風を放つ首っていうか発射管か触手みたいだけど、酸、毒、風のどれかがEMPの発射器官になったんだと思う』
ミライの答えに、過去からこれまでのエネミーデータやこれから現れるであろう敵の情報が残っている事を理解した。
ギガスとかヒュドラとか、あれ? 僕が知っていたのは、過去に戦った記憶があるからなのか。
「なあメロン、そういった敵の情報って記憶に残っていた方が戦いやすいんじゃないのか?」僕は小声で聞く。
「前にも話しましたけど、固定概念が怖いのです。敵はワタシたちの戦い方や装備に合わせ進化しています」
うーん、それはもっともらしい答えなんだけどな。
でも、過去のデータをベースに敵が変化するってことを想定すればいいんじゃないかな?
まだ、僕たちに思い出してほしくない記憶が残っているんだろうか。
僕らがAIから昇格したホムンクルスである以上の衝撃ってなんだ?
『火でも酸でも毒でも風でも避けてみせる!』
『大事なことは現実を知ることだね。これまでアリオが戦った記録は見たけど、まだヒュドラの全貌は掴めていないんだ。想定や準備が足りずに敗北しました、って訳にはいかないでしょ? 慎重にやるのが肝要だとボクは思う』
アリオを窘めるミライ。
「ミライに同意ね。想定以上で圧勝するくらいが望ましいわ」
「で、どんな構成で行くんだ?」エフテに聞く。
「アリオに余計なエネルギーを使わせないようにキャリアーで運びましょう。わたしたち四人が装甲車」
アリオの事だから準備運動とばかりに森の奥まで全力疾走しそうだもんな。
『ボクも行こうか?』
「ミライは残ってて。そのボディだとEMPは怖いでしょ? それにメロンのお守も必要だからね」
「べ、別にお守なんか必要ないです!」
「あらそうなの? ミライがエイジスで帰ってきた時、びーびー泣いたって聞いたけど?」
「ミライ!」真っ赤な顔したメロンの矛先がミライに向けられる。
『もう、エフテは……なんだか余計に外に出たくなったよ』
円筒のボディから流れる電子音声は、苦笑の響きを纏う。
―――――
『まだか?』
「まだよ」
森の奥まで後1キロ。
キャリアーに寝かされているエイジスに乗ったアリオがうるさい。
「そう言えば、装甲車の攻撃手段は何かあるの?」
運転席のプロフが銃座に向かって聞く。
「こっちの兵装は後回しね。アリオがダメならそこで終わりだし」
「思えばいつもこんな感じよね。アリオがダメならそこで終わり」
サブリが答え、エフテが笑う。
「なんでだよ。僕だっているだろうが」
無視されているわけじゃないけど、若干、
「わたしが負傷した後のキョウの戦闘記録は見たわ。敵討ちとしては嬉しかったけど、見ている方は堪らないと思うわよ」
呆れ声のエフテに、隣のプロフが何度も頷く。
「でもさ、アリオは戦闘教官でキョウが戦闘個体だったわけでしょ? キョウの使い方は奥の手ってことなの?」
「こら、サブリ。使い方なんて言わないの」
「あ、ごめん。どうも人も物も同列に見ちゃう癖があって……キョウもごめんね」
「いや、全然気にしてないんだが」
むしろ皆をうまく使おうとしてるのは僕の方だと思うぞ。
「でね、実際問題、エイジスを一番うまく使えるのがアリオ。ヒュドラを倒さないと次のステージに行けない。次のステージに行かないと敵が現れず、わたしたちの熟練度が上げられない。熟練度が上がらないとエイジスをうまく運用できない。うまく運用できないと、大事なエイジスやわたしたちそのものを失うことになる。というわけだけど」
くどい言い方だが異論は無いんだよな。
僕らがエイジスに乗っても、陽動くらいにしか使えないかも。
何体あっても、勝てるとは限らないんだし。
僕は腰の後ろの短刀を撫でる。
こいつで戦える相手には限度がある。
だから、エイジスに乗った……?
そう言えば「眠らずの竜」と対峙した記憶、あれが過去の記憶だとするならば、僕はエイジスに乗っていた。
大気が毒で、僕と
いや、過去の記憶は当てにならない。
それはサブリの疑似記憶が証明している。
それに、僕が人間だったからといって、それがなんになる。
だからメロンは今の僕を代用品にしてる。
そんな想定や想像はいくらでもできる。
大事なのは、
「中央広場まで100メートル」
予定通り、所定の位置でプロフは停める。
「アリオ着いたわよ」
『おう、リフトアップ!』
エフテの合図で待ち構えていたアリオが、音声入力でキャリアのベッドを起こす。
右腕にニードルガン。右腿の固定ブラケットにブラックホーク。左腿に大小の刀。
「誤動作の懸念があるからこれより通信機器もオフにするわ。アリオ、手筈通り自己判断で。ただしワイヤーだけは外しちゃだめよ」
『おう! そっちも俺が止まるまでワイヤーを曳くなよ。それじゃ、行って来る』
通信が終わると、エイジスは歩き出す。
緊急回収用のワイヤーが自動で繰り出される。
ラチェットによるストッパーとスプリングによって、動力が死んでもロックを外せば強制的に巻ける機構だ。
ワイヤーの長さは500メートル。
ヒュドラのいる広場は直径100メートルのエリアだから、長さは十分でも、動きに合わせてワイヤーの出し戻しを行う必要がある。
エイジスに少し遅れ、装甲車もゆっくりと広場に進む。
「ヒュドラのEMP効果範囲は?」
エフテが誰ともなしに聞く。
僕らは何度か経験しているが、エフテは初めてだ。
復習も含めて答える。
「森と広場の境界線あたりだね、アイツの位置から考えると射程は50メートル」
「長距離攻撃の効果は?」
「レーザーはバリアみたいなフィールドで弾く。ミサイルは火球で迎撃された」
「予定通り広場の手前で停止。プロフ、相対距離60メートルを維持。サブリ、銃座からワイヤーの出し入れを目視で」
「了解」「りょーかい」
あれ、ところで僕は?
確認してなかったので後部座席のエフテを見る。
「キョウは見学」
なんだよ、そのいろいろ持て余したみたいな言い方はさ。
『ボクは?』
「分析と危険度の把握、緊急時の対応を頼むわね」
アルゴー号で留守番のミライですら要職に就いているというのに!
「キョウは無職」うるさいぞプロフ。
「起きるわよ」サブリの真剣な声。
モニターとのぞき窓から見えるヒュドラは、久しぶりの運動とばかりにゆっくりとその首を持ち上げる。
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