第95話 リベンジに向けて

『おお! 感覚が、鋭敏さが、反応が、段違いだ!』


 改造完了の声でエイジスに飛び乗ったアリオが起動後に喚く。


「あれ、電子制御は使わないんじゃ?」


 マイクや外部スピーカーも生体部品?


「EMPを食らうまでは普通に電子制御するわよ。同期も電子アシストを使う方が搭乗者の負担も減るからね。それに対EMP武装がまだ用意できてないし」


『武器なんかいらんぞ、この拳があれば十分だ!』


 サブリの答えに、エイジスでシャドーボクシングしながら反応するアリオ。


「いくら硬直しなくなったところで、ヒュドラの攻撃を躱して肉弾戦なんて無理」


 プロフも呆れ顔で呟く。


「そこなのよね。対EMPや同期に目処が立ったところで、確実に倒すにはそれなりの武装がいるわ」


 エフテが目覚めた時に言った、大丈夫って言葉は、少なくともヒュドラと戦える状況になるって意味か。

 それにしても、電子化されていない武装……拳銃や刀とか?


「ふふん、その辺はこの三か月でいろいろ試作中よ!」


「サブリちゃん偉い」


「へへへ、まあ、エイジスの問題が解決しなかったから仕方なくそっちに逃げてただけなんだけどね」


『どんなのがあるんだ?』


 アリオはエイジスでスクワットをしながら聞いてくる。

 いや、その人工筋肉、そんなことしても強度は上がらんだろうが。


「まんまブラックホークと大刀、小刀よ。後、ニードルガンをカートリッジ弾薬式に改造したの」


「それって、ショットガンみたいな?」浮かんだ用語を問いかける。


「そう、シェルの中身に針を詰め込んで、炸薬で発射。30連装のマガジンにしたの」


『すぐ出してくれ!』


「試作中って言ったでしょ? こっちの改造に集中してたんだから少し待ってよ」


『製作、ボクも手伝えるよ? 僕の場合、過去の知識がフルアクセスできるから役に立てると思う』


 ミライが、円筒ボディからマニュピレータを展開させ自己アピールする。

 それにしても、フルアクセスだと?


「それじゃあ、旧世代の火薬式拳銃って……」


『刀やライフルも含めて、ボクが過去のデータを参考にして作ったんだ。対EMP用にね』


 エフテの疑問にまたしてもドヤるミライ。

 この子も、長い時間ずっとメロンと二人で打開策を考えていたのかもな。

 つーかネタ装備じゃなかったのか。


「過去のデータねぇ、参考までに聞くけど、何を見たの?」


『アース、じゃなかった、アリオの愛読してたマンガだよ』


『俺の愛読書? なるほど、だから懐かしい感じがしたのか』


『作れる技術はあっても、拳銃なんて作る意味は無かったからね』


「それじゃあ僕の短刀もミライが作ってくれたのか?」


『あー、えと、あれは元々この船に積んであったんだよ! だから修復はできても再製作はできないからね、大事に使うように!』


 大事にも何も、あのサイズじゃ生身の体で使う前提だよな。


「あれ、僕たちもエイジスに乗るんだよね?」


 短刀、エイジスに持たせられるのか?


「乗るって言うか着るっていうか」


「もちろん、五人で乗るわよ」


 僕の疑問にサブリが訂正しエフテが肯定する。


「他の四機は?」


『現在は自動で改造中だよ。正直アリオ以外の四人は肉体操作練度が足らないから、まだ、あまりおススメできないんだけどね』


 プロフの問いにミライが答える。

 結局はレベル上げが必要、いや、もうポイントだのレベルだのってのは関係なさそうだけどな。


「あたしは戦闘より新規兵装とか作っていたいんだけどなぁ」


「諦めなさい。わたしだって戦闘向きじゃないけど、理論上は五機のエイジスが必要なの。最終決戦に向けてエイジスの熟練度を上げる必要があるわ」


 嘆くサブリに苦笑で返すエフテ。

 以前、メロンにも言われたな。


〝最初からあなた方にこの船の全てを与えると、終盤までは簡単に辿り着けるんです。RPGゲームで言うとコード改造。でもラスボス戦はシューティングやアクションゲームみたいな? 積み上げた経験則やテクニックが無いと戦えません〟


 そう言えば。


「なあメロン、人工生命体で戦いに挑んだ場合、勝率0%って言ってなかったっけ?」


「あれは、人格を抜きにした一般的なAIの場合です。皆さんはAGIとして人と遜色ないほどの瞬間判断力を備えています」


『そういうこと。ボクがエイジスをあまりうまく使えない理由でもあるね。体に慣れないとエイジスを完全に運用できないのさ』


「あたしはうまく使える気がしないけどね。ま、そんなことよりアリオ、待ってて! すぐに用意するからさ! 試作品だけど!」


 サブリはどこまでも戦場に拒否感を持っている?

 そりゃあ僕だって積極的に戦う……この星を侵略したいなんて思っていない。

 メロンと同じ人間になれる可能性を考えてるだけだ。

 そして、他の皆に目的は無い。

 エフテやアリオは義務感からか前向きでいてくれるけど、サブリやプロフに戦う理由は、今となってはもう、無いはずなんだ。



 それから二日、サブリとミライは工作室で武器を作った。

 皆はそれを眺め、アリオはエイジスから出てこなかった。


 僕とメロンは、男性居住区の僕の部屋で、ゆったりとした夜を過ごす。

 想いを伝え、それを無理やり受け入れさせてから、メロンは僕と一緒に寝るようになっていた。

 寝るじゃない、眠るだ。

 あ、いや、その前に寝るけどさ。


「皆との新しい関係はどう?」


 僕の左腕を枕に息を整えているメロンに聞いてみる。


「……はぁ……うん。前と、変わらないかな」


 未だ上気した表情のメロンはポツリと答える。


「それにしても、まだ信じられないよ。僕がホムンクルスだなんてさ。だって体を動かすことになんの違和感も持っていないんだよ?」


 僕は右手を上げ、手のひらを照明に透かしてみる。

 この体に流れている血液は紫色なんだよな。

 それがホムンクルスの証だとは思わなかったけどさ。


「……それはきっと、前に人を模したボディを持っていたからかもしれません」


「そう言えば、アリオとサブリはそれぞれ体を持っていたんだっけ?」


「……ごめんなさい。昔の事なので、あまり覚えていなくて」


 274年前、か。


「その時さ、メロンは何歳だったんだ?」


「じゅう、ろくです……でも、ミライが起動してからは、それから何度も長期睡眠して、たまに起きて、だから290歳なんてことはなくて」


「あ、いや、そんなことは別に……容姿や体形を好きになったわけじゃないし」


「なんで、好きになってくれたんですか?」


 メロンは僕の胸元に顔を埋め、小さな声で聞く。

 なんで?

 それまでの僕は自分が人間だと思っていた。

 人間ってのは、どんな対象にだって想いを抱けるもんだって漠然と思っていた。

 人と変わらぬ(実際に人だった)メロンの肉体に溺れたのは事実だが、そんな行為だけが、想いの理由なんだろうか。

 それじゃあまりにも思春期の少年みたいじゃないか。

 それに、なんでホムンクルスの僕に、そんな衝動が存在しているんだろう。

 人のカラダに欲情する人工生命体。

 そんなものが人の世界に存在していたら、かなり恐怖じゃないか?


 黙って思案に耽る僕に不安を感じたのか、メロンが心配そうに顔を上げる。


「人になれば、お前を好きになった理由が分かるかもな」


 怒られるかもしれないが正直に答えた。

 メロンは何故か嬉しそうに微笑んだ。

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