第83話 心残りの理由
安らかな目覚めが訪れる。
なんて夢だ。
僕とメロンがエイジスに乗って、デカい竜と戦った夢。
移民船団の本体?
何万の人々?
しかも、200機のエイジス?
どこにそんなものが?
それに、大気が毒? 僕は普通に地上に出てるぞ?
覚醒に伴い、明瞭だった夢の光景はどんどんと希薄になっていく。
昨日の戦闘で味わった昂揚と怒りがこんな終末思想を思い浮かばせているのかもな。
ただ〝眠らずの竜〟
その名前だけは、着替えてドリンクを飲んでも、ずっと心に残っていた。
居間にはまだ誰もいない。
時刻は、朝6時半。
思えばここに来るのも、エフテが一番早かった気がする。
あいつが目覚めて、まだそんなに経ってないのに、なんだかずっと一緒に居る気がする。
ずっと、あいつを頼ってきた気がする。
ソファに座り、寝台室に繋がる扉を見つめる。
本当に大丈夫なのか。
それに、千切れた腕はどうなってしまうのか。
腕だけを機械化するのは難しいって誰かが言ってたっけ。
いずれにせよ、人の手は勝手に生えてこないし、簡単に元通りってことはないんだろう。
エフテはエイジスに乗れるのか?
あの時、助けに来てくれたエイジスを入れれば、かろうじてまだ五機になるだろうけど。
……五機のエイジスが必要?
200機のエイジスでも歯が立たなかったのに?
いや、あれは夢だ。きっと、いろんな不安が混ざったんだろう。
でも、勝てるのか。
最後まで行けるのか。
そもそも、何のためにそこに行くのか。
僕はまた考える。
覚えてもいない、連絡も取れない移民船団のために「金色の羊毛」を手に入れる。
僕らの命を使って、人類が生き延びるための活動をするだと?
なんで、僕たちがそんな事をしなくちゃいけないんだ?
何もせず、皆で楽しく生きるんじゃだめなのか?
……メロン。
失いたくない。
三年経って肉体を維持できなくなっても、人格や記憶は残るんだろ?
体を、器を失うだけじゃないか。
僕はあいつのカラダだけを求めているのか?
でも、メロンとはなんだ。
心が残っていればあいつなのか?
電子化されてもメロンなのか?
無機物になっても……そもそも僕はホムンクルスを本気で好きになっているのか?
「好き」
生殖のため雌雄が結びつく合図のような言葉。
そんな機能を持たないホムンクルスに、何故こんな想いを抱くんだ。
僕はどうすればいいんだろう。
なあエフテ、教えてくれよ。
いつもみたいに、澄ました顔で、僕の悩みを笑い飛ばしてくれよ。
それからしばらくして、アリオ、プロフ、サブリが現れる。
彼らは膝を抱えた僕を見ても何も言わず、ソファのいつもの場所に座る。
ぽっかり空いたエフテが座るスペースに、小さい体が持っていた存在感の大きさを知る。
「辛気臭い……」プロフが呟く。
「これからどうするんだっけ?」沈黙が途切れ、サブリも続く。
「エフテと外の状況はどうなってる?」アリオも、機会を待ってたみたいだ。
それもそうだ。
外はどうなってる?
危険は迫っていないのだろうか。
黙ったままホロモニターを表示させる。
船から森までの広域が映し出されている。
殺風景な光景の中、随所に抉られた大地や、死体の山が彩りを添えている。
「……ドローン、堕とされたんだっけ?」久しぶりに出した声は掠れていた。
「ああ、デカぶつのヤリでな。森からいきなり飛び出してきて、上空に待機してたドローン隊を一気にやられた。いくら三次元機動が出来ても、回避速度を上回る暴力には対応できないってことだ。ヤリも頑丈だったしな。俺もレーザーで攻撃したんだけど、過負荷で打ち止め、仕方なく敗走したってわけだ」
「あいつの槍って、何だったの? 人工物? キョウも細切れにしてたけどさ」
「ギガスの斧みたいなもの?」
サブリもプロフも僕に聞くなよ。
思い出しても不快な気持ちは残ってるけど、あれの正体なんか……知らないはずなのに、なんだ? また記憶が混濁している。
「で、聞かなくちゃいけないと思うから聞くけどさ、キョウ、あなたって何者なの? ギガスの時も思ったけど、昨日のも。普通のオークなら、何百体いても全滅させる勢いだったけど?」
「デカぶつも瞬殺だったけどな。俺ですら命の危険を感じたってのに」
「だから、頭に来ただけだってば。命を顧みないヤケクソな行動。残りの奴らが逃げなかったら、僕はあの場で嬲り殺されてたよ」
そんなつもりはないけど、そう言っておく。
「見てられない……」プロフは少し怒っているようだ。
「修理も済んで無事だったからいいだろ? って、エフテのこと、メロンに聞かなくちゃな」
矛先を変えたくて、話題を逸らし、デバイスからメロンにコールする。
『……はい。なんですか』
昨夜も部屋に訪れなかったから、何かしら機嫌も悪いんだろうとは思っていたが、不機嫌な口調を隠すつもりもないらしい。
「エフテはどうだ?」
『命に別状はありません。変化があればこちらから連絡します。忙しいのでもういいですか?』
「いや、ちょっと待って。忙しいってエフテ絡みか? 何か手伝えることは?」
『エフテは問題ありません。別の要件です』
「じゃあ、もう一つ。外に出られるか?」
『PPP反応はモニターしてます。脅威は今のところありませんし、あなたはもう戦おうとしないでください!』
「な、に怒ってんだよ……」
『怒ってません、失礼します』通信が切れる。
「メロンがキレるなんて……」
「ほんとよねー、ま、キョウの戦い方を見れば誰だって心配になるわよね」
「積極的に戦う意志を持たずに、あれだけやれるんだからな。でも、そのアンバランスさは、いいことじゃないぞ?」
「別に、能ある鷹がなんとやら、を気取ってるわけじゃないよ。ただ、戦うってことにいまいち気が乗らないだけ」
「その結果、エフテちゃんは怪我をした……」
「なんでもかんでも僕のせいにするなよ! 死体の山に隠れてたんだ。ご丁寧にドローンの破片を拾って、それを投げてくるなんて、誰が想像できたんだよ」
「プロフ、あれはしょうがないよ。キョウは修理の為に両手がふさがってたし、エフテが庇わなければキョウは死んでいたかもね」
それでも良かったんだ。
そうすればこんな風にいろんなこと悩まずに、僕はゆっくりと眠ることが出来る。
心残りがあるとすれば……。
「おい! ちょっとこれ!」アリオがモニターを凝視して叫ぶ。
「え? デカいのが、二……三体?」
オークキングが三体、ゆっくりと森から現れていた。
「武器は持ってない……」
プロフの言葉に安堵はできない。
武器なんか持ってなくても、あいつらのパワーなら放電攻撃で死に絶えるまでに、この船に致命的な損害を与えるだろう。
「メロン! 出るぞ! 短刀を用意しろ!」
「俺も行くぞ! 二人はここで待ってろ」
「私も行く」
「あたしは、えっと、どうしよう!」
『キョウの出撃は、許可できません』
「お前……状況が分かってんのか!」
『分かっています。なのでアリオ、サブリ、格納庫までお願いします』
「な、んで?」絶句する。
『あなたではレベルが足りないからです』
「レベルってなんだ?」
アリオの問いにメロンは答える。
『エイジスの操作です』
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