第78話 死神の参戦

「これ、普通に艦載機じゃないか?」


 翌朝、僕らはAドローンの採用試験として、船外で実技試験を行わせている。

 ついでにDドローンもセットで、二基を格納庫の上部ハッチから出撃させた。

 格納庫にあるモニターに、船から見た周囲と、それぞれのドローンからの映像を映し出して評価中だ。


「艦載機というより、スプラッタ製造機よね」


 なんだよサブリ、スプラッタって。


「おにく、食べられなくなる……」


 プロフはそもそもスイーツしか口にしてないだろうが。


「露払い、どころじゃないわね。今のところ最高戦力よ」


 エフテが冷静に戦況、いや、惨劇を検証している。


「でも、制限はたくさんあるだろ? 三次元で動ける大空間が必要で、どうせ稼働時間も少ないんだろ」


 アリオはオークのポイントを横取りされていると感じるのか、なんとも悔しそうだ。


『地上であれば指向性のエネルギー供給は可能なので運用時間の制約はありませんが、可動部の剛性や耐久性が長時間は持ちません。なので瞬間的な運用には効果的ですが、継続した戦闘には不向きです。本来は行軍の斥候や、敗走時の後続配置が主となります』


 格納庫のスピーカーから聞こえるメロンの声はそう言うけどな、自由自在な三次元移動を繰り返し、敵に切り込むAとDのコンビは、実に無情に命を狩り取って、その有用性は僕らの想像を遥かに越えているぞ?


 Dが四枚の円盤を回転させ、飛来するオークの棍棒を弾く。

 華奢な円盤はエネルギーフィールドも纏っているみたいだけど、当て方が実に上手い。棍棒の飛来ベクトルに対し、反力がかからないような当て方で、運動エネルギーを無力化して難なく弾く。すると、Aは数メートル上空から異様な軌道を描き、回転刃でオークを切り刻む。

 

 すでにどちらのドローンも返り血で凄い有様だ。

 屠ったオークは50体を越えていた。


 ただ、それが僕らにとって良い状態かと言うと、微妙な判断となる。


「恐怖を覚えないって、動物の本能として問題があり過ぎるでしょうが」


 サブリの呆れたような声が、状況の難しさ端的に表した。


「いや、戦闘に特化した生き物なら、全滅も厭わずに戦うモノもいるぞ」


 おいアリオ、それは僕らの事じゃないよな? そうだとしても、僕らをお前の自論に巻きこむなよ。


「せめて恐怖に怯えて、少しでも退却するとかしてくれると助かるんだけど、どんどん増援が増えてないかしら?」


「ウィルスに対抗して抗体は増える……」


 エフテの疑問にプロフが呟きで返すが、確か以前もそんなこと言ってたよな。

 僕らは惑星コルキスに進入した病原体。

 幻想生物は免疫機能。

 僕らは「金色の羊毛」を支配し、種の苗床として活用するつもりでいる。

 客観的に考えても、大義も正義も無い、おぞましい話なんだよな。


 とは言え、積極的に死にたいとは思わないし、どうだろう、この星の一部分だけでも、棲まわせていただけないだろうか?

 でも、既にそんな交渉をする段階は越えているだろうな。


 あいつら、全力で僕らを排除するつもりだろうし。


「次から次へと……ドローンで倒した以上に増えてるよぉ」


 サブリはそんな泣き言を喚くが、泣きたいのは向こうも同じだと思うぞ。


「ところでメロン、AとDのドローンって在庫はどのくらいあるの?」


 エフテが虚空に問いかける。


『下部ユニットの在庫はそれぞれ三機あります。増産も可能ですが、どちらか一機の製造に一日はかかります』


「それじゃ現在は、合計四セット同時運用が可能と考えていいのね」


『可能ではありますが、懸念もあります。現在、PPPセンサーの自動修理中で、010の群れが森の中にどれだけ存在するかはっきりしません。余力は残しておくことを推奨します』


「そうも言ってられそうにないのよねぇ」


 エフテとメロンのやり取りの間に、ADドローンの狩場以外の場所で、多くのオークが狂ったように棍棒の投擲を始めていた。

 それが船体にどんな影響を及ぼすか、考えたくも無いな。


「なんとなくさ、船の傷があるあたりや、スラスター関連の部位を狙ってる感じがしない?」


 僕は感じていた懸念を口に出す。

 

「そろそろ放電を恐れず捨て身の攻撃に移るかも……」


 プロフよしなさい。フラグを立てるのは!


「ちょ、嫌なこと言わないでよ! それに放電銃の効果を知ってるから、あの距離で棍棒投げをしてるんでしょ?」


 サブリは恐慌寸前だ。


「仲間の死体で壁を作ったり、盾にしてガードしながら突撃するかもね。既にヤツらの逆鱗に触れたのは間違いないから、もう殲滅戦しかないのよ。一旦、ドローンたちを引き上げましょ。それから最大の資源で修理作戦を決行しましょう」


 エフテの凛とした声が頼もしい。


―――――


「実に執念を感じるな」


 敵ながらあっぱれ、とばかりにアリオが感嘆する。


 AとDのドローンが上部ハッチから帰還する際、当然のことながら変形は解除するのだが、その瞬間を狙われた。

 Dが防御機構を格納し先に帰還し、Aが回転刃を収納中に棍棒の直撃を食らい、そのまま船体外部を滑り落ち、地面に落下した。


 それからは連中に棍棒で袋叩きだ。


「うっわ、見てられない……」サブリがモニターに映る惨劇を見て、口元を押さえ目を背ける。


「明日は我が身……」だからプロフ、そういうのよしなさい!


「これ、あいつらが落ち着くまで待った方がいいんじゃない?」


 思わずそんな及び腰な提案をする。


「キョウは、仲間がやられてそのままでいられる?」


「なるほど。そりゃそうだな」


 普通でいられるはずはない。

 何万人だろうが、一人だろうが、やられたらやり返すだけだ。


「エフテの言う通り殲滅戦だからな。つっても、俺はお前らを誰一人として失うつもりはないぞ? こっちの陣営が一人でも残ったらバンザイなんてダメだ。誰か一人でも失ったら、それは俺の負けだ」


 もう戻れないしめない。アリオはそう言っている。


「できるだけさぁ、ドローンたちも労わってあげてよね。兵装も道具も大切な仲間だよ?」


「優先順位を見誤っちゃダメ」


「……プロフは何を優先するつもり?」


 エフテはそんな質問の最中、僕を一瞥する。こっち見るんじゃねぇよ。


「目的を果たすため、絶対に失えないモノはある。エフテも分かるでしょ?」


 プロフは「エフテちゃん」と言わなかった。

 それだけ真剣な言葉だったのだろうか。


「わたしはきっと悲観主義者なのよ。だからどれ一つ失いたくないから、全員の生存確率を最大に考える。いつでもね」


「やることは変わらんだろ? 精一杯やってダメでしたじゃなく、勝てる作戦で行こうぜ」


「まずはとにかく、船の修理をしよう。そうすれば最前線から離れられる」


 皆は僕の言葉に頷いてくれる。

 地下よりも怖いのは、帰る場所、生きるための設備である船を失う懸念。

 そういった意味では、船や皆を失い、誰か一人生き残っても敗北だ。


 でも僕は、船や皆や、僕自身の存亡よりも、船の中にいるメロンの命を案じているのかもしれない。

 船の修理に拘るのはそれが理由だ。

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