第76話 決死の修理隊
「理想論だろうがなんだろうが、やることはそれ一択だろ? 俺がフル装備で外に出て駆逐してる間に船を修理すればいい」
アリオは僕の提言した「オークをやっつけて、その間に修理する」という概要を支持してくれる。
「その是非は置いておいて、ねえメロン、修理にはどのくらい時間がかかるの?」
「ロボットの修理予定時間は92分でした」
その間、ヤツらの攻撃を防ぎ続ける必要があるのか。
朝の戦闘内容から考えても、そんな長時間持ちこたえられるイメージが湧かない。
敵の総数だって確認できていないんだ。
「ずいぶんかかるのねぇ、交換手順の作業シートってある?」
サブリが難しそうな顔で聞く。
「少々お待ちください」
メロンは音声コマンドだろうか、小声で呟き、ファイルをホロモニターに投影する。
一般的なメンテ用マニュアルだろうか?
当該部品の交換手順が、文書と動画による解説として表示される。
傍から見るとその内容はちんぷんかんぷんだがサブリにはお茶の子さいさいな内容なんだろう。
サブリはひとしきり内容を確認すると、また難しそうな顔で悩む。
「どした? 便秘か?」「そうそうもう三日も、って違うわよ!」ノリがいいな。
「これ、修理専用ロボの場合でしょ? さっき見たの汎用整備ロボだったよ?」
「専用機の在庫がありませんので……」サブリの質問にメロンが寂しそうに笑う。
「汎用整備ロボット君では能力不足なのか?」
「能力はあるけど専門特化してない分、作業工程に時間がかかるのよ。専用工具も内臓式じゃなく、マニュピレータで持ち替えたりするのね。だから92分もかかる」
「現状の設備で運用するしかないのだから仕方ないでしょ?」
「あたしなら、半分以下の時間でできる」
エフテの苦笑に即答するサブリ。
「その根拠は?」アリオが食い付く。
「エンジニアとしての本能としか……ざっと交換プロセスを頭の中でシミュレートしたんだけどね、アシスタントがいればって前提になるけど、たぶん30分くらいでできるよ」
「メロン、修理ロボの生産にどのくらいかかるの?」
「二日ほどです」
「アリオ、30……40分、持ちこたえられる?」
「質問しなくていい。60分持ちこたえろって指示をくれ」
「皆に聞くけど、作戦の概要、聞く?」
エフテの問いかけに、五人が頷き、少し遅れてメロンも首肯する。
こうして、決死の修理大作戦が始まった。
―――――
「何も無いんだね」
「みんなガレージの中なんだろ?」
「見られちゃまずいものでもあるんだろうか」
「エイジスとか触られたくないんだろ?」
僕とアリオは閑散とした格納庫を歩きながらそんな会話をしていた。
「こんな状態なら、レベル6まで引っ張って解放する必要無いよね」
「そうでもないぞ? 大型艦載機が高レベルで解放される設定なら、そもそも携行出撃はできず、格納庫から発進だろ? ほれそこの床、カタパルトレールだろ?」
正面、幅8メートル、縦6メートルほどのシャッターは発進口だろう。
その下にまっすぐな溝が二本。
なるほど射出型のカタパルトに見えるな。
そのまま歩いて来た後部を見渡す。
発進用の空間がずっと奥まで続き、その左右に10箇所ずつ、約4メートル四方のシャッターがずらりと並んでいる。
その中がガレージ。
エイジスを初めとする艦載機が保管されているんだろう。
「上も発進口があるな」
アリオの指摘に目線を上げてみる。
この船が岩場に埋まっていたとき、ドローンやエイジスが発進した場所かもしれないな。
「それで、ご所望の装備はどこだ?」
レベル5までの武装をノーポイントで使用できる。
そんなメロンの譲歩によって成立した作戦。
とは言え、敵の強度や総数が不明である以上、持てる戦力を自重せずに運用すると言う力技でしかないんだが。
通り過ぎてきたガレージの一つ、緑のランプが灯りシャッターが上がって行く。
「お、あそこか」
アリオがウキウキしながらそこに向かう。
僕もそこに向かいながら考える。
以前、地下に落ちた僕たちを助けるため、メロンはルールを棚上げして、様々な装備をアリオに託した。それらは結局、ポイントの引き落としも行われなかった。
ギガスの討伐報酬じゃないの? とサブリは言っていたが、今回のレベル5までの兵装を拠出してくれるという判断は、彼女が持つ自己采配権限の自由度を再び証明することになった。
それが何を意味するのか。
レベル制というものが、僕らが適時解放される武装を的確に取り扱える為の、練度上げなんて言われてもしっくりこない。
あの短刀の件で考えてみても、いったいどれだけ鍛えればいいんだよって話だ。
つーか、レベル10になったとしても適切な使い方ができなければ体はもたない確信がある。
じゃあ、レベル10にならないとエイジスが手に入らないというのは、どういう意味があるのか。
あれに乗れば、僕と短刀のセット以上の戦力が手に入る。
なぜ、今じゃだめなんだろう?
エイジスが5体あれば、この星を手中に収めることができる。
そんなメロンの言葉を疑うわけじゃない。けど、確かにギガスやオークレベルなら勝負にならないくらい強いだろう。
でも、まだ見ぬ上位種を倒すほどの、そこまでの圧倒的な強さがあるとは思えない。
レベル10とはなんなんだろう。
恐らく、兵装を適切に扱えるといった理由じゃない。
そこに至らなければ、エイジスに乗れない明瞭な理由があるのかもしれない。
「こいつなら棍棒の百本くらいなんとかなりそうだな」
アリオの声かけに思考を現実に戻す。
覗き込んだガレージの中には軽装甲機動車、まあLAV(Light Armoured Vehicle)ってやつが収まっている。
宇宙船の中にこんなタイヤ式の車両があると、侵略しに来ましたって実感を得られてなんともいえない気持ちになる。
それでも、現状を打破するために、幅、高さ共に2メートル、全長4、5メートルほどの金属製の車体は、ごついタイヤと凶悪な面構えもあり、なんとも頼もしく感じる。
「次は攻撃手段か」
装甲車の上部には銃座があるが、肝心な機関銃は用意されていない。
「そこが問題でな」アリオが苦笑する。
僕はあらためてリストを確認する。
・焼夷手榴弾
・サーモバリックグレネード
・ブーメラン
・回転式拳銃
・チェーンソー
・三節棍
・小刀
・防刃スーツ
・機械アシストスーツ
・大刀
・小型ミサイルランチャー
・電気グローブ
・狙撃ライフル
・短刀(キョウ専用)
・高振動ブレード
・連射式ボウガン
・パイルバンカー
・火炎放射器(射程10メートル)
・レーザー銃(射程10キロ。連射不可。5秒チャージ)
・10連装有線ミサイル(超小型20ミリ×100ミリ。手持ち、有線誘導)
・全天候強化スーツ(耐火、耐熱、耐冷、耐ショック)
・オフロードバイク
・ショックアブソーブシールド
・高機動シューズ
・4輪バギー
・Dドローン(直上待機、自動防御)
・水上バイク
・装甲車
・Aドローン(直上待機、自動攻撃)
さて、どんな選択がいいだろうか?
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