第69話 神速の代償
「で、サブリはなんて顔してんだよ」
「どうせ予想通りなんでしょ? 知ってたなら止めてくれればいいのに」
朝食にパイナップルを丸かじりするサブリは憮然とした顔で答える。
よく食えるな。固いし痛いだろうに。
「だいたい想像はつくけどさ、訓練によるポイントってどうだったの?」
居間に来たのは僕が最後なので、まずは情報収集だ。
なんで遅かったかは企業秘密だ。
「一時間ぶっ通しで、回避プログラムをやって6ポイントだそうよ」
エフテがテーブルのモニターにステータスを表示する。
キョウ―LV3:20000P
アリオ―LV5:40000P
エフテ―LV3:20000P
サブリ―LV3:20030P
プロフ―LV3:20000P
「おおすげえじゃん! 五時間もやったのか」
半日やってもウサギ一匹に届かないな。
「ふんだ。ポイントはいまいちでもさ、スコアは良くなったもんね!」
バリバリとパイナップルが姿を消していく。
「ポイントは抜きにしても、キョウは慣らしておいた方がいいぞ。訓練用の木剣があるから、回避じゃなく迎撃プログラムとかやっておけば体の負担は抑えられようになるぞ?」
「そうだね、考えておく」
「それとも俺と模擬戦でもやるか?」
「食べたらすぐシミュレーターに入ります!」
「あら、アリオと模擬戦なんていいじゃないの。サイクロプスやギガスも人型だったんだし、いい練習になるんじゃない?」
「エフテお前、コイツとやってみれば分かるけど、強いだけじゃなくスタミナお化けだから際限なくやらされるんだぞ?」
「キョウとやったこと無いだろうが。お前が寝てるときにみんなとは軽くやったけど」
「軽く?」プロフが驚愕の表情でプリンの載った皿を落としそうになる。
「アリオの教官体質は知ってるわよ。だからこそ打ち合いの練習をしておけば、不必要な速度で振らなくても済むんじゃない? 一振りごとに神速とか、腕が何本あっても足りなくなるわよ?」
強くなるための練習じゃなく、ダウングレードする練習?
「まあそうだな。オーバーキルじゃ燃費が悪すぎる。一撃で済ますのは前提だとしても、ウサギを殺るのに必要以上の高火力は必要ない」
「ところでさ、ポイント交換って結局どうするの?」
サブリは早々に工作室を諦めたのかもしれない。
「次の指令次第ね。今までより強い幻想生物が現れ、おそらくコウモリみたいに特殊効果を持つ個体も増えると思うわ。それを見極めてからね」
「毒、麻痺、眠り、暗闇とか?」
「いやゲームかよ」プロフに突っ込みを入れておく。
「分からないわよ。場合によっては魔法的な能力持ちもいるかもしれないわ」
「EMP攻撃なんてのもあるんだしな。俺たちの武装や装備はやつらにとって魔法みたいなものでEMP攻撃は詠唱禁止といったところか」
エフテとアリオも続く。
「それよ!」サブリが叫ぶ。
「どれだよ」
「やっぱり電子機器に頼らない武装が必要なのよ!」
「俺は大丈夫だぞ? ブラックホークの弾頭もギガスには通用した。中位種の中間くらいまではなんとかなると思う。そこでポイントを溜めて、エイジスに乗るぞ」
「エイジスも電子機器の塊じゃないの?」
「そこは手に入れてから悩むさ」
僕の指摘に爽やかに笑うアリオ。か、恰好いい!
飛んでる時にEMPをくらったら墜落するだろうけど、アリオなら平気そうだ。
「まあ、昨日も言ったけどサブリにはそこを頼みたいのよ。アリオとキョウは銃と剣があるから、わたしたち用の、どんなものがいいかしら?」
「私はこの前使った盾を強化してもらって、先端に刃を付けてほしい」
プロフも意外と武闘派なんだよな。
「わたしはクロスボウみたいなものかしら?」
「エフテの膂力だと弓を引けないだろ? 噴射型のミサイルかチェーンマイン、小型の内燃機関式チェーンソーなんかどうだ?」
ネタ装備ばっかりだな。
「かー、でもそのためには工作室が必要で、かー、早く外で稼ぎたい!」
サブリでも、動機がしっかりすると戦いの忌避感が薄れるんだな。
まあ、僕らの戦い方は、平地で、遠方から一方的に駆逐するやり方だから、そんなに危険も感じない。
地下での戦いみたいな特殊環境はそうそうないだろう。ないよね?
朝食後、僕らはなんとなく五人で娯楽室に向かった。
「それじゃあキョウ、がんばって」
なんとなく僕が訓練する流れに追い込まれた。
「難度自動の迎撃モード60秒からな」
アリオはそう言いながら僕に二本の木刀を渡してくる。
ご丁寧に、短刀の長さに揃えてある。
重さも似ているが、刃の先端まで伸びた感覚は味わえない。
あくまでも、手に持った棒だ。
一人、シミュレータの中。待機位置に立つ。
薄闇が地下の戦いを思い出す。
みんな外で観覧してるのだろうか。
良い成績を出すのと、無様な醜態を晒すのはどちらが正しい結果なんだろうか?
もちろん、手は抜かないけど。
『全方位迎撃プログラム作動。60秒間全方位から放たれる光弾を迎撃してください。素手で行う場合、打撲傷などにご注意ください。難度は自動調整。プレイ人数は1名。プレイヤー以外は室外へ退避してください』
合成音声が言い終わると、床の上、直径8メートルほどの光輪が浮かび、カーテンの様に天井まで伸びる。
両手の木刀を逆手に構える。
『開始5秒前、4、3、2、1、スタート』
ほぼ正面からまっすぐな光弾。
迎撃プログラムなので避けずに木刀を当てる。
最少の動きで軌道をずらす。
体への負担は最少で済む。
右斜め上から放物線を描く弾。
左前から浮き上がるような速い弾。
指先、手首、肘、動かしても肩まで。
体幹は動かさず、大地に根を張る。
光弾の気配は掴んでいる。
死角からの襲来も耳より早く皮膚が知る。
思考は不要。すべてはオートマチックに対応できる。
これじゃ訓練にならんだろう。
だが、シミュレータのモードも難度は自動調整だ。
同時に二発。弾速変化。最後には飽和攻撃とばかりに光弾のシャワーを浴びる。
適切な打突点を選び、弾かれた光弾の軌道で別の光弾を弾く。
一つの動作で複数の攻撃をつぶす。
一つも躱すことなく、全ての攻撃を迎撃した。
『プレイヤー、キョウ。トータルスコア98点』
「いやいや大したもんだ」アリオが拍手しながら入室してくる。
「プロフの記録抜かれちゃったね」サブリは隣を歩くプロフに語りかける。
「私は盾で受けただけ。面と点の違いだからキョウの方がすごい」
言いながらなんでそんな悔しそうなんだ?
「それで、ちょっと腕見せてくれないかしら?」
エフテに腕を取られる。
瞬間、激痛が走り木刀を落とす。
「いつっ!」
「あなたのことだから、動かさなければ大丈夫とでも思ったのかもしれないけど、最少の動きでも最速最大の力をかけてるの。瞬間的な仕事量はあなたの筋組織や骨格だともたないのよ」
折れてはいないけど、青黒くなった腕がグロい。
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