第67話 不協和音

「まあ経緯はともかく、実際、時間をかけてゆっくり攻略すれば良かったのかもしれないけど、あの装備でギガスに勝てたのは、アリオとキョウのおかげなのよ? 危機管理としてはストライキしたいレベルのお粗末さなんだけど」


「まあまあエフテ、そこはもういいだろ? 済んだことだ」


「アリオは楽観視し過ぎと思うけど」


「お前は過去に囚われ過ぎだ」


「元はと言えば、起き立てなのにガンガン連れ出されたのもどうかと思う」


「もうみんなそんな事よりポイント稼ぐ方法を考えようよ~」


 それぞれの個性が出るよな。

 意外と忘れずにねちっこいプロフ。

 済んだことをしつこく追及するエフテ。

 反省を少なめに、よく言えば前向きなアリオ。

 その先の欲求に素直なサブリ。

 やれやれ、大事なのは今だろうが。


「話を戻すけどさ、下位種から順番に倒していくと、最後に上位種が現れるんだっけ? 今回のギガスが下位種のボスってことでいいの?」


「はい。スタート時点を決める段階ではギガス規模のPPP反応はありませんでしたが、下位種の分布や個体数が多いことから、Sクラスの発生確率が高いと判断し、この地が選ばれました」


 僕の質問に少しだけホッとした顔でメロンは必要以上の内容を答える。


「それじゃ次の相手は中位種になるのか?」


 アリオがニヤリと笑う。


「下位、中位の混合になるかと思われます」


「そもそも、下位種のボスってこの惑星上に一体だけなの? ギガスでお終い?」


 メロンの答えに間髪入れずにエフテが聞く。


「……Sクラスは、段階的に数体現れるらしいです。この星のどこに現れるかまでは分かりません。よってPPP反応は、群体を主に検出しています」


「なるほど、Sクラスは、それっぽいところで活動を続け個体数を減らすことで発生する存在ということかしらね」


 エフテもじっくり思考しながら呟く。

 Sクラスは、僕らという異物の侵入に合わせ発生する抗体みたいなものか。


「私たちはウィルス……」


 プロフも同じことを考えたみたいだが、メロンはそんな呟きを無視して続ける。


「敵性体を大量殺戮兵器で一掃できない理由でもあります。Sクラスが発生するまで地道に活動を重ね、そうして出現したSクラスを倒さないと次のステージに上がれません」


「そこには何か規則性みたいなものはあるの?」


 腕を組んだサブリが問いかける。


「……それはなんとも言えません。あくまでもそういった行動指針に則って行動しているだけなので」


「いずれにせよ、PPP反応の調査が終わってから考えましょう。少なくともSクラスは今後も現れる。いつどこに現れるかは分からない。それに適切に対抗できる手段が整っているかも分からない。今回みたいに、何の準備も無く出会いがしらに遭遇して瞬殺されるってことはありえるって話でしょ」


「だから強くなろうって話だろ? ポイントを溜めて、レベルを上げてさ」


 エフテはこだわり、アリオも自説を繰り返す。

 キリがないな。


「でもさ、前にメロンが言ったろ? 「金色の羊毛」を守る上位種はエイジス五機で倒せるって。とりあえずそこを目指せばいいんじゃないの?」


 確か、理論上って注釈は付いてたかと思うけどさ。


「ラスボスだっけ? 人の前にしか姿を現さないとかって聞いたけど、そういった情報はそもそもどこに残ってるのかしら? 彼我戦力の類推ができるってことは、そこに至るまでの幻想生物の種類とか、強さとか、それこそSクラスの種類だって本当は分かっているんじゃないのかしら?」


「……作戦遂行に一番危険な要素は、既成概念です。実際に現場で、聞いていた話と違うとなった場合よりも、常に慎重に歩みを進めることも重要です」


「わたしは出撃前の成功確率を確実にしておきたいだけなんだけどね。ま、いいわ。実際に出撃するのはわたしたちだもの。お留守番のあなたに、その怖さは分からないでしょうけど」


「おい、エフテ!」


「気持ちは分かるけど担当が違う以上言っちゃだめ」


 思わず反応した僕に続いてプロフが嗜める。

 エフテは特に反論するでもなく毅然とメロンを見つめている。

 

「……あなたにも、皆が帰ってこない恐怖は分かると思ってました。一人ぼっちで待つしか出来ない、役立たずの気持ちは、理解できませんか?」


 そう言ったメロンは、とても自然な顔をしていた。

 嫌味でも自嘲でもなく、静かな悲しみを湛えた声だった。


「もうやめようよ~、とにかく調査結果が出るまでは保留なんでしょ? それまで少し、落ち着こうよ」


「仲間割れしてる場合じゃない……」


「ところで、PPPの調査は惑星単位で行ってんだろ? もし遠い場所に反応があったらどうするんだ?」


 サブリとプロフのフォローの後に、アリオがもっともな疑問を投げる。


「結果を確認した後、みなさんと相談して決めたいと思いますが、基本的にはこの船で移動いたします」


 そこもまあ、想定通りなんだけど。

 エフテは先ほどの発言を失言と感じているからか、珍しく会話に入ってこない。


「その場合さ、誰が操縦するの?」なので代表して聞いてみた。


「私?」プロフが少し嬉しそうに聞く。


「操縦室の解放がされていませんので、ワタシが行います」


「……ちなみに聞くけど、操縦経験はあるの?」


「ありませんが、大丈夫です。ワタシもきちんと役に立てる事を証明しないと……」


 メロンは少し思いつめた顔で呟く。

 そんなメロンを見て、皆もそれぞれが思いつめた顔をしていた。



 その後、メロンが退室すると我々の時間も動き出す。


「エフテがお留守番的な事を言うからメロンのやる気に火が着いたのかもしれないけどな、あいつに船の操縦って、大丈夫だと思うか?」


「Gコントロール、オートバランス、エアクラフター、イナーシャブレーカー、各スラスターと主機。後はジェネレータコントロール……船のAI無しでは難しいと思うんだけど」


 アリオの疑念にプロフが呪文を唱える。

 パイロットの専門用語だろうか。


「メロンだってAGIでしょ? そのくらいお茶の子さいさいなんじゃないの?」


「さっきのメロン、なんだかポンコツだった」


 サブリの意見は、プロフの言葉で信憑性を失う。

 それは皆がプロフと同じ印象を持っていたからだろう。


「わたしの責任かもね」


 あんなに落ち着きのない、良く言えば人間らしいメロンは初めてだった。

 それはエフテとやりあったからではなく、この部屋に来た最初からだったぞ。


「なあ、責任だとかなんだとかやめないか? 意見の違い、嗜好の違いなんてあって当然だろ? 何が正しくて悪いかってよりさ、たくさんの意見があったほうが確率を上げられる。エフテだってそう思うからたくさん考えて、言いたくもないことだって口にしてるんだろ?」


「キョウの味覚は許容できないけど……」


 プロフうるさいぞ。


「……キョウは優しいね」


 エフテは僕をまっすぐに見て柔らかく微笑んだ。

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