第66話 Sクラス

「というわけで、僕らはこの先どうしたらいいのかって話をしてるんだ。前にメロンも言ってただろ? 敵が少なくなったとき、このペースじゃレベル2になるのも時間がかかるって。現状は少ないどころか、ゼロだからさ、作戦行動に支障が出てる異常事態だと思うんだ」


 こっそり聞いていたとは思うけど、ここに至るまでの経緯を念の為伝えておく。

 情報は直接話す必要があると思ったし、そうしないと問題が発生するような予感があったからだ。

 メロンは真面目な顔で、いつもより真剣な顔で聞いている。


「補足するわね。前に船の自律行動の中に、PPPを検出できるセンサーが、50キロ圏内だっけ? それで調べてもらうことはできないのかしら? 今のままだと、バギーみたいな移動手段を確保しても何日、何か月ってレベルで時間を無駄にする可能性もあるんだけど。そこは管理者としてどう思う? 索敵のためだけに費やされる時間って有意義だと思う?」


 メロンはエフテに向いて聞いているが、少しだけ苦手意識が強いのか、何かを耐えるような顔をしている。

 そりゃあ、正当性はともかく自己主張だけでいきなり張り手をかましてくる相手の事は怖いだろうさ。


「あ、えと、まさかSクラスがいると思わなかったから、それを倒しちゃったから……次が、どこに発生してるかPPP反応を検索中で、あの、もう少し待ってください」


 ちょっ! 重要! みんな固まってるじゃん!


「S、そうだ。ギガスの番号、S01って、あれって何? Sって何? ヤツはなんであれを持ってたの? で、なんで消えちゃったの?」


 誰かに詰問される前に先手を取る。

 続く声は上がらない。

 しばらくは僕に交渉役を任せてくれるみたいだ。


「あ、えと、Sクラスはスペシャルのことで、敵の段階に応じて発生する特定個体で、それを頂点としたコミュニティを作る……ります。倒すと周囲の下位種は支配から逃れ散っていきます。ギガスというのは……キョ、キョウの戦闘ログで、そう言ってたから……なので使わせていただきました。お、斧の素材は分かりませんが古いものだと思います。ギガスの行方は、分かりません」


 いつもの流ちょうな話し方と違って、少しずつ考えながら話す内容を精査してるみたいだった。

 知ってる情報はいっぱいあるけど、話せる内容は限られている。

 態度でそれは分かるんだが……。


「どうしてそんなオドオドしているかはさておき、いくつか聞いてもいいかしら」


 ほら、怖いお姉さんが来た。身長141センチだけど。


「な、なんでしょう」


「情報は全部聞いておきたいけど、とりあえず、答えられる範囲内でいいから、そんなに構えないで。まず、わたしたちはどうすればいい? 外に出ても無駄かどうか教えて」


 メロンは少しだけ考える素振りの後、落ち着いた声で話す。


「説明するより、ご自身で納得行くまで調べてもらおうと思いました。が、先にこちらの状況を提示するのが筋ですね。先ほども申し上げましたがPPP反応を調べています。静止衛星によるスキャンになるので、二日程度である程度精度の高い情報をお出しできると予測しています」


「索敵用の衛星もあるのか」アリオが驚く。


「そりゃあるでしょ? 電力用の衛星、ナビ用の衛星、いざという時の攻撃衛星あたりは侵略には欠かせないんじゃない?」


 サブリの反応に、以前、電力送信用の衛星があるって聞いたことを思い出す。まあサブリの言うように、侵略しようって来てるわけだから、着陸前に軌道上に各種の衛星を配置するのも当たり前か。


「そうね。確かに、敵性体が何も残っていないなんて、先に聞いていても信じられなかったと思うわね。それじゃあ、わたしたちはその結果が出るまで待っていればいいのかしら?」


「はい。次の行動指針は、こちらからお伝えしますので、休まれるか、訓練するか。外に出る場合も自由ですが、二人以上で距離と時間は守ってください」


「分かった。それじゃ次に、この船の資源について。ドローンの残機。工作室、格納庫、操縦室の解放必要レベルを教えて」


「え、っと、資源に関しては生成プラントも稼働しているので、食事や嗜好品等は数百年レベルで維持できます。資材などには限りがありますが、武器、その他の装備の多くは完成品として残っています。皆さんの体の状態に合わせて解放していくのは、ご了承ください」


 そこまで言って、また少し考える。


「つ、次にドローンですが、共通ベースユニットは数百の単位で在庫があります。オプションパーツも豊富ですが、追加生産も可能です」


「はいはいはい! 質問! ドローンって改造しちゃダメ? あの騎乗装備って股が痛いんだよね~」


 追加生産が可能って話に反応したのか、サブリが食いつく。


「……標準、及びポイントで入手された装備品の改造は、ご自由に。ただ、改造した場合、標準のメンテナンスができなくなりますので、ご了承ください」


 メーカーのサポートみたいな応対だな。

 そりゃへんてこな改造されたらそこは自己責任だろうさ。


「それと、工作室は、レベル4で解放。格納庫は6、操縦室は8となります」


「お、それじゃ俺は工作室とやらに入れるってことだな?」


「え~いいな~。決めた! あたしもうポイント交換しない。レベル4目指す」


 アリオが喜び、サブリが決意を表す。


「わたしたちの方針はまた後で相談しましょ。次ね、Sクラスの敵って何?」


「エフテはもう少し柔らかさを覚えようぜ? 尋問じゃないんだから」


 僕がすぐ反応してしまうのは、メロンに対する擁護なのか、それとも僕に対する挑発と感じるからなのか、よく分からない。


「え、と、ワタシは大丈夫です。Sクラスは敵の段階に応じて発生する特定個体、簡単に言ってしまえばボスみたいな存在です。それを頂点として同じくらいのPPP値を持つ多様な種族がコミュニティを作ります。ボスを倒すと他の敵が逃げ去ります。ワタシの記録にはそうありますが、詳しいことは分かりません」


「それはさっき聞いた。でね「まさかSクラスがいると思わなかった。それを倒しちゃったから次を探す」ってあなたは言ったのね。アレがいるだろうって想定はあったんでしょ? そしてアレを倒すのが、想像だけど次のステージへ上がる条件だったとか? そのくらいは教えてくれても良かったんじゃない?」


「……皆さんの意識とやり方では、もっと時間がかかると思っていました」


 皆が僕を見る。

 僕が積極的でなかったこと。

 時間制限を知ってやる気になったことでSクラスが現れたの?

 え? 僕の責任なの?

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