第50話 地下の脱出行軍
地底湖を対岸までゴムボートで移動し、空洞に通じる亀裂を確認。
わずかな足場を確保し、先行してアリオが亀裂を潜る。
『おお、こいつはでかい空洞だな、それとヒカリゴケか? 照明が無くてもゴーグルの光量増幅で視界も大丈夫そうだ。一旦戻る』
共有された動画を確認すると、巨大な鍾乳洞といった風景。
ただ、地面は平坦じゃなく、起伏の激しい岩肌が目立つ。
戻ってきたアリオが所感を述べる。
「広大な空間と言うより、奥へ向かって続いてるって感じだな。歩きながらマッピングしよう、枝道は分からん。ただ、歩くのには一苦労だな。足場が悪いし滑りやすいから両手を空けておく必要がある」
「ゴツゴツした針山みたいな感じみたいね、とりあえず荷物を持って向こうに移動しましょう。その後、軽装で探索し、脱出路を見極め少しずつ荷物を運ぶ」
エフテの提案に反対する材料は無い。
皆、頷いた後、ボートやコンテナの荷物を空洞側に運ぶ。
亀裂はアリオが少し屈んで歩けるくらいで、距離は8メートルほど。
すれ違いもできないので、アリオには空洞側で哨戒をしてもらい、僕らがせっせと往復する。
「ドローンたち、なんとか向こうに運べないかな……」
僕とサブリが最後の荷物を持ち、サブリが地底湖の上で浮いているドローンたちを眺め、切なそうに呟く。
「もう電池が足らないし、
「知識はあっても工具が無いから分解もできないなんてさ、すっごい無力感」
サブリはため息を吐いて残念そうに言う。
それまでそんな素振りも見せていなかったから意外に感じる。
ここまで一緒に共にした戦友として見ているのか、それとも、エンジニアとして思うところがあるのかもしれないな。
僕だって、ドローンたちに申し訳なさというか、感謝の気持ちはある。
ただ、感傷だけでは生き残れない。
足手まといは、切り捨てなければならない。
「さ、もう行こう。みんな待ってる」
促すと、彼女は顔を上げ、ドローンたちを見回し告げる。
「みんなありがとう! またね」
それはなんの意味も無い、自分の気持ちに整理をつける自己満足な言葉だ。
でも、そんな彼女の気持ちは嫌いじゃない。
これ以上、情が湧いては大変だからな。
亀裂から空洞に入ってすぐの、わずかな平地で休憩を取る。
コンテナ三機分の荷物は意外と多く、今日は脱出の為移動する事より、周辺探索を行い、枝道が無いか確認する事になった。
「それでも早く脱出するため、アリオには悪いけど先行偵察をお願いしたいの。もちろん通信の届く範囲でね」
「任せとけ、できるだけ広範囲をスキャンしてくるよ」
ブラックホークを右腰、大刀小刀のセットを左腰に、電磁砲を背負ったアリオは軽快に走って行く。
「戦闘もすごいけどさ、アリオの場合、耐久性っていうか持久力が半端ないって感じがするのよねぇ。四六時中安心できるっていうか」
サブリが呆れとも感心ともとれる感嘆をこぼす。
ロボットじゃあるまいし、あいつだって完璧超人じゃないだろ。
ずっと一緒にいたから、離れることが不安なのは分かるけど、あまり神聖視するのもどうかと思う。ってのはヤキモチみたいな感覚なんだろうか。
「わたしたちもやれる範囲でがんばりましょ。手筈通り、左右二人ずつで」
僕らのいる空洞は、広いところで、左右と上に10メートルくらいの空間があり、 上から垂れ下がる鍾乳石、凸凹した左右の壁とゴロゴロした岩などで構成されている。
どこに脅威が潜んでいるか、また、どこに抜け道があるか詳細に調べる必要があるため自然に歩みは遅くなる。ドローンが使えない以上、ゴーグルのセンサーに頼るしかないんだ。
「よろしくね、キョウ」
「お手柔らかに。僕にアリオくらい頼り甲斐があればいいんだけどね」
チームを組んだサブリの笑顔に、念のため保険で言い訳をしておく。
つまりは、僕に頼りすぎるんじゃないぞ、と暗に言っているつもりだ。
「頼らないよ。むしろあたしを頼ってくれていいんだからね」
すごく自然な感じでそんなことを言うから、何か強烈な皮肉でも言われているのかと隣を歩くサブリの顔を見ると、何も考えてなさそうな顔をしていた。
僕らが向かって右側、エフテとプロフが左側、それぞれ岩肌の壁を調べながら歩く。
幸いヘッドライトの予備や交換バッテリーも、数週間分と多めにあるので、四人とも最大照度で遠慮なく照らす。
ゴーグルのセンサーも、アリオからの分も含め五人分の情報をまとめ、各自のゴーグルにフィードバックして詳細な空間描画を映し出す。
極端な話、真っ暗闇になったとしても障害物や足場をゴーグルが映し出してくれるのだ。
もっとも、簡単に移動できる石や、岩肌の脆さといった情報までは反映できないので過信は禁物だけど。
空洞は上下左右に曲りくねり、狭くなったり広くなったりしながら、500メートルほどまで足を伸ばしたところでアリオから通信。
『敵襲、多脚の蛇一匹』
短い言葉の後、シュウウウっと言う音がゴーグルから聞こえ、空洞の前方彼方からわずかな反響音が時間差で聞こえた。
『クリア、奥から来たみたいだ。そっちの探査次第で脇道が無ければ、ベースキャンプをこの辺まで進めていいんじゃないか?』
アリオはあっさりと脅威を片付け、何事も無かったように提案してくる。
「さすがね、分かったわ。ここまで特に収穫も無いから一旦荷物を取りに戻るわ。良さそうな宿泊場所を予約しておいて」
エフテもすぐに判断し返答する。
二人共、ホント頼りになるな。
僕は腰の後ろに並べてマウントしてある短刀の柄に触れる。
そうしていると、自分が役に立てない事を、喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか、モヤモヤした気持ちが少しだけ収まった気がした。
それからアリオの用意してくれたキャンプ地に、皆で数往復して荷物を運び、二日目は終わる。
「今日は夜更かしせずに一生懸命寝ましょう」
アリオが最初の哨戒を行い、僕とエフテは深夜0時に交替となる。
エフテは昨晩の反省もあって、無駄口を叩かず真面目に寝入った。
信頼されて嬉しい反面、あまりにも無防備な寝姿になんとも言えない微妙な気分になる。
それにしても、メロンはどうしているかな。
彼女にも趣味とか、空いた時間を消費する術はあるのだろうか。
何故だか暗い部屋でじっとしているメロンを思い浮かべて、自分の境遇も忘れ、寂しい気持ちになった。
いかんいかん、エフテの言う通り、今は一生懸命寝なくては!
そう思い、リラックスして羊を数えはじめるが、四肢に疲れとも違う違和感を覚える。
暗闇での不慣れな歩きが多かったからだろうか?
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