第48話 脱出開始
「で、お前の判断はどうなんだよ」
『作戦の可否ですか? わたしは100%を担保できない以上、立案するつもりはありませんが……』
「つまりは推奨しない、と」
『それ以前の問題でしょう。敗北、全滅、死、そういった結果しか算出できない計画は計画とは言いません。あなたはもう諦めるべきです』
「船団最高の指揮者であるお前の判断は重いね」
『聞く以前の話ですよね? なんでそんなにこだわるんですか?』
「金色の羊毛にか? そりゃお前、二人じゃ寂しいからに決まってるだろ?」
『もう一度言いますけど、前は数万人じゃ寂しいと言って、結果が今です。二人残った事を喜び、最後の希望と認識してください』
「でもさ、お前は間違ったじゃん」
『……』
「ああ、責めてるわけじゃないよ。作戦成功率100パーの作戦でこのザマだろ? 僕としてはお前が間違えることもあるって、少しホッとしたくらいなんだ。つまりこれが可能性ってやつ」
『100%の勝率は、不確定要素によって覆されることもありますが、0%の勝率は100%になりません。これは悠久の時間をかけて積み上げてきた歴史と、それが一瞬で崩壊することに良く似ています』
「んー、だからさ、100パーに拘らなくてもいいだろ? 結果として、死ぬか生きるかなら50%だから、分かりやすくていいだろ」
『確率の勉強をし直してください。……わたしは、あなたを、死なせたくない』
「へえ、キーノがそんなこと言ってくれるなんてな、生きてて良かった」
『……あなたに存在してもらわないと、わたしを観測してもらえない。あなたの存命こそがわたしの存在理由。だから、わたしはあなたを守りたい』
―――――
よく分からないけど、心地よい夢を見てご満悦だった僕に現実は厳しい。
「結局二人は哨戒任務をさぼったのね? ぐーすか寝かせてもらったあたしが言えることじゃないけどさ」
サブリは少し呆れた顔で腰に手を当てて言う。
「面目ありません」僕とエフテは、三人に揃って頭を下げる。
日付の変わった0時過ぎにアリオと交替したものの、エフテと二人でテントから出て並んで座っていたら、なんだか心地よくて身を寄せ合いながら6時間近くも眠り続けてしまった。
「まあまあサブリ、交替したところで俺はちゃんと耳を澄ませてたからな、そこは大丈夫なんだ」
いや、お前もちゃんと寝ておけよ。
つーか聞き耳を立てるなよ。
「お腹空いた……」
「ということで、エフテ、指示を頼む」
プロフの呟きに反応したアリオの言葉に、しょんぼりしていたエフテが驚く。
「なんで、わたし? リーダー失格も同然なのに……」
「いやいやいや、なんで寝坊ごときで大げさな」
「あのね、キョウ。ただの寝坊じゃないでしょ? ここは敵地で、わたしたちは遭難中。どんな選択だって生存確率に直結するから、普通の感覚じゃダメなの」
エフテは諭すように言う。
確かにそうかもしれないけど、この子は失敗を引き摺るタイプだな。後ろ向きとも言える。
「なんだか親密ねぇ、何があったのやら」
サブリが悪い顔で笑う。
何言ってんだお前は。
そう同意を求めようとエフテの顔を見ると、何故だか赤く染まってる。
「おい、熱でもあるのか?」
「なんでもない、大丈夫!」
アリオが心配し、エフテも慌てる。
親密な感じか、悪くないけど、家族愛に近い感覚なんだよな。
なにしろ肉欲が湧かない。
その後、非常食を摂りながらミーティングを行う。
「荷物をボートに積んで向こうに移動。残念ながらドローンは隙間を通れないから、装備は全部手持ちになるわ」
「結構な量だよねぇ」
「体重比で分けよう……」
エフテの説明にサブリとプロフが、げんなりと反応する。
「ドローンが使えないと、索敵能力がガタ落ちになるんだよな」
その索敵が待ちきれずに力技でここまで来たアリオなら大丈夫だと思うぞ?
「取れるだけの位置情報とかはゴーグルに移してあるわ。わたしたちが寝てる間も自律行動で隅々まで飛んでもらって、地上マップとの照合も出来てるの」
「さすがエフテ!」サブリが調子よく褒め称える。
ああ、この子はフィーリングで話すんだな。
楽天的と言うか、お気楽トンボと言うか。
「ここいらは地上のどの辺なんだ? っつってもあまり関係は無いか」
「関係の有無は分からないけど、これから向かう先はアリオたちが調査した岩山方面なのよね」
アリオの質問に答えるエフテは意味ありげに笑う。
「どーゆーこと?」サブリが首をかしげる。
「もう、サブリもアリオと調査に行ったでしょ? で006と散発的に戦闘になったのよね」
「調査も途中だったけどな、確かに何体かと戦った」
「わたしの推論だけどね、ついこの前まで大量に存在していた敵性体が急に少なくなった原因を考えた時、単純に全滅に近い状態に追い込んだ可能性もあったの。でも探索を続けた結果、示唆されていた地下空洞や水脈の存在が明確になった」
確かに、メロンからそれらの存在は指摘されていた。
詳細は調べろという話だったが。
エフテは続ける。
「こうやって地下や水脈、散発的に現れる敵性体、それらを加味して考えた時、彼らが少なくなった理由は、戦略的撤退かなって思ったの」
「アリオが倒し尽くしたわけじゃなくて?」
「生態系や食物連鎖がどうなってるのか分からないけど、倒し尽くしたとするとバランスが悪いのよ。戦闘記録で判断すると、001(ウサギ)より004(ピンクボム)や006(ロックリザード)を倒した方が多いくらいなの」
僕の倒した敵は圧倒的に001が多いけどな。
「で、つまり?」サブリは首をかしげる。
「004や006の食い扶持を賄うほどの弱い敵は豊富に存在しているはずで、そいつらは俺たちを恐れて隠れてる、ってことか?」
「うん。棲家とするそれだけの規模が地下にある。地上で見た事無い視覚が退化したような蛇がいて、そいつらに捕食される生物がいるってことは」
「地上に出る道もあるってことか」ふむ、納得。
「それが岩山とどう関係があるの?……」
「そこは勘だけどね。例えば雨が降ったとき、竪穴と横穴、プロフならどっちが住みやすい?」
「……そっか、納得」
「なるほど、さすがエフテ!」サブリが調子よく合いの手を入れる。
「よし、それじゃあさっさと準備するか」
アリオの一言で出発準備を始める。
僕はエフテに近づいて労っておく。
「みんなをまとめてくれてありがとうね」
エフテはキョトンとした顔をして柔らかく笑う。
「そんな風に思ってくれてありがと。ていうか、そこにしか道が無いから選びようがないのよね。で、その選択行動に皆が納得できる推論を当ててるだけよ。個人的には100%が担保されないと動きたくないんだけどね」
それでも、誰かが考えて判断してくれるってのはありがたい。
それは別に責任を負わせたいってわけじゃない。
時には何も疑わず動くことだって必要なんだ。
立案者に対する信頼を、表現するために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます