第46話 五人に増えた遭難者
要するに、ドローンによる捜索に時間がかかり、待ちきれないアリオが騎乗装備で穴に飛び込んだらしいが、乗ろうが待とうが捜索結果は変わらず、彼のイライラだけが募っていったらしい。
いくつかの穴を調べた結果、下方数百メートルに大空間があるという事が分かったが、そこに至る道が分からない。
穴は入り組んでいて、有線ケーブルがドローンの自由を奪っていたことも捜索が上手くいかない要因だったそうだ。
サブリにも騎乗を指示し、そんな先の見えない捜索が三時間以上も続き、アリオが切れた。
《下に大空洞があるのは間違いないんだ。ならさ、道を作ればいいんだろ》
「一応ね、止めたのよ? でも考えてもみてよ。こんなか弱いあたしがさ、こんな野獣をなんとかできると思う? その場でヤラれちゃってもおかしくない勢いだったんだから」
「……でもミサイルは無いわよね。地下空洞が崩落したらどうするつもりだったのよ」
エフテが呆れるのも分かる。
そう、遅々として進まない捜索活動に業を煮やしたアリオは、止めるサブリやメロンの声を振り切り、広間でミサイルを使った。
「結果として三人の救難信号が拾えたんだから御の字だろ」
「その代り広間は崩落し、コンテナと索敵一機ずつが埋まったのよね。で、埋まったコンテナにケーブルの予備リールが入ってたの」
「それで、みんな
崩落の危険もあり、開いた大穴にドローンごと飛び込むが、すぐにケーブルが足らなくなった。
アリオは躊躇なく、生きてるドローンのケーブルを外し、僕らの信号に向かって地下に向かった。
索敵情報から戦闘中であることを知ったが、内部電池の騎乗状態では安全のため低速運用しかできず、コンテナに指示し、僕のシグナルを辿り、装備をまずは送り届けたらしい。
それらの結果、電力も通信も絶たれ、ここにいる索敵とコンテナは電池が切れたら無用の長物になる運命だ。
「つまり、僕らを乗せて上がれる推力も無く、脱出不能。ねえ、なんで登攀用のロープなりワイヤーなりを広間に繋げておかなかったの?」
僕でも分かるぞ?
「あたしたちが大穴に飛び込んだ後、広間も潰れちゃったからね、どっちみち上への退路も無いの」
サブリは乾いた笑いをこぼす。
再会を果たし人員と補給物資を確保した代償が、あらためて逃げ場のない状況である、と。
笑えない。
「でも嬉しい……お腹いっぱい」
静かに非常食を貪り食っていたプロフが呟く。
そんな緊張感の無い姿に、みんななんとなく顔を見合わせ、笑った。
笑えない状況だからこそ、笑ったんだ。
「さて、反省会は船に戻ってから。とにかく脱出の方法を考えましょ」
「エフテは何か考えがあるの?」
サブリがおずおずと聞く。
「さっきからね、蛇かムカデみたいな敵が、地底湖からやってくるのよね」
暗い湖面を眺めエフテは答える。
なるほど、そういえばそうだよな。
「少なくとも、あいつが通れる通路があるってことか」
「どのくらいのサイズなんだ?」
アリオの問いに直径40~50センチほどの大きさを両手で表す。
「アリオはともかく、一部の女性陣は通れそうだろ?」
「キョウはなんであたしの胸を見るのよ!」
「どうしてわたしを見て、お前なら大丈夫だな、みたいな笑顔になるのよ」
サブリもエフテもうるさい。
客観的な判断は重要だろうが。
「最悪は、私とエフテちゃんなら行けるのね……みんな待っててすぐ迎えにくるからね」
プロフが本気とも冗談とも分からない一言をこぼす。
「まだなんとも分からないでしょ? まずはドローンに最後の仕事をしてもらいましょうか」
エフテはそう言って似合わないウィンクをする。
エフテ主導の元、女性陣がドローンを使って詳細な地形情報を収集する。
特に重要なのが、地底湖の対岸。
陸地が三日月型だから、この地底空間の全体像は、湖を泳がなくては分からなかった。
そこで、飛べるドローンが大活躍なのだ。
ついでに地底湖の水の中も出来る限りスキャンしてもらう。
僕とアリオは装備の確認だ。
「灯光器五台、ヘッドライト五つ、非常食48個、電磁砲の予備弾倉50発が五つ、それに短刀が二振り」
「こっちは、認証無しの電磁砲五つ、簡易アクアラング五つ、ロープや登攀装備一式、と。もう一つは、経口摂取用のナノマシンドリンクが五個。それとブラックホークの弾薬と、俺の小刀、大刀と医薬品、小型の盾と折り畳みのゴムボートか……あれ? 個人用ドリンクが無いな……そっか埋まったんだっけ」
アリオの語尾ははっきりしない。
コンテナ一機を置いてきちゃったから、責任を感じているんだろう。
「ライフルは持ってこなかったの?」
「洞窟内だからな反響とか危ないだろ?」
その背中に背負った10連装ミサイルランチャーを実際に使ったヤツのセリフとは思えないんだがな。
「それ、使用禁止だからね」
「ああ分かってる。俺もカタナでやるかな」
言いながら、小刀、大刀を左腰のアタッチメントで固定する。
「サムラーイみたいだね」
「なんだそりゃ」
「……いや、なんとなく、そんな師匠がいたような気がしたんだ」
一振りじゃ敵わなかった。
だから二本持った。
そんな単純な理由で、僕は……。
「装備はどんな感じ?」
戻ってきたエフテの声で我に返る。
僕とアリオで装備品の報告を終えるとエフテが一つ頷く。
「朗報があるの。地底湖の対岸に、ドローンは無理だけど人が通れそうな亀裂とその向こうに空間があるわ。と言っても、そこにしか道が無いというのが正確なところね」
「シンプルでいいな。すぐ行くか?」アリオが生き生きと問いかける。
「もう夜だからね、向こうの脅威が分からないし、こっちでゆっくり休んでからにしたいのよ。さすがに疲れたわ」
「さんせー」「同意……」
一緒に戻ってきたサブリとプロフも疲れたアピールで続く。
ずっと暗闇だから時間感覚も喪失してるけど、時刻は19時になるところだ。
「よし、じゃあ俺が見張ってるから、みんな先に寝ておけよ」
「サブリちゃん、水浴びしよ?」
プロフは引きつるサブリを引きずって湖に向かう。
「え、大丈夫なのか?」驚くアリオ。
「さっきも入ったのよ。地底湖の底にも亀裂や通り道は無かったし、対岸の亀裂にドローンを置いてあるから大丈夫だと思うわよ? でも念の為、わたしたちが寝ている間、アリオには監視をお願いしたいの」
「分かった。絶対に俺がみんなを守るよ」
アリオは笑う。
彼なりに責任感を感じているんだと思うけど、無理は禁物だ。
「じゃあさ、五時間経ったら起こしてよ。僕が代わるから」
「キョウだけじゃダメよ、わたしも起こして」
エフテの少し強い口調に、アリオも真剣な顔で頷いた。
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