第44話 閑話(地下迷宮大捜索)
30分も掛からず、メロンから竪穴に届けられたのは三機のコンテナドローン。
アリオとサブリは手分けして荷物を降ろす。
『今から装備の説明をします』
メロンの指示に従い、内容を確認しながら準備を進める。
まず全てのドローンを集める。
キョウたちに随伴した一機を除き、探索が三機、コンテナが五機。
『探索三機とコンテナ四機、全てに有線接続を。ベースにコンテナを一機、使用します』
ベースにするコンテナドローンを着陸させ自動アンカーで地表に固定。
リール状に巻かれている極細のケーブルを七本、ベースドローンの端末に繋ぎ、それぞれのリールごと、各ドローンに接続する。
「有線誘導とはな……」
『電磁障壁、障害には効果的です。リール一巻きで300メートル。そこまで行ったら継ぎ足してください』
アリオは手のひらに収まるケーブルが巻かれているリールをしげしげと眺める。
すぐさま、こんな対策が取れるメロンの手腕を褒めるべきか、こういった事態が想定されていたのか、いずれにせよ救出作戦の確率が上がるのは結構なことだ。
「これは、こう着ければいいのかな?」
サブリは索敵ドローンに吊りベルトのような装備を固定している。
要するに、乗れる装備らしい。
「推力、大丈夫なのか?」
『ケーブルで電力も送りますので問題ありません。500キロは懸架できます』
それにしても、と、アリオはコンテナから降ろした装備を見て呆れる。
食料、個人別の栄養ドリンク、医薬品、担架、ハンディライトや灯光器、潜水用具と電磁砲を初めとする各種武器や小型の盾。
その中に、気になる物を見つける。
「小刀、いや短刀か? なんだこれ」
『キョウのものです。渡してください』
メロンの答えは簡潔で、それ以上の質問を拒むような雰囲気を感じる。
あいつ、刃物なんて扱えるのか?
そもそも、ナイフを使っているところすら見た事も無いけど。
逆に、それ故にあの経験値なのか?
「アリオ、どうしたの?」
「あ、いや、なんでもない」
考えている場合じゃない。今は彼らを救出することが最優先だ。
何かを考えるのは、みんなで生きて帰ってからにしよう。
アリオは頭を振って、準備を再開する。
索敵三機の内、一機は先行させ、二機は二人が乗ることを想定し随伴する。
コンテナ四機に武器その他を満載し準備が整った。
「ベースキャンプの守りはどうする?」
『ベースのコンテナは、指向性放電銃とニードルガンで武装してます。装甲は物理防御も高く、耐酸性能も問題ありません。ケーブルの耐久も問題ありませんが、念の為の七本です』
「オッケー。サブリ、トイレは済ませたか?」
「へ? してないけど」
「我慢してそうな顔に見えたんだよ」
アリオは彼女の緊張を気遣うが、サブリはその緊張もあって冗談も通じない。
「な、もう、乙女になんてこと聞くのよ!」
「元気で結構。行くぞ」
サブリはそこで彼の気遣いを理解する。
それほど、闇の中に潜ることに恐怖を感じていたのかもしれない。
でも、その先に三人が待ってる。
ろくな装備も無く、あたしたちの救援を待ってる。
「うん、行こう!」
時刻は約12時。
大量の装備の確認と準備に手こずったが、それに見合う準備はできたと、二人は無理やり考えることにした。
横穴はたっぷりの照明もあり、洞窟という概念を忘れそうだった。
しばらく歩くと一人くらいが通れそうな横穴と、その穴に被さるような岩。
「岩がズレたような跡があるな」
「この中なの?」
「いや、ドローンが通れないし、これがメロンの言っていた横穴なんだろう」
ゴーグルのサブモニタには、先行する索敵ドローンからの画像が映し出されていて、E―003(コボルト)の死体が三つ。
「この先で003が三つ死んでる。これもメロンの情報通り。こっちの穴はヤツらの非常用通路なんだろう」
アリオは念の為、追加装備の臭気センサーでキョウたち三人のパーソナルスメルが無いことを確認し、催眠ガスを放出する手榴弾を放り込んでおく。
「前方警戒中に、後方から襲撃されたってことかな?」
「恐らくな、通信が途絶した付近でもあるらしい」
先行するドローンからの情報に、三人と一緒に不明になったドローンの情報は入ってこない。
二人は警戒しつつも早足で奥に進む。
先行するドローンから索敵情報。
奥にある開けた空間に潜んでいた、12体ほどの003が、煌々と照らしながら、悠々と飛ぶドローンに向かって襲撃してきた。
索敵ドローンに攻防機能は無いため、手筈通り全力で後退させる。
同時にアリオは電磁砲を腰だめに駆ける。
「サブリは後方監視! ゆっくりでいい!」
言い終わる頃、後退するドローンとすれ違い、引き連れてきた5体の003が視界に入る、同時に斉射。
射速を落とした軟性弾は、着弾と同時に潰れ広範囲に渡ってダメージを与える。
射程距離と貫通力を落とした代わりにストッピングパワーに特化した狭所用の特殊弾頭だ。
予備弾倉もセットし、装弾数は200発。
コンテナにはたくさんの予備弾倉も積んである。
それでも、崩落の懸念を考慮し最少の弾数で片付けることをアリオは心掛ける。
「一瞬だね」
追いついたサブリの呆れた声に答えず、アリオは先に進む。
この先の広間に003が潜んでいた。
それが何を意味するのかすぐに確認しなければならない。
待機していた索敵ドローンを再度先行させ、広間に進入後5メートルほどの高さまで上昇、最大照度で部屋を照らす。
ゴーグルに、キョウたちのドローンが最奥に居ることを示すシグナルがある。
「キョウ! エフテ! プロフ!」
三人のシグナルは無いが、アリオは叫ばずにいられなかった。
その遠慮のない声に物陰から身を躍らせる7体の003。
彼らは一瞬の後に肉塊と血だまりに代わり、広間には耳が痛いほどの静寂が訪れる。
特に声も発せずに、二人は周辺を調査する。
『アリオ、キョウたちのドローン、行動ログを取ります』
メロンが遠隔で待機状態のドローンを再起動しデータを取得している間、二人は広間の構造を確認する。
『映像は不明瞭、ここに駆け込んできてすぐにシグナルが消失しています』
「ああ、こいつらのどこかに落ちたんだろう」
広間の床は通路から一段下がり、傾斜となって、その先はまるで蜂の巣の様な大小さまざまな穴が口を開けていた。
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