第34話 班編成
「今日は二班で動いてみない?」
朝食の席で皆に声をかける。
「珍しいな、キョウがやる気を出している」
アリオに驚いた顔をされる。
というか、皆が驚いている。
「なんだよ、みんな変な顔して」
「あなたはプロフと同じ慎重派だと思ってたわ」エフテが意外そうな顔。
「慎重と臆病を一緒にしないで……」
続くプロフの呟き。
あ、それは少し傷付いたんですけど。
「プロフ、少なくともキョウは一番に起きて一人で活動してたのよ」
「ごめんなさい……失言でした」
エフテに諭されたから謝ったわけじゃない。
プロフは言ってすぐハッとした顔をしてたんだ。許そうじゃないか。
「いや、いいよ。石橋を叩いて渡らない活動をしてた自負はあるんだから」
ちょっと、人がせっかく自虐風に省みてるんだから淀んだ空気を戻せ。
「二班って、具体的にはどうするの?」サブリが声を上げてくれる。
「戦力バランスを考えて、僕とエフテ。アリオとサブリとプロフの三人。この二チームでどうかな? チーム間距離は最長でも1キロをキープして、4時間で一度合流して再調整する」
「俺たちの方が戦力的に強い気がするけど、合流時に再検討すればいいか」
「いいんじゃないかな。それでやってみましょ。サブリとプロフもそれでいい?」
「いいよ。アリオを利用してがっつりポイント稼いじゃうもんね」
「私は……ううん、それでいいです」
プロフは先ほどの軽口が気になってるのか、ちらりと僕を見た。
「それとメロン、標準装備に追加してほしい装備があるんだけど、いいか?」
起床予定の隊員がみんな起きたからだろうか、朝晩の食事時、すっかりメロンも同席するようになっている。
それは六人目がすぐに目覚めない事の証明なのかもしれないけど。
「ご期待に沿えるか分かりませんが、聞くだけ聞きます」
きっと要望に応えてくれる。
だって、メロンは少しだけ嬉しそうな顔をしている。
僕がやる気になっているのは、ホムンクルスの耐用時間の三年までに片を付けるって意思表示なんだから。
――――
「これが追加装備か」
出撃準備の際、最後に出てきたリュックタイプのバッグを開けて中を確認する。
灯光器、ヘッドライト、ワイヤーロープ、ウィンチ、カラビナやハーケン各種。これが五人分。
「一応、希望通りのものを用意してくれたね」
「しかもポイント消費無しとは、サービスがいいな」
地下に潜れる装備が欲しい。
僕の曖昧な希望にメロンが応えた結果だ。
軽く検分を済ませ、先に出ていた女性陣と合流する。
「おまたせ」
「装備は貰えたの?」
「まあね」
「これから必要なモノがあればキョウに頼めばいいのね」
「……あのさぁ」
「ごめん、冗談よ」
エフテはどうにも僕らの関係が気に入らないのか、ちょいちょいトゲのある余計なひと言を言うんだよな。
「じゃあ、荷物を分けて、俺のチームは真東、あの岩山を目指そう。そっちは」
「わたしたちは、東南東、岩山の右側、少し窪んだ場所を目指すわ」
朝食の席で相談した結果をエフテが応える。一応こっちはチームエフテだ。
「どちらも4キロほどの距離か。じゃあ、出発しよう」
しばらくの間は並んで歩く。
平地に降りた辺りで合図して距離を取る。
ドローンは、それぞれのチームで索敵とコンテナが各一機。
各チームの中間地点に残りの索敵ドローンを自動配置する構成だ。
全機とも下から見上げると青空の中に点として見える。
『エフテ、プロフがやっぱりそっちのチームがいいらしい』
相対距離が数十メートルになり肉声の届かない距離でアリオから通話。
「どうしたの?」隣を歩くエフテが返信しながら僕を見る。
『こっちだと歩くペースが速いそうだ。歩き慣れないからしょうがない』
アリオが175、サブリが165、プロフは150だったか。
たしかにこっちには141のちびっ子がいるから、歩幅は短い。
「了解、戦力バランスも悪くないからね」
エフテが簡潔に了承する。
どちらのチームも歩きながら、すぐにプロフが小走りに合流してくる。
「ごめんね、わがまま言って」申し訳なさそうに頭を下げるプロフ。
「大丈夫よ。遊びじゃないんだから、我慢や不満は解消しておいたほうがいいのよ」
「昨日の疲れとか残ってるの?」
「足裏とか筋肉痛とかは一晩寝たら治ったけど、あの二人、脚が速くて……」
プロフは少しだけ自虐めいた苦笑をこぼす。
予想通りか。しかもあの二人、せかせか歩くから付いてくのは地味にキツイ。
「アリオも索敵に余念がないから全体観察は苦手なのよね、サブリは経験が足らないから判断を放棄してるし」
その点エフテはさすがだ。
みんなの特徴をちゃんと捉えてるし、常にバランスを考え、状況に対し適切な判断を行ってる。いや行おうと努力してるってのが正解か。
索敵アラーム。
進行方向基準で40°方向、距離1000にE―003の反応。
「003、コボルトね、プロフお願い」
敵数は一体。周囲は全長数メートルの岩の小山が点在していてそれが遮蔽物となって視認はできない。
エフテの指示で前に出たプロフは電磁砲を構える。
「視認できても出来るだけ接敵しよう。向こうにはまだ気付かれてない」
遠方からの射撃が外れた場合、相手が斥候の類なら逃げられ、仲間を連れてこられるとやっかいだ。
一撃で仕留められる位置まで近づこう。
僕の言葉を理解したプロフは頷きを返し、相手の進行方向側面に回り込む進路を進む。
僕ら二人も咄嗟の行動を阻害しない様、お互いが数メートルの距離を保つ。
ターゲットは元々僕らが目指していた窪地辺りに向かって移動している。
まっすぐ、等速度であることからヤツの目的は明瞭な移動と推測。
後方500メートルをキープ。
すでにゴーグルのズームで視認できている。
「約20秒後、遮蔽物の切れ間が射点」
エフテの指示でプロフが電磁砲を構える。
安定のためか、スリングベルトの肩を支点に、電磁砲を下方向に張っている。
機関銃の掃射ポーズみたいだけど、射線軸同期スコープだから出来る構えだ。
シュン!
視線トリガーは一切の予備動作が無いから撃つまでの気配も乏しい。
だから、発射音の直前に見えていたターゲットが視界から消えても、射撃中止と声をかけるのが遅れてしまった。
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