第33話 諦念と焦燥
結局、まばらに敵を倒しながら、北方向へ3キロ進み、東に1キロ移動し船に戻るという、ろくなマッピングもできないまま、五人で行う初めての行動は終わった。
キョウ―LV2:13350P→13420P
アリオ―LV2:35250P→36410P
エフテ―LV1:2840P→4150P
サブリ―LV1:0P→820P
プロフ―LV1:0P→660P
「一昨日まで、アホみたいに湧いてたのに……」
帰還して洗浄中、アリオは少し苛ついたように呟く。
まあ無理もない。
女性陣の経験値稼ぎを主にしていた訳で、アリオの出番は主に間引きだ。
それでも、これまでの数日から考えれば、今日現れた敵性生物の数は圧倒的に少ない。
活動範囲を広げたにも関わらず。
「今日行った場所が生息地じゃ無かっただけじゃない?」
「いや、岩肌の亀裂も多かった。地下への索敵が弱い俺たちを待ち伏せして強襲できる環境は揃ってるはず」
ちょっ、強襲って。
「時たま僕を斥候として前に出したよね?」
「ああ、キョウは大丈夫だ。俺とメロン、保護者が二人も付いているし、俺が後ろからライフルで準備してたしな」
アリオはニッコリと笑うが、それ、僕のことを釣り餌として考えてるよね?
もっとも、そんな囮作戦でも敵は増えなかった。
それに、新装備のミサイルやグレネードを試すこともできなかった。
―――――
「このペースだと、全員がレベル2に上がれるのって、ずいぶん先になりそうね」
今日の彼女の夕飯は、お魚天ぷら尽くしみたいだ。
それはいい。
飲み物が「天つゆ」なのが良くないと思うんだ。
「ちょっとアテが外れたな、流れ的には、この前の006? トカゲの大群とドンパチやるつもりでいたんだけどな」
アリオは、大盛りのホルモン丼をかき込みながら憮然とする。
ロックリザードの大群が来たら、僕ら死んでしまいますよ?
「あたし的には慣らしとしてちょうど良かったかな。移動距離も10キロ無かったし」
フルーツの盛り合わせを啄みながらサブリがのんびりと言う。
それにしても、長期睡眠から起きてすぐなのに、よく10キロも歩けるよな。
「私は疲れた……食欲も無いし」
「ザッハトルテのホールを抱えて食い散らかしている姿を見せられるこっちの食欲が失せるんだけどな」
僕が答えると全員に嫌な視線を向けられる。
正確には僕の、あんまんバーガーに。
「なんだよ」
「ねえメロン、カスタマイズ可能だからって、公序良俗に反するような猟奇的なメニューはエラーが出るように設定できないの?」
エフテは僕の左隣に座るメロンに呆れ顔で聞く。
「数少ない娯楽で、個人の嗜好は尊重されるべきですが、確かにキョウのチョイスは常軌を逸してます。皆さんの精神衛生の観点からも規制が必要かもしれません」
「お前だって焼きおにぎりバーガーなんておかしなモノを食ってるだろうが、なんだそれ、炭水化物の塊だぞ!」
「言いたいことは山の様にあるけどさ、食事は楽しく美味しくしようよ」
サブリに窘められるが、解せぬ。
ていうか、僕の食事をディスるのが恒常化してるのはいかがなものか。
こうやっていじめはエスカレートして、僕は拒食症になるんだぞ!
「話を戻しましょう。キョウとアリオの戦闘ログ、わたしの初戦などから考えてもね、今日の敵の数は少な過ぎるのよ。これがたまたまならいいのだけど、明日以降も続くと全員のレベルアップに非常に時間がかかると思うの」
僕的には言いたいことがあるんだが、エフテが話題を変える以上従わざるを得ない。女教師属性だから。ちびっこだけど。
「なあメロン、前に計画が遅延してるって言ってたよな? このペースだとどうなるんだ?」
僕の頭越しにアリオが聞く。
「本日だけの行動ログではデータが足りませんが、本日の遭遇率のままですとレベル2まで20日程度はかかると思います。全体進行については、たとえレベル10になっても敵性体の種類や数によって状況は変化しますので一概には言えません」
「その割には、確か二年半だっけ? 具体的な数値が予想されてたみたいだけど、どんなデータを活用してるのかしら」
「惑星に於けるPPPの一般的な指標から推察しています。下位種が蔓延し、一から攻略する惑星の場合、最終的にどれだけの数値を消化するか、減算方法で目的までの時間を出します。単純に、作戦従事者の戦力値で割るだけですけど、その成長曲線によって大きく変化しますので、レベル10に到達するまでは、あくまで参考値として捉えてください」
「PPP、存在力指数だっけ? 要はそれを検出するセンサーみたいなのがあるわけでしょ? 半径50キロとかだったわよね。それを使えば効果的な索敵と討伐ができそうだけど」
エフテはよく覚えてるな。3Pってなんだっけ? なんて考えちゃったよ。
「先日お見せした船の自律活動にあるPPPセンサーは、あくまで船の防衛活動に利用されます。みなさんの討伐活動は、自力での索敵も経験になるんですよ?」
場合によっては船から遠く離れた場所で戦う可能性もあるから、頼りきりになる訳にもいかないんだろうけど、弱そうな敵が多い場所とか教えてほしいものだ。
「でも、まあ、俺たちもドローンがあるわけだしな、上手く使って索敵範囲を広げてみようぜ。場合によっては少し距離を取って二班に分かれるとかな」
アリオの言う事はもっともなんだけど、コイツの場合、わざと危険と隣り合わせになろうとする意識があるんだよな。恐らく、無意識に。
――――
「……ん、……あ……」
なんで僕が睡眠中の深夜に行為は始まるんだろう。
他の隊員に見つからない為?
でも、メロンが僕の自室に来ていること、他の誰も知ることはできないはずだから、こんなふうに僕が寝た後に現れなくてもいいのにな。
それとも、僕が行為に同意しない可能性も考慮してるのか?
でもその場合『さ、始めますから脱いで寝てください』なんてことになる訳で、ムードもへったくれも無いな。
……ムード? 医療行為になんでそんなもんが必要なんだろうな。
「僕らはこのペースで間に合うの?」
ぐったりしているメロンに聞いてみる。
夕食の席でメロンは明言を避けていた。
「……何年かかっても「金色の羊毛」を手に入れることが目的です」
つまりは、このままじゃ間に合わない。そういうことなんだな?
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